残された選択
歪んだ空間の中心で、
それは“人の形”をしていた。
だが人ではない。
近づくたびに輪郭が変わる。
剣のようにも見える。
記憶のようにも見える。
あるいは、
“後悔そのもの”のようにも見えた。
「来るな。」
グランの声が低く響く。
それはレインに向けたものではない。
その“存在”に向けた声だった。
だが止まらない。
それは一歩、また一歩と近づいてくる。
空間が軋む。
「……まだ終わってないのか。」
グランが呟く。
その声には、明確な感情が混じっていた。
レインは息を止める。
これは敵ではない。
そう直感する。
しかし“味方”でもない。
ただ、知っているものだ。
そのとき、その存在が口を開いた。
声ではない。
“思考がそのまま響いた”ような感覚だった。
「お前は……選ばなかった。」
レインは背筋が冷える。
グランは動かない。
その言葉を受け止めている。
「選ばなかった結果だ。」
存在は続ける。
レインは一歩下がる。
意味が分からない。
だが分からないままでも、
その言葉だけは重い。
グランが静かに言う。
「そうだ。」
短く。
肯定だった。
レインは目を見開く。
「グランさん……?」
グランは振り返らない。
「昔な。」
それだけだった。
その瞬間、
存在の輪郭がわずかに揺れる。
まるで反応するように。
「お前はまだ……ここにいる。」
グランはゆっくりと剣を抜いた。
レインは初めて見る。
この世界での“武器の意味”を。
だが同時に気付く。
これは戦うためではない。
“終わらせるため”のものだ。
レインは声を絞り出す。
「それは……何なんですか。」
グランは一瞬だけ止まる。
そして言う。
「俺が昔、止めたものだ。」
レインは言葉を失う。
止めたもの。
殺したのではない。
消したのでもない。
“止めた”。
その違いが分からない。
その存在が一歩踏み出す。
空間が強く揺れる。
レインの視界が一瞬だけズレる。
その中で、
無数の光景が見えた気がした。
誰かが進む姿。
誰かが止まる姿。
誰かが振り返る姿。
そして、
戻らない姿。
「ここではな。」
グランの声が響く。
「選んだものは残る。」
「選ばなかったものも残る。」
レインは震える。
「じゃあ……ここは。」
グランはその存在を見たまま言う。
「選択の墓場だ。」
その言葉と同時に、
存在がわずかに笑ったように見えた。
「お前は……まだ進むのか。」
グランは一瞬だけ目を閉じる。
そして開く。
「進む。」
即答だった。
その瞬間、
存在の輪郭が強く揺れた。
空間がひび割れるような感覚。
レインは理解する。
ここでは“言葉”が現実になる。
そして、
その選択は残る。
戻れない形で。
グランが振り返る。
「レイン。」
その声は静かだった。
だが重い。
「ここから先は、覚えておけ。」
レインは息を飲む。
「選んだものは消えない。」
グランは前を向く。
「それがラストライトだ。」
存在が一歩踏み出す。
空間が歪む。
そしてその瞬間、
グランが動いた。




