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戻れなかった理由

歪んだ空間の中で、


その“選択の残骸”はまだ動いていた。


だが先ほどよりも弱い。


まるで何かを“思い出し続けているだけ”のようだった。


グランは剣を下ろしていない。


しかし、すぐに動きもしない。


レインはその横顔を見ていた。


初めてだった。


グランという人間が、


“迷っているように見える”のは。


「グランさん。」


レインが呼ぶ。


グランはすぐに返事をしない。


数秒の沈黙。


そしてようやく言う。


「昔な。」


またそれだった。


だが今度は続きがあった。


「俺の師匠がいた。」


レインは息を止める。


師匠。


またその言葉。


「その人も……ここに?」


グランは首を振る。


「行った。」


「戻らなかった。」


短い言葉だった。


それ以上の説明はない。


だがそれで十分だった。


この場所では、“それ以上”は危険だと分かる。


グランは前を見たまま続ける。


「師匠は言っていた。」


「ラストライトの中心には、“答え”がある。」


レインは黙る。


また同じ言葉。


偽書職人も同じことを言っていた。


だが今は重さが違う。


「じゃあグランさんは……」


レインが言いかける。


グランはそれを遮らない。


ただ聞いている。


レインは続ける。


「それを確かめに?」


グランは少しだけ間を置く。


そして言った。


「違う。」


その一言で空気が変わる。


レインは息を飲む。


グランは剣を握り直す。


「俺はな。」


「師匠を追って来た。」


レインは固まる。


追って来た。


それはつまり、


“止められなかった側”ではなく、


“追い続けてしまった側”だ。


グランは静かに続ける。


「だが途中で気付いた。」


「ここでは“追うこと”に意味はない。」


レインは小さく聞く。


「じゃあ……何を。」


グランは一瞬だけ空間を見る。


そこには“何もない”。


だが確かに“何かがある”。


「選ぶしかない。」


その言葉は重かった。


レインは理解できない。


だがどこかで、


理解してしまうのが怖かった。


グランは初めて振り返る。


レインを見る。


その目は静かだった。


だが少しだけ疲れていた。


「お前はまだ戻れる。」


レインは息を止める。


「戻る?」


グランは頷く。


「ここから先は、戻れなくなる。」


その瞬間、


空間がわずかに揺れた。


“選択の残骸”が反応するように。


レインは気付く。


ここはただの場所ではない。


ここは、


“選んだ者の重さで変わる世界”だ。


グランが言う。


「それでも行くか。」


レインは答えに詰まる。


だが、


もう答えは決まっていた気がした。


レインはゆっくりと頷く。


「行きます。」


グランは一瞬だけ目を閉じる。


そして開く。


「そうか。」


その瞬間、


空間の奥で何かが“反応した”。


中心が、少しだけ近づいた。


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