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崩れた世界の内側

その“境目”を越えた瞬間、


レインは一瞬だけ視界を失った。


音も消える。


感覚も薄れる。


ただ“落ちる”ような感覚だけが残る。


そして次の瞬間、


世界が戻った。


だがそれは、今までの世界ではなかった。


地面がない。


空もない。


上下の概念もない。


ただ“広がり”だけが存在していた。


「……ここは。」


レインが言いかける。


声が遅れて届く。


まるで自分の声が自分に追いついていないようだった。


グランはすでに立っていた。


いや、


“立っているように見える”だけだった。


「中心の中だ。」


淡々とした声。


だがその声も、どこから来ているのか分からない。


レインは周囲を見渡す。


そこには“何もない”のではない。


正確には、


“何かがありすぎて認識できない”。


光のようなものが揺れている。


影のようなものもある。


だがそれが何かは分からない。


「これ……現実ですか。」


レインが聞く。


グランは少しだけ沈黙する。


「分からん。」


またその答えだった。


だが今はその言葉の意味が違う。


“分からないことすら成立しない場所”。


レインは一歩踏み出そうとする。


だが足元がない。


踏み出した瞬間、


その動作はどこかへ吸い込まれた。


「歩けない……?」


グランの声が響く。


「歩く必要はない。」


レインは混乱する。


ではどうやって進むのか。


その疑問に答えるように、


前方に“道のようなもの”が浮かび上がった。


いや、


浮かび上がったのではない。


“認識できる形に固定された”。


レインは息を飲む。


「これは……誰かが作ってるんですか。」


グランは少しだけ視線を動かす。


「そうだ。」


「誰が。」


グランはその先を見つめたまま言う。


「たぶん“ここに来たやつ全員”だ。」


レインは固まる。


「全員……?」


グランは頷く。


「記憶も、意思も、未練も。」


「全部が混ざって形になってる。」


レインは気付く。


ここは“場所”ではない。


ここは“蓄積”だ。


そのときだった。


遠くに何かが見えた。


それは人の形に近い。


だが違う。


揺れている。


崩れている。


それでも“見覚えがある気がする”。


レインは息を止める。


「グランさん……あれは。」


グランは一瞬だけ黙った。


そして言う。


「見るな。」


レインは反射的に目を逸らす。


だが遅い。


その“何か”は確かにこちらを見ていた。


声がする。


遠い。


近い。


どちらでもない。


「……まだ来たか。」


レインの背中に冷たいものが走る。


グランが一歩前に出る。


その瞬間だけ、


空間が少しだけ“整う”。


「まだ残ってたのか。」


グランの声は低かった。


初めてだった。


完全に“戦う準備の声”。


レインは初めて理解する。


ここは探索ではない。


ここは、


“過去と対峙する場所”だ。


その“何か”が動く。


空間が揺れる。


レインは一歩下がる。


だが下がる先もない。


グランが言う。


「レイン。」


短く。


鋭く。


「離れろ。」


その瞬間、


世界が少しだけ“歪んだ”。


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