表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/45

残された足跡

第二層の奥は、さらに静かだった。


音が消えるというより、


“音が生まれない”場所だった。


レインはその違いに気付いていた。


歩くたびに、


自分がこの世界から浮いていくような感覚がある。


前方に、まだ“あの人物”は立っていた。


グランが一瞬だけ足を止める。


それだけで、


空気が変わった。


「知り合いですか。」


レインが小さく聞く。


グランは答えない。


ただ視線を前に向けている。


その人物は、


動かない。


だが“見ている”というより、


“待っている”ように見えた。


やがてグランがゆっくり口を開いた。


「昔な。」


それだけだった。


レインはそれ以上聞けなかった。


その一言の重さが、


これまでのどの言葉よりも深かったからだ。


沈黙のまま数歩進む。


すると、その人物がわずかに動いた。


一歩。


それだけで空間が軋むような気がした。


「……まだ残っていたのか。」


グランが呟く。


今度は確かに、


感情が混じっていた。


その人物はゆっくりと顔を上げる。


そこにあったのは、


生きている目ではなかった。


かといって死んでもいない。


ただ、“終わりきらなかった何か”だった。


レインは息を飲む。


その瞬間、


その人物が口を開いた。


「……まだ行くのか。」


声は低い。


だが確かにグランへ向いていた。


グランは少しだけ目を細める。


「行くさ。」


即答だった。


その瞬間、


空気がわずかに揺れた。


まるでその言葉に反応したかのように。


レインは気付く。


この場所では、


“言葉”が軽くない。


発した瞬間、


何かが反応している。


その人物は小さく笑った。


「……変わらないな。」


グランも笑う。


「お前もな。」


それだけの会話だった。


だがレインには分からなかった。


この短い言葉の間に、


どれほどの時間があったのか。


その人物は視線をレインに向ける。


レインは一瞬だけ固まる。


「……新しいか。」


レインは答えない。


何を言えばいいか分からない。


その人物は少しだけ頷く。


「そうか。」


そして視線を外した。


その瞬間だった。


その人物の輪郭が、


少しずつ薄くなり始めた。


「待て。」


グランが言った。


珍しい。


レインは初めて聞いた。


グランが“引き止める声”を出すのを。


だがその人物は首を振る。


「もういい。」


その声は静かだった。


怒りも未練もない。


ただ、“終わった側の声”だった。


レインは理解する。


この人は、


戦っているのではない。


ここで“終わり続けている”。


その人物は最後に一言だけ言った。


「……先に行け。」


そして消えた。


まるで最初から存在しなかったように。


沈黙。


風もない。


ただ空間だけが残る。


レインはグランを見る。


グランはしばらく何も言わなかった。


やがて歩き出す。


「行くぞ。」


それだけだった。


レインは後を追う。


しばらく歩いたあと、


レインは小さく言った。


「今の人は……」


グランは少し間を置いて答えた。


「昔、一緒に行ったやつだ。」


レインは息を止める。


「一緒に?」


グランは頷く。


「途中まではな。」


それ以上は語らない。


だがレインは理解してしまう。


“途中まで”という言葉の重さを。


第二層の奥に進むほど、


世界は静かになっていく。


そしてレインは確信する。


ここは迷宮ではない。


ここは、


**“終わらなかった選択の残骸”だ。**


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ