中心へ続く道
第二層のさらに奥へ進むにつれ、
空間は“方向”を失っていった。
右も左もない。
上も下も曖昧になる。
それでもグランは迷わず進む。
レインはそれについていくのがやっとだった。
「グランさん。」
レインが呼ぶ。
「なんだ。」
「どこへ向かってるんですか。」
グランは少しだけ間を置いた。
「中心だ。」
即答だった。
レインは足を止める。
「中心?」
グランは振り返らない。
「ラストライトには“中心”がある。」
「そこに何があるんですか。」
グランは少しだけ黙った。
その沈黙が長かった。
やがて、短く言う。
「知らん。」
レインは眉をひそめる。
「知らない?」
グランはようやく振り返る。
その目は、いつもより少しだけ重かった。
「誰もそこまで正確に到達していない。」
「でも“ある”と言われている。」
レインは息を飲む。
「あるのに、誰も行っていない?」
グランは歩き出す。
「行ったやつはいる。」
「戻ってないだけだ。」
その言葉は、いつもより深く響いた。
しばらく進むと、
地面が変わっていた。
黒ではない。
白でもない。
“灰色”というより、
何かが混ざり続けているような色。
そこに、
道があった。
明確な道ではない。
しかし確かに“進む方向”だけが存在している。
レインはその道を見つめる。
「これが……中心へ?」
グランは頷く。
「たぶんな。」
レインは歩き出そうとして、
一度止まる。
「グランさん。」
「なんだ。」
レインは言葉を選ぶ。
「なんでここに来たんですか。」
グランは一瞬だけ止まった。
その瞬間、
空気が変わる。
ほんのわずかに。
だが確かに。
レインはそれを感じた。
グランはゆっくりと歩き出す。
「昔な。」
「師匠がいた。」
その言葉に、レインは反応する。
師匠。
あの父親の師匠と同じ響き。
グランは続ける。
「そいつは言っていた。」
「ラストライトの中心には、“まだ誰も見たことのない答え”がある。」
レインは黙る。
「答え……」
グランは首を振る。
「俺はそれを見に来たわけじゃない。」
レインは顔を上げる。
「じゃあ何を。」
グランは少しだけ間を置く。
そして言った。
「確かめに来た。」
「何をですか。」
グランはレインを見る。
その目は静かだった。
だが確かに、
“覚悟”があった。
「俺があの時、間違えたのかどうかだ。」
レインは息を止める。
それ以上は聞けなかった。
歩く。
道は続いている。
しかしその先は見えない。
ただ“引き込まれるように”続いている。
レインは気付く。
ここから先は、
単なる探索ではない。
何かを“回収する場所”に近い。
グランの背中が、
少しだけ遠く感じた。
それでもレインはついていく。
理由は分からない。
だがもう戻る理由もなかった。
そして道の先に、
何か“輪郭のようなもの”が見え始める。
グランが小さく呟く。
「来たか。」
レインは目を凝らす。
それは扉でも、建物でもない。
ただ、“存在してはいけない形”だった。




