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過去の英雄たち

第二層へ進む扉を抜けた瞬間、


世界は変わっていた。


正確には、


“変わった気がした”のではない。


レインは確かに理解していた。


ここは先ほどの場所ではない。


空気が違う。


重さが違う。


「ここは……」


レインが呟く。


グランは歩き出す。


「第二層だ。」


地面は黒く、


しかしところどころに白い痕跡が混じっていた。


まるで何かが焼き付いたような跡。


風はないのに、


遠くで何かが揺れている気がする。


レインは立ち止まる。


その時だった。


視界の端に“人影”が見えた。


「誰かいます。」


レインが言う。


グランはすぐには答えない。


代わりに少しだけ目を細めた。


「……残ってるか。」


「残ってる?」


その瞬間、人影は動いた。


いや、


動いたというより“再生された”。


輪郭が揺れ、


形が定まっていく。


それは人間だった。


鎧を着ている。


古い。


何十年も前のものに見える。


だがその目は、


まだ何かを見ていた。


「生きてるんですか。」


レインが一歩下がる。


グランは静かに言った。


「分からん。」


その男は剣を握っていた。


そして何も言わず、前を見ている。


レインは気付く。


その視線の先には何もない。


ただ空間だけが広がっている。


「何を見てるんだ……」


レインが呟いた瞬間、


男は一歩踏み出した。


そしてそのまま、


何もない空間に剣を振るった。


空気が裂ける音がした。


次の瞬間、


男の姿は消えた。


最初からいなかったかのように。


レインは息を飲む。


「今のは……」


グランは少しだけ黙った。


そして言う。


「昔の侵入者だ。」


レインは振り向く。


「昔?」


「ラストライトに入った者たちだ。」


その言葉に、


背中が冷える。


「じゃあ今のは……死んだ人ですか。」


グランは首を振る。


「違う。」


「ここでは“終わった瞬間”が残る。」


レインは理解できない。


だが理解しようとするほど、


頭の中がずれていく。


「過去が……残る?」


「そうだ。」


グランは前を見たまま言う。


「そして繰り返す。」


その言葉と同時に、


別の影が現れた。


今度は二人。


いや、


三人だったかもしれない。


彼らもまた、


同じ動きを繰り返している。


進み。


止まり。


戦い。


そして消える。


まるで壊れた記録のようだった。


レインは立ち尽くす。


「これ全部……」


グランは一度だけ息を吐いた。


「英雄たちだ。」


レインは振り返る。


「英雄?」


「ラストライトに挑んだ奴ら。」


その言葉は重かった。


レインは初めて気付く。


この場所には、


“戻れなかった人間”が積み重なっている。


記録ではない。


物語でもない。


ただの“残滓”。


グランは静かに歩き出す。


「気にするな。」


「見えるだけだ。」


レインは歩きながら問う。


「見えるだけ、ですか。」


グランは少しだけ笑う。


「見えるだけだ。」


だがその声には、


わずかな沈黙が混じっていた。


しばらく進むと、


再び扉が見えた。


しかし今回は違う。


扉の前に、


誰かが立っていた。


レインは息を止める。


その人物は、


何もしていない。


ただ立っている。


それだけなのに、


異様に“重い存在感”があった。


グランはその人物を見て、


一言だけ呟いた。


「……まだ残ってたか。」


レインはその横顔を見た。


初めてだった。


グランの表情が、


ほんの少しだけ揺れたのは。


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