19.ダンジョンに挑戦! その九
パチパチと音を出して弾ける薪を見ながら、私は焼網の上で焼き上げられる肉を見ていた。
「初日だし、豪勢にステーキといきましょうか」
そう言って、サナティスは豪快に肉を焼き上げていく。何とか最深部へと辿り着き、疲労困憊のなかでの調理であるから、今日の夕食は肉とパンだけ。
装備の確保のためにしばらく籠るのならば、手の込んだ料理はその時に。
「まだかな、まだかな」
「リル、もう少し待ってね。もしも暇ならソースでも作ったらどう?」
「焼肉のタレ?」
「折角のステーキにそれかいな!」
そう突っ込みを入れるアンミィであったのだけど、彼女は彼女でソースを作り出す気力はないらしく、塩でいいかぁ、と呟いた。
「こんな時には支援物資だよね。ユートさん、なにかソースを持たせてくれていないかな?」
確か、事前に送ってくれていたはず。スマートフォンを確認してみると、いくつかの市販品がリストにあった。
「オニオンソースがある」
私がそう呟くと、三人の間で沈黙が訪れた。
何故、その言葉で私たちが黙ってしまうのか。それは、最深部に入ってすぐのことだった。
「いったー。まさか木が地を這うようにして生えていて、その虚が落ち葉に隠れているなんて」
またまたうっかり穴に落ちた私は、お尻を擦りながら周囲を確認する。モンスターの奇襲はなさそうであるが、この場にじっとしていると第二陣が降ってきて下敷きになりそう。
慌てて立ち上がると、直後にはアンミィ、そしてサナティスが降り立った。
「中ボスからの間隔で言うと、ここが最深部でしょうね」
「思ったよりも早う着いたな。モンスターを無視しまくったせいやろか」
「ちょっともったいないかもしれないけれど、私たちの目的はここからだものね」
先ずはダーマ球の在り処を確認しよう。そうして歩き出した私達の目の前に立ちふさがったのが……。
「何あの玉ねぎ」
空に浮かぶ、世界一大きいカボチャくらいはありそうな玉ねぎだった。
「あれは、拙い、逃げるわよ!」
サナティスが、私たちの腕を引いて走り出す。
「そ、そんなに強いモンスターなの?」
「強いというより、嫌なのよ」
「嫌って、強くないなら倒せばいいやん」
アンミィの言葉に、サナティスは首を振る。
「あれは、中途半端に攻撃をするのが危険なのよ。強力な炎系の魔法で焼いてしまうのが手っ取り早いのだけど、私達ではおそらく足りない。で、そんな火力で攻撃をしてしまうと――」
ごくり。私達は息を呑んだ。
「刺激的なミストを放出して、物凄く目が痛くなって涙が止まらなくなる」
「それは、攻撃?」
「いいえ、嫌がらせ」
最悪なモンスターだ。
「だから、今は逃げるしかないわ。逃げて、他のモンスターを倒して装備を整えて、あれを倒せるようになったら、このダンジョンも卒業ね」
というわけで、私達は逃げた。逃げて逃げて、ダーマ球の在処を確認して、最深部に現れるモンスターの魅了発生条件を確認して、それでも逃げて。
そうして、私達は結界を張ってこの日の探索を切り上げたのだ。だから……。
結界に阻まれながらも、私たちを狙って離さない巨大な玉ねぎが、――背後に居る。
「……玉ねぎ、食べたい?」
「ちょっと無理」
「あれを倒せたときの、ご馳走にしましょうか」
その時は、盛大に揚げて打ち上げをしようか。




