14.ダンジョンに挑戦! その四
ダンジョンには、宝箱というものがある。
ショッピングサイトで買える物の中から、ランダムで一つ手に入るというものなのだけれど、もちろん、罠が仕掛けられていたりもする。
うっかりと木の虚に入ってしまい、一人、次の階層へと進んでしまった私の前に、それはあった。
それは、とんでもない罠だった。
虚から吐き出された私は、お尻から着地をした。よく弾む尻だ、なんて自分のことながら感動しながらわずかに飛び上がった私を待ち構えていたのが、その宝箱なのだ。
どうなるか、解るよね? 予想がつくよね?
「いったーいっ!?」
おでこが宝箱にごっつんこ、である。
ごっつんこ、なんて可愛らしく表現してみたけれど、のた打ち回るくらいにはしっかりと痛い。血は出ていないみたいだけれど、こういう時にはバリアというものに文句を言ってやりたいくらいだ。
基本的に、バリアはモンスターからの攻撃等と言ったものに限られる。だから、お尻の時も、こうしたおでこの時も。しっかりと痛いのだ。
モンスターの攻撃はバリアで無事だったけれど、弾き飛ばされて壁に背中からぶつけられたら、当然息が詰まる。
「くっそぉ。もっと融通きかせろよなぁ」
文句を言いながら立ち上がると、スマートフォンを手鏡にして状態を確認。商売道具を真っ赤にさせたままでは後が悪いので、ここは回復アイテムを飲んでおくことにする。
三角フラスコを片手に、腰に手を当てて一気飲み。ソーダ味が心地良い。
「ぷはー。生き返った」
リフレッシュしたところで、本題に入ろう。議題は一つ。目の前の宝箱をどうするか。
虚の空いた樹から一直線に伸びる道の真ん中。その配置自体が罠のようだけれど、それだけで済むものなのだろうか。
罠を調べる道具はあるけれど、それを持っているのはアンミィだけ。改めて買うのもいいだろうけれど、少しもったいない気もする。
「流石に、居なくなった私を探すだろうし、直ぐに降りてきてくれるだろう」
そんな独り言。
頭をぶつけたのだから、触れて発動する罠はないはず。そう判断をして、私は宝箱の上に腰を下ろした。
森は鬱蒼としていて、日はほとんど入らない。薄暗く、ジメジメとしている。なんだか、気が滅入ってくるようだ。
「本当に、良かったのかなぁ」
そんな環境で、一人きりだからだろうか。かつての選択が思い起こされる。
――幼い頃。ヤノタ様からゲームが終わった後の話を聞かされたことがあった。白紙の画用紙が、すべて黒く染まった後のことだ。
ゲームは第二段階へ進み、勝ち進んだ者たちが新たな世界を目指すらしい。
そこで、私はある疑問を投げかけた。
『ゲームが終わったら、この世界はどうなるの?』
ヤノタ様は、こう答える。
『次に進むお供を決めたら、彼ら以外はすべてリセットされるよ。世界もまた、俺が来る前に戻る。全てが始まった前に戻る』
私は、実家で巫女の仕事をすることもできた。
その仕事をしていれば、仮にそのタイミングでゲームが終わったとして、私は神に仕えるものとして、共に次のステージに行くことができた。
ならば何故、私は実家を離れることを選んだのか。
それは単に、許せなかったからだ。
自分が何もしていないのに、
ただ神に仕えているだけで、
次に進めることが許せなかった。
人にはそのプライドを見せるのが嫌で、さまざまな理由をつけるだろう。照れ隠しの面も見せるだろう。
それでも、私の思いは一つだけ。どうせなら、自らの手で掴み取ってやろう、と。
どうせゲームはまだまだ終わらないのだろうけれど、もしもその進み具合を加速させるような何かがあったとして、私は、それを成すのが自分でありたいと思った。
例え、そのせいで多くの人々がリセットされてしまうのだとしても、私がリセットされる側にはなりたくはなかったから。
だって、もしかしたら私に、次に進む人たちを選ぶ権利が与えられるかもしれないでしょう? MVPとかなんとかって、そんな特典があるかもしれない。
そんな夢を見ながら、この夢のような世界を駆け抜けたいのだ。
「うーん、なかなか来ない。あのコウモリ、そんなに強いモンスターだったのかな?」
戻って確かめようか。戻れるのだろうか。
試しに虚に近寄ってみると……。
「うわっ!?」
「わっ、あっ! えっ、受け止めてくへ……いったぁ!?」
吐き出されたアンミィを、華麗に避けてしまう無情な私なのだった。




