13.ダンジョンに挑戦! その三
ダンジョンに挑戦するにあたって、私には一つの目標を掲げていた。それは、アイテムを使わずに最奥まで辿り着くことである。
それはアンミィとサナティスがどう思っているかは関係なく、ただの個人的なもので、押し付けるつもりもない。いざ自分の決意を話すのも、なんだか恥ずかしいので、口に出してすらいない。
だって、こんな決意は必要のないものなんだから。
いくらバリアがあるからモンスターの攻撃は平気なんだ、と考えていても、石に躓いて転んでしまえば、当然場所が悪ければ擦りむくこともある。
足場が悪いところから落下して、打ち身をしてしまうことだって考えられる。
そんな時、アイテムがあれば瞬時に回復。おまけに寒いところなら体を温めてくれるようなアイテムもあるし、逆もまた然り。まぁ、その手の便利アイテムは何の躊躇もなく使うのだけど。
でも、回復アイテムは別。初めての挑戦だからこそ、気を引き締めていきたいのだ。
これは、ただの意地。
意味のない意地。
後になって自慢したいだけ。
それだけのために私は気合を入れて、ダンジョンに臨む。ゴツゴツとした木の根に足を取られないように、飛び出す木の枝に引っかからないように。
私は、ただただ慎重に足を運んでいく。
「……」
「そう落ち込まんと。油断することは誰にだってあるんやからね」
「そうよ。次から気をつければいいんだから」
生理的なことで、二人から少し離れたところに移動して屈んだら――、お尻に木の枝が刺さったでござる。
「痛かった。悔しかった。自分に虚しくなった」
まさか、まさか。こんなことで回復アイテムを頼ることになるなんて。というか、携帯用のトイレくらい用意しておけばよかった。
「なんで誰も携帯用のトイレを用意しないかなぁ」
「リルの事務所が用意していると思ったんよ。そしたら、特に支給されることなく送り出されたし」
「私はてっきり、リルが用意しているものとばかり」
まぁ、この中でなら私が言い出しっぺのようなものだし、私が用意すべきなんだよなぁ。
というか、ショッピングサイトで買えばよかったんだよ。携帯トイレどころか仮設トイレでも。それすらも忘れてさ。ほんとマヌケで、いっそ笑ってしまいたくもなるくらい。
はぁ。これも学びだと思って、あの痛みと恥は甘んじて受け入れよう。
「で、ものの三時間は優に過ぎたわけやけど、なかなか次の階層に繋がる虚が見当たらんな」
「分岐は常に地図に記して、虱潰しにしているから見落としはないと思うのだけど……。なかなか広い空間みたいね」
行き止まりになったら分岐に戻り、また行き止まりになったら分岐に戻る。
それを繰り返して三時間なのだから、広大としかいいようがない。おまけに生い茂る木に注意を図りながら進んでいるのだから歩みも遅く、更にはモンスターも現れる始末。
幸い、今のところそれほど時間がかかる戦闘には遭遇していない。けれど戦闘が終わったら探索。探索に集中していたら戦闘。それが続けばリズムも崩れ、イライラも募りやすいというもの。
こういう時は、気分転換でもしたいものだ。
「ちょっと気分転換でもしない? 縛りプレイというか、特定の武器だけでモンスターを倒してみる、とか」
「それ、気分転換になるんか?」
「探索に集中したいと思うから、戦闘が面倒くさくなる。ならいっそ、戦闘に集中してみたらどうかなって」
「一理あるかもしれないわね。探索が長く続くのなら、優先準備を変えてみるのもいいかも」
サナティスの同意が取れたところで、私が武器の指定をする。決意も新たに、と言うやつかな。回復アイテムの件は、これでなかったことにする。
森という環境もあって、私が選んだのは弓だった。弦を弾けば魔法の矢が番えられる魔法弓と呼ばれるものだ。
物理的な矢を用いる方が、矢の攻撃力が加算されるため威力が高くなるのだけれど、魔法弓はお手軽なのが強み。なにより、森に住むエルフっぽくて素敵。
「……いた、コウモリみたいなモンスター」
アンミィが見つけたそれは、高いところの枝にぶら下がるようにしてこちらを見ていた。
「散開して取り囲みましょう。それでそれぞれが攻撃して、ターゲットが固定されないように」
誰か一人がモンスターのターゲットになったら、すかさず攻撃して意識を奪う。そうしてモンスターの行動を支配しよう、というわけだ。
「よし、じゃあ私が矢を放ったら散開ね」
そう宣言して弦を引く。矢が生成され、私はそれを放つ。
よし、命中した。おまけに狙い通り、私に狙いを絞ったらしく、翼をはためかせて私に向かって急降下。すかさず、藪の中から魔法の矢がそれを捉える。
モンスターは弾かれて、体勢を崩す。
その隙に私はその場を離れ、木の根を飛び跳ねながら適当な木を背負うようにして立とうとすると――。
「おわっ!? ぎゃぁぁぁっ!?」
そこが虚でした。




