第二十五話
魔王城は、その周囲を森に囲まれている。鬱蒼と木々が生い茂り、昼間でも薄暗い。人の手が一切入らない、未開の地。今も古来よりの自然の掟が支配する。
そして、かの森は国の要塞の役割も果たしている。通称『魔力を秘めた森』と呼び習わされる所以。名の通り、不思議な力で半世紀以上も侵入者を拒み続けているのである。
『エトワール国 歴史書 第一篇 「魔力を秘めた森」 より抜粋 』
* * * *
ほぼ丸一日をかけ、薄暗い森を抜け魔王城にたどり着いたのは、日も傾きかけた昼下がりだった。
「お城・・・?」
「ははは、もう誰も住んでないからねぇ。大丈夫だよ。魔物もいないし、絶対崩れたりしないから」
深い森に突如として現れた城は果たして『魔王城』と呼ぶにはあまりにも粗末な代物だった。
ボロボロの城壁には幾重にも蔦が絡まり、朽ちてからかなりの年月が経っていることは想像に難くない。窓という窓は全て割れ、縁には蜘蛛の巣が張っている。
今にも崩れ落ちそうな城門をくぐり抜け、シキは城の玄関に足を踏み入れた。ジメジメとした空気と、古びた木の匂いが鼻腔を擽る。舞い上がった埃を吸い込んでしまい、思わず咳き込んだ。
「痛っ」
どうやら、その拍子に塵が目に入ってしまったようだ。チクリと痛む目を庇うように目を閉じた。
「大丈夫か?」
心配そうにこちらを気遣うナイトの声が随分と遠くに聞こえる。先ほどまで隣にいたはずなのに。
「はい。あの、ナイトさ・・・」
急に心細くなって、手を伸ばすが指先は虚しく空を描いた。気づけば、二人の気配がない。慌てて目を開くと、目の前に広がっていたのは信じられない光景だった。
目に飛び込んできたのは、眩しい光だ。白い豪華なシャンデリアが、煌々と照らしているのを見て、シキは何かの見間違いだと思った。次に視界に入ったのは赤い絨毯であった。玄関ホールいっぱいに敷き詰められた真紅の絨毯は所々に金の刺繍が入っており、城主の権威の高さを示しているようである。
「ここは・・・」
あまりの様変わりに見違えてしまいそうであるが、造りだけならば先ほどまで居た魔王城の玄関に相違ない。空間は変わらない。まるで時間だけ巻き戻したようだ、とシキは思った。それならば。
「・・・もしかしたら、誰かに会えるかもしれない」
ねじ曲がる前の世界に住んでいた誰かに。会って話ができれば、本当のことを知る手掛かりになるかもしれないのだ。
シキは辺りをキョロキョロと見渡す。ナイトさん、と小さく呼んでみたが応える声はない。どうやらこの世界に飛ばされたのは自分一人のようだ。
(・・・大丈夫)
一人で行動するな、とは言われたが立ち止まっていては何も変わらない。それならば、と彼女は一歩足を踏み出した。
(私のことだもの。頼ったらダメ。自分でなんとかしなきゃ)




