二十四話
世界を「視る」為には、まずその世界のことを詳しく知る必要がある。
言葉、食べ物、服装、習慣。たくさん、勉強はしたけれど。
(でも、一番は歴史を知ることだよね)
闇雲にあちこち回ったって無意味だろう。幸いなことに、歴史は好きな方だ。
そして、城の書庫で見た歴史書。その中に気になる一文を見つけ『あの場所』に行きたい、と思ったのだ。だが。
(・・・やっぱり、言わなきゃよかった)
絶賛、彼女は後悔していた。
* * * *
翌日、ナイトの元を訪れた。
「・・・魔王城に行く、だと?」
机に向かっていた彼は、書類を手に持ったままシキの方へ向き直る。眉間に皺を寄せ、ナイトは問い返した。
「はい。あの・・・えっと」
エトワール国は昔、魔族と呼ばれる種族と争った歴史を持つ。その歴史書を読み漁っていたら、繰り返し出てくる「魔王」という言葉に目が止まった。
「何故だ?」
「・・・争いがあったってことは、それは世界が歪む前の話ですよね」
魔王城は、古戦場跡である。争いがあったのは、まだ世界が可笑しくなる前の出来事。
気のせいだと言われればそれまでだし、むしろそっちの可能性の方が高い。
「確証は、ないです。でも、行ってみたら何かが分かるんじゃないかと思って」
そんな馬鹿な話があるか、と。自分でもそう思う。いつも忙しそうなナイトが、こんな馬鹿げた確証の為に動いてくれる訳がない。
怒られるのを覚悟で、ぎゅっと目を閉じたが彼の反応は予想外のものだった。
どん、と書類を置くと引き出しの中にしまい込む。椅子に掛けられた外套を羽織り、出掛ける準備を始める。
最後に剣を手に取ると、シキに問いかける。
「すぐに、か?」
「できれば、早めに。・・・あ、もし忙しかったら私一人でも」
呆気に取られていると、飽きれた顔で「一人は駄目と言われただろう」という返答が返ってくる。
「・・・良いんですか?」
「魔王は、もういないかもしれないが。・・・確かに、世界を知る手掛かりにはなるかもしれないな」
そう言って、ふっと笑ってみせる。
「・・・夕方までには、ここを発つ。それまでには」
ナイトの言葉を、最後まで聞くことはできなかった。
バン、と扉が開く。
勢いよく転がり込んできたその人物を見て、ナイトは眉を顰める。
「シキちゃん!酷いじゃないか、オレというものがありながら!」
* * * *
(・・・どうしよう)
眉間の皺を増やし苦虫を噛み潰したような顔をしたナイトと、涼しげな笑みを浮かべるルーク。どうしたものか、とシキは思案する。
「オレ護衛よ?オレが行かないで誰が行くってんだ」
「・・・シキは俺に頼んだ。お前の出る幕などない」
「ナイトには仕事があるだろ?・・・はは〜ん、さてはサボる気だな」
「今終わらせた。お前と一緒にするな」
「嘘ぉ!?・・・げっ、本当だ。このマジメ人間め」
一体どのくらいあったのだろう。
山積みにされた書類には全て目が通され、印が押されている。組ごとに仕分けられ、丁寧に引き出しの中に仕舞われているそれは彼の性格を現しているようである。
「・・・この堅物野郎」
「不届きな軟弱者よりマシだ」
「だいたい、可笑しいだろ!?どう見ても細かいシゴトができますってツラじゃな・・・痛たっ」
「うるさい黙れ」
鉄拳がルークの頭頂部を直撃した。
直後、ゴンッと痛そうな音が部屋に響く。
「思いっきり殴りやがったな!」
「残念な頭が、多少マシになるのではないかと思ってな」
・・・という具合で、不毛な言い争いは終わりそうにない。
(なんとか、しなきゃ)
決心して、大きく息を吸い込む。
「あ、あのっ・・・!」
動作を止めて目を見開いたまま、こちらを見返す二人。
シキは、彼らに一つの提案を持ちかけた。
「み、みんなで一緒に行けばいいんじゃないでしょう、か・・・」




