第二十二話
「・・・ねぇ、シキちゃん。君の目には、この世界はどう映ってるかな?」
しばしの沈黙の後、銀之助さんは静かな声でそう言った。
「・・・とても、良い場所だと思います。平和で賑やかで、人もみんな親切で」
少し考えて言った言葉に、また違和感を感じた。
何が可笑しい?否定する理由がどこにある?この世界は驚くほど平和だ。元の世界で感じた息苦しさも、一人取り残されたような空虚感も存在しない。でも。
「上手く説明できないけど、この世界は、何かが足りない気がするんです」
元の世界にはあって、この世界にはない何かが。きっとそれが「違和感」の正体なのだろう。
話を静かに聞いていた彼は、一つ頷くと満足げな笑みを浮かべた。
「可笑しいのは君じゃない。この世界の方だ」
「え・・・?」
この人は今、何と言ったのだろう。
世界が変?だって、自分は最近ここに来たばかりで。「異質」なのは自分の方だと思っていた。
「そうだねぇ・・・、例えばさ、何千何万という人間が住んでいて、ずっと喧嘩せずに暮らしていくことって、できると思う?」
「それは・・・」
無理、だと思う。
人間は一人一人違う。国籍も、性別も、生活背景も考え方も違う人達が一緒に住んでいて争いが起きないはずはない。
現に元いた世界だって、世界のどこかで常に戦争が起きているのだから。
「そう、無理だよね。争い事のない世界なんて、あり得ない」
そんな世界、存在したらいけない。
呟く言葉に首を傾げた。なぜ?争い事がない方がいいに決まってる。銀之助は首を振ると、口を開いた。
「・・・簡単に説明すると、ここはあり得ない世界なんだ」
「あり得ない・・・?」
「うん。ここには、どんな些細な争い事も差別も存在しない。・・・まぁ、聞こえはいいけどさ」
誰も争わなくていい。
傷つくことも、傷つけられることもなくて。誰かを憎んだり妬んだり。そんな感情さえ存在しない。そう。ここは、汚いものを全部取り除いた「綺麗な」世界。
ある意味、理想の世界だと言えるだろう。でも、と。彼は一旦言葉を止める。
「そんなモノ、成り立つはずがない」
あり得ない世界は簡単に壊れる。
ロクでもない奴が考えた。どんな犠牲を払ってでも、この世界を維持しようと。
脆い世界を存続させる為には、多大な犠牲が必要だ。価値のあるもの。例えば、人の命。そしてそれは、この世界にないモノでなくてはならない。
「まさか」
「・・・そ、御子の仕事は犠牲になること」




