閑話・とある騎士と商人の話
来客があった。否。客、じゃない。疫病神だ。こんな馬鹿みたいに忙しい時に来なくてもいいのにと思う。
「やぁ、お久しぶり」
金の髪に、緑の瞳。母に似た自分とは対照的な容姿をしている彼。どう見ても日本人離れした顔に「銀之助」なんて名前を付けるウチの両親のネーミングセンスを疑う。
(・・・ちっ、また来やがった)
そして、彼女をここに連れてきた張本人。彼女に会えたのは、本当に嬉しかったが・・・できればここには二度と連れて来て欲しくなかったのに。
「酷いなぁ。実のお兄ちゃんに向かってその言い方はないよね」
「俺は一言も話してない」
兄。一般的には俺達の関係をそう呼ぶ。しかし、一度たりとも兄弟と思ったことはない。
「ねぇ。いい加減、口で喋る癖つけたらどう?・・・僕は聴こえるからいいけどさ」
「そんなことだから他人と上手くいかない、か。・・・もう聞き飽きた」
知ってる。口で言わなければ伝わらないことなんていくらでもある。
他人と心を通わせるメリットが見出せない。こちらとしては別に上手くやっていけなくても関係ないので構わないのだが。
普段ならば、ここで嫌味の一つ二つ入る頃。なのに、今日はやけに静かだ。
いつも通り下らない説教を言いに来たのかと思ったが、今回ばかりはそうではないらしい。
「・・・何の用だ」
「残念ながら、キミじゃない。ねぇ、シキちゃんはどこ?」
「何かあるなら、俺から伝える。さっさと帰れ」
「・・・あっそう」
予想外の返答に、眉間に皺を寄せた。
帰れと言われて大人しく帰るような奴ではない。・・・何を考えている?こいつに限っては中身が見えないので、何を考えているか分からない。だから、見透かされた態度が余計に腹が立つ。
くるりと踵を返し、ドアに手をかけたところで彼がこちらを振り返った。
「構わないよ、勝手に会いに行くから。・・・そうだねぇ、やっぱり連れて帰っちゃおうかな。この世界さ、平和に見えるけど全然平和じゃないし」
・・・確かに、その通り。彼女には平和な場所で笑っていてほしい。それなのに。無理に連れてきたのはどこのどいつだと睨む。
「・・・でもさ、あの子これ以上耐えられないよ?だから、ここに連れてきたのに」
心を隠したまま生きていくのは苦しい。仮面は心を守る盾。と同時に諸刃の剣。身につけ続けて生きていくと、本当の自分が誰だったか分からなくなってしまう。それは、とても不安なこと。
昔々。あの子に渡した仮面は本当は自分のものだった。傷付いた彼女を見ていられなくて。壊れてしまうくらいなら、本当の自分を見失う方がまだいい。・・・彼女が分からなくなっても、自分がちゃんと知っているから。
自分を偽ることを知らなかった彼女にあれを与えたのは、俺の責任。だから、俺は彼女を守らなくてはならない。何に代えても、誰に恨まれても。
「・・・ここを動くな。彼女は俺が連れてくる」
勝手に会いに行って、好き勝手に何でも決められたら困る。それなら、まだ自分の前であれこれやってくれる方がマシだ。
彼女を捜しに行くべく、彼は部屋を後にした。




