第十九話
バタン、と勢いよく開いた扉から入ってきたのは少し長めの、鳶色の髪をした男だった。
好奇心の強そうなライトグリーンの瞳。よく見れば顔や服のところどころに真っ黒な煤がついている。彼はこちらに気づくと、煤のついた顔で笑みを作った。
「はじめまして、シキちゃん。オレは『ルーク』のジークハルト。ジークって呼んでくれ」
すっ、とためらいなく差し出された手を恐る恐る握り返した。
「ところでさ、今からオレとデートしない?街とか見て回りたいんだろ?オレが案内するから」
「あの、でも・・・」
手を握られたままでは、視線を外すこともできない。握った手の冷たさに驚きはしたが、別に困惑している訳ではなかった。
背後。真冬の吹雪のような眼差しが注がれているのに気づくのはいつだろう。ニコニコを通り越してニヤついている彼の背中に、細い手が伸ばされる。
「ルーク様?私がいることを忘れたらダメですよ」
「ま、まさか」
平静を装うライトグリーンの瞳が微かに揺れた。ぎくり、と動いた肩と歪む口元。苦虫を噛み潰したような表情をしたまま、彫刻のように固まった彼と微笑んだままの緑髪の侍女。画にしたら、さぞかしシュールなのだろう。
「・・・いやぁ、あのさ。ほら、たまたま廊下で話が聞こえてさ。もしあれなら、オレとデート・・・街を案内してあげようと思って」
「とりあえず、レディの部屋に入る時はノックして下さいね。あ、それと。私達は廊下まで聞こえるような大声で会話した覚えはありませんけど」
ちっ、バレたか。我ながら不覚。
タイミングが良すぎたか。もう少し時期を見計らうべきだったな。いや、そんなことはどうでもいい。
「まぁまぁ。細かい事は気にしない。とにかくさ、『護衛』はオレがするから。エマちゃんは掃除でも洗濯でもどうぞお好きなように」
彼女の手を引いて、くるりと背を向けると振り返らず部屋を後にする---つもりだった。
「そ・の・ま・え・に!・・・まず顔を洗って、その煤だらけの服を着替えてきて下さいね」
バタン。扉の閉まる音がエマの背後で聞こえた。彼女はくるりとこちらへ向き直るとにっこりと笑みを作る。
「さ、シキ様。出掛ける準備を致しましょう」




