第十八話
カーテンの隙間から見える空は清々しいくらい晴れ渡っていた。
今は何時だろう。ふわふわしたベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
チュンチュン、とどこからか迷いこんできた小鳥の囀り声で、今は朝の時間帯であることを知った。
昨日の記憶がない。
部屋に着いてから、今朝までの記憶が綺麗さっぱり抜け落ちているのだ。
(まさか、何かやらかしたんじゃ・・・)
しかし、それは杞憂に終わる。
コンコン、とノックの音が響く。
どうぞと答えると、朝食の入った盆を持ってエマが入ってきた。
開口一番、もう起きても良いのかと聞かれたが何のことだか分からない。
陽はとっくに昇っているし、眠たくもないのであれば起きない理由はない。そう告げると彼女は事の次第を教えてくれた。
「シキ様は、ルイス様と謁見中に倒れられたんです。お疲れが溜まってらっしゃったのだろう、と皆様心配されていましたよ」
お元気になられて良かったです、と。黄緑色の瞳を細めて嬉しそうに言う。
そう言われれば、そんな気もしてきた。
心配してくれる彼女の優しさに感謝しながら、朝食に手をつけた。
「いただきます」
目の前に置かれているのは、洋風な部屋に似合わない白いお米とお豆腐の味噌汁、焼き魚が乗せられた皿。
この世界に来た初日、出された食事が食べられなかったのを思い出す。ぐるぐると混乱する頭と、極度の緊張。見たこともない不思議な食材を使って作られた料理を見て軽くカルチャーショックにでもなっていたんだと思う。
そうなれば、当然食べ物は喉を通らない。・・・まぁ、次の日からは普通に食べることはできたのだけれど。
青い顔をして座っていると、目の前に見慣れた形の食器が置かれた。ふわりと白い湯気を立てるそれは、いわゆるお粥というやつだ。
こうやって今日のように、日本食が食卓に並ぶことが結構ある。彼に出処を聞いたところ、「気にするな」と一蹴されてしまったのが残念だ。
塔での食事は彼が用意してくれていたようだ。この世界の出身ではないと言ったナイトはもしかして日本にも来たことがあるのだろうか。
「ときに、シキ様。せっかく王都に滞在されるのですから、街を見て回ったらいかがでしょう?」
食器を片付けながら、エマはそんなことを言った。
「・・・いいの?」
馬車でここに来る途中、見えた素敵な煉瓦造りの景色を思い出す。
中世ヨーロッパにも似た、美しい街並み。こっそり窓から眺めながら歩いてみたいと思っていたのだ。
「でも、私一人でいいのかな?」
少しの間外に出るだけでも、彼が絶えず側にいたのを思い出す。そういえば、彼には会えないのだろうか?口を開きかけた、そのとき。
『待ってましたぁああああ!』
バタン、と扉が勢いよく開いた。




