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仲間なんていりません!  作者: ひねくれペンギン


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2/3

2.

 翌日の朝。メリアは受付で討伐クエストを受注した。

内容はボアの討伐五匹。報酬は銀貨1枚。Eランクのクエストであった。ボアはイノシシの魔物で農作物を食い荒らす害獣として駆除対象である。体長1m程がせいぜいではあるが、ド素人が突進で吹き飛ばされれば打ち所が悪ければ普通に死ぬ。メリアはまあいけるやろと考えていた。

 受注した後、ギルドの奥へ向かう。昨日と全く同じ位置にオレクがいた。

しかし、両腕をクロスして重ねてそこに頭を突っ伏して寝ていた。


「おい、おっさん起きろ」

メリアはオレクの肩を揺する。

「おー。嬢ちゃんか。おはよ」

「うわっ。酒クサッ」

メリアはありえない生物を見たような顔をする。それはそうだ、今日の朝からクエストに出ると昨日伝えてあるはずだ。その結果がコレ。メリアは怠惰には厳しい。それはもう本当に。


「立て。仕事だ行くぞ」

とてもEランク冒険者とSランク冒険者の会話に見えないそれを見た周りの者たちはクスクスと笑う。

「無理ぃ。あと一時間はうごけねぇ」

オレクは酒臭い息を吐きながら、右手で頭を押さえている。完全に二日酔いであった。


「殺」

メリアは低く言いながら、オレクが頭と腕を乗せているテーブルをゲシゲシと蹴る。

「おう、まて、嬢ちゃんやめろ」

頭を上げて揺れから回避したオレクは憤怒に濡れる薄青の瞳を見る。そこには罰という文字が書いてあるようであった。

「ま、まて、おま何を」

メリアは座るおっさんの後ろに回り、ロングコートの襟元を両手で掴む。そして前後左右にシェイクする。

「うおっ。うぇっぷ。やめろバカ……やめ。ヴェッ」

一切緩める気がないメリアは続ける。本の知識にはこう書いてあった。二日酔いは吐けば治る。喉を傷める可能性もあるが。

 知ったこっちゃない。

「ごヴぉああああああああああ」

それはオレクが本当に胃の中を吐き出すまで続いた。


 当然怒られた。モニカが怒りで顔を真っ赤にするほどに。だが後悔はしない。悪いのはこのおっさんだと。青い顔をしているおっさんを睨む。

「嬢ちゃん。やりすぎだぜ、流石に」

なんか被害者面しているおっさんがそこにいた。メリアは汚れた床を処理している途中の雑巾を顔面に叩きつけた。


 朝から爆笑の渦に巻き込まれるギルドであった。ゲロ臭かったが。


※ ※ ※ ※ ※


「ったく酷い目にあったぜ」

少し恨みがましい顔でタバコを吸いながらメリアを見るオレク。しかしメリアは一切気にした様子もない。

「明日、同じ状況だったら同じことするから。でも明日はバケツを用意する」

その声音には抑揚が少ない。怒りも憤りも無い。メリアとしては罰を与えたので、妙にすっきりした気分になり、スパッと切り替えた。まあ流石に汚物の処理は初めてさせられて二度とやりたいとは思わなかったが。


 二人はブルノースの北側。ボアが出没する森に向かう街道にいた。街道は道幅が広く、馬車二台が悠々すれ違えるほどだ。街灯の魔道具が一定間隔で立っていてよく見れば線で繋がっている。街道を外れれば、短い草が生い茂る平原が街道の両側に続いていた。


「嬢ちゃんはなんでこの街に来たんだ? 見たことないし外からだろ?」

オレクのそんな世間話にメリアは少し考える。

「んー家出? この街を選んだのはダンジョンが出来たって聞いたから」

「あー。確かに出来たみたいだな。俺もまだ見てねえけど」

メリアはこいつ本当になにもしてねえのな、という感想を抱く。そりゃあ穀潰しと言われるわけだ。と一人で納得する。


 ブルノースの街にダンジョンが出現したのは三か月前であった。メリアはその情報を馬車の待合所で聞いた。行く当てもなかったメリアは面白そうというだけで目的地をブルノースに決めたのだった。


「で、親御さんは?」

何となく心配そうな顔を向けてくるオレクにメリアは少しイラっとする。

「私は成人済みだ!なんで調査する人間の情報が入ってねえんだよ」

脛を蹴り上げてやろうかと思ったが、体力の無駄遣いなので一旦保留する。

「まぁまぁ。そうかっかすんなよ、嬢ちゃん」

本人はどこ吹く風と飄々としていた。メリアはため息しか出なかった。


※ ※ ※ ※ ※


 森に入ってからは、そこまで苦労はしなかった。

入って直ぐに一匹目のボアをメリアは見つける。

オレクは声を落としてメリアに指示する。

「とりあえず、得意な魔法うってみ?」

なんか急に冒険者風を吹かしてくるオレクの言葉に頷く。


メリアは両手で杖を持ち、その先端をボアに向ける。

その杖の先端から六芒星の魔法陣が出現する。そしてそこから先の尖った氷柱が射出される。かなりの速度で打ち出されたつららは、ボアの脳天に真っすぐに突き刺さった。

「ふーん。やるね~、嬢ちゃん」

 オレクはその魔法を見てメリアを褒める。

メリアは初めて魔物を討伐した興奮で全く聞いていなかった。心の中は出来た。という喜びで埋まっている。顔に出ていないので無感情に見えるが、実は大喜びであった。



それからは、二人で森の中を歩いてボアを見つけてはメリアが属性の違う魔法をぶつける。そして討伐の証にボアの牙を圧し折って持ち帰る。メリアは火・水・風・土・氷の属性が使えるので、ちょうど5体でキリも良かった。

「嬢ちゃんは、回復はつかえないのか?」

「あれは、練習したけど無理だった」

「あーなるほどな。因みに誰かを本気で治したいって思ったことがないってことか?」

そんなセリフにメリアは考える。確かに人生で一度も誰かを治療したいと思ったことはない。だからなんなんだという話だが。

「それになんか意味があるんか? 治したいって本気で思えば回復魔法が使えるとでも?」

「ああ、そうだ」

オレクはなんでもないようにその言葉を肯定する。

「は? え? 聞いたことも無いが?」

メリアは新たな知識に鼻の穴を広げて興奮する。

「割と有名な話だぞ。俺達の魔法適正は心によって決まる。主要四属性の火水風土は性格由来で、それを外れるものに関しては強い想いに依存する。本当の本当に誰かを癒したいと願った者は回復魔法を使えるようになりやすいってこった。悲しい事にその時に適性が付いたとしても習得するまでに、本当に治したい人が亡くなってる事が多いそうだがな。あとは嬢ちゃんの使う氷は好奇心だったか?」


「おー。おっさん。初めてちゃんとした事言った」

メリアは新知識をインプットして上機嫌である。顔に出にくいのでパチパチと拍手をする。確かに知識欲の権化であるメリアは好奇心の塊だ。その話が腑に落ちた。

対するオレクは少し複雑な顔をしていた。


「実験していいか?」

メリアはオレクを見つめる。

「実験?」

「そう実験」

オレクが不思議そうな顔をしながら「いいぞ」と許可する。

その直後、メリアはオレクの右足の脛を杖でフルスイングする。

「おっ、バカお前なにしとんじゃあ」

脛を押さえて飛び跳ねるオレク。

「治したい。治したい。治したい。痛い痛いのとんでけー。とんでけー。治したい、治したい」

ひたすら目を閉じて集中するメリア。

「んなもんで習得できるか!このバカ女」

オレクは目元に涙を溜めながら怒る。

「ぇー」

「えーじゃねえよ。もっと本気の心の底からの願いじゃないとできねーよ。お前は通り魔か?」

そうか。とメリアは納得する。

確かに英雄譚でも心の底からの願いを天へ捧ぐと書いてあった。足りないのだろうと納得する。

ちなみにオレクの言葉は無視した。

それでもなんか恨めしい目を見せてくる大人にメリアは嘆息する。

メリアはゆっくりオレクの右足に近づく。

「動くな」

すぐに足を避けようとするオレクに呟く。

そしてメリアは右手を脛にあてる。

「痛いの痛いのとんでけ~」

メリアの顔は少し恥ずかしいのか赤くなっている。

オレクは未知の生物を見るような顔で眺めている。

「ぷっ。ははははははは」

「ぬ。笑うな。これは先祖代々伝わる我が家の伝統的な……」


赤い顔で弁明するメリアを見て爆笑するオレクであった。


※ ※ ※ ※ ※


 冒険者ギルドに帰ってきた二人はカランコロンとスイングドアを抜けて受付へ向かう。そしてモニカに討伐した証を提出する。

「ほい」

「はい。確かにボアの牙5本受け取りました」

そう言ってモニカは受付机に大銅貨5枚ずつ置く。

「え?」

なんで? 疑問を張り付けた顔をするメリアを横目にオレクはそれを素早く受け取りポケットに収納する。

「あー。そうですね。一応二人はパーティー扱いで基本的には折半となります。ギルド所属の冒険者が付いていく場合はそういうルールです」

「いや。でもこのおっさん、なんにも仕事してないぞ?」

メリアは抵抗するが、モニカは毅然とした態度と笑顔で返す。

「そういうルールですので~」

メリアはすごすごと引き下がった。確かにルールとしては間違っていない。だが、どこか納得できない。まあSランク冒険者が新人の調査でそれくらいの額で動くことの方が稀。納得するための理由を探して落ち着くメリアを尻目に、もう一人の受付嬢がやってくる。

「はい。オレクさん。こちらが新人調査官の分の報酬です」

「おー。ジェリちゃんサンキュ」

そう言って嬉しそうに銀貨3枚を受け取るオレク。

ギギギギギと音がしそうな動作でオレクを見上げるメリア。

それを少しビビった顔で見守るオレク。

「わかった。そういう事な。私がアホだったんだ」

そう言って、ふふふと笑いながらギルドを後にするメリアであった。


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