3.金を稼ぐ道具としてはかなり優秀
「メリアさん。ダメです。それはDランク任務です」
翌日の朝、ギルドの受付にて揉め事が発生した。
原因はEランク冒険者のメリアがDランク冒険者用のゴブリンの掃討クエストを持ってきたからだ。
メリアは不遜な態度でモニカを見る。
「問題ないはずだ。お前は昨日確かに『二人はパーティー扱いになります』と明言した。私とおっさんがパーティーを組んだ場合にEランクになるルールはあるのか? どこかに明記されているのか? 普通に考えれば二人の間のCランクでもいい扱いになりそうだが、その辺のルールはどうなんだ? あ?」
朝からメリアはハイボルテージであった。下手なことを言うなよと目が完全に脅迫していた。
「ぐぬぬ。わかりました。認めます。私が悪かったです。ルール上複数人パーティーでランクが違う場合、最上位の冒険者のランクを上限として、最下位のメンバーの二段階上までの受注を認めています。メリアさんの場合はCランクまでは規定上受けられます」
「ふん」
モニカは諦めて粛々とクエスト受注の手続きを進める。
「でも本当に注意してくださいね? ランクだけで見れば格上です」
「わかっている。Sランクのおっさんがいるんだ。私が死ぬ可能性があるのか?」
「まあ確かに、でもこのやり方は抜け道なんであんまり他言しないでくださいよ?」
メリアは軽く笑い、頷いた。
メリアはスキップしそうな程に上機嫌でオレクのいるテーブルに向かう。
オレクは今日は酒が残っていないようでメリアを見て笑っていた。
「ったく。嬢ちゃん。容赦ねーな」
「口を滑らせたあっちが悪い」
「まあそりゃそうだ。でもまあ悪気があるわけじゃないんだから、手加減してやってくれよ」
「次からそうする。今回認めなければ、ギルド内に響く大声を出して抗議してやるところだった」
うわぁという顔をするオレク。
「大体おっさんが悪い。働かないで金だけもってくのは許さない」
メリアは薄く笑って、クエストの詳細が書かれた用紙をテーブルに置く。
「今日はこれだ」
オレクはその中身を覗き込む。
ゴブリンの掃討クエスト、一匹当たり大銅貨3枚と書かれている。
オレクはそれを見て苦笑する。
「おっさん。今日は武器もってこいよ」
そう言って、ふふふと笑うメリアであった。
※ ※ ※ ※ ※
昨日のボアを倒した森の少し奥に、メリアとオレクの姿があった。
奇妙な形の武器をオレクが背に持っている。
ククリナイフを大きくしたような、くの字のブーメランの先に持ち手を付けたような武器だった。
「よーし。おっさん働け」
メリアはオレクを見つめてそう言う。
「しゃーねーなー」
そう言いながらオレクはタバコを吸う。
オレクが前を行き、その後ろをメリアが付いていく。
するとすぐにオレクが立ち止まった。タバコで右側の森の茂みを指す。
「あれ」
オレクは小さい声で短く告げる。
メリアは目を凝らしてよーく見るとゴブリンが遠くを歩いているのを発見する。
心の中でなんだこのおっさん。あんな遠いのが見えたのかと驚く。絶対に口にしないが。
メリアはオレクに頷き返して、音を立てないようにゴブリンを追跡していく。
そして魔法の射程圏内に入ったタイミングで氷魔法で頭をぶち抜いた。
「普通にやれそうだな」
オレクはやる気のない顔でゴブリンの死体から耳を剥ぎ取る。
メリアはDランクの魔物を一撃で処理できたことに安堵する。
これに苦戦しているようでは、本当におっさんを働かせるだけになる。
それではおっさんと一緒ではないかとメリアは考えていた。自立心の強い女であった。
「おい、おっさん」
「どうした? 嬢ちゃん」
「おっさん戦ってもいいぞ。存分にやれ。金稼げ」
オレクを酷使するという宣言であった。
「へいへい。仰せのままにお姫様」
「うむ。くるしゅーない」
そう言って笑いながら周りを探索する。
すぐに二人は次の獲物を見つける。
四匹で行動しているゴブリンだった。
メリアはオレクと目を合わせて、顎で行けと指示する。
オレクはやれやれと頭を掻きながら前に出る。
そのタイミングで四匹のうちの一匹をメリアが氷魔法で撃ち抜く。
三匹になったゴブリンは近くにいたオレクに殺到する。
手に持ったこん棒でオレクに殴りかかる。しかしオレクには当たらない。
ギリギリで避けつつ、同時に攻撃されない位置をキープし続けている。
おー、流石Sランク冒険者。やればできる奴、と思っていると一向にゴブリンが倒れない。
ん? と思っているとオレクから情けない声が聞こえてくる。
「嬢ーちゃーん。早く倒してー」
「あん?」
メリアは心の中で、いやさっさと処理しろよと突っ込んだが、オレクはメリアを見ながらゴブリンの攻撃をひたすら避けていた。
見ていても仕方がないので魔法をゴブリンの頭に放つ。
一匹、二匹、三匹と氷魔法が頭に命中する。
メリアはおっさんに近づく。
「いや~お疲れさん。嬢ちゃんいいね~」
そんなことを気の抜けた声で話すオレク。
「いや。その背中の奴で倒せよ」
「嫌だね。血付くし、手入れにも金かかんのよ。この武器特注だし。なにより、嬢ちゃんの魔法タダだろ?」
そう言われてメリアも納得する。確かにメリアの魔力は寝たら回復する。それに対して、オレクの武器は使ったら手入れにも金がかかる。実に合理的な理由であった。
「確かに。おっさん頭いいな」
「だろ~?」
おっさんとメリアは不敵に笑い合う。
「じゃあおっさんが避ける。私が殺す。これでいいか?」
そこからはゴブリン虐殺ショーだった。見つけてはオレクが前に出てメリアが殺す。耳を剥いで次。それを延々と繰り返す。どんどん耳が溜まっていきウハウハだった。
二匹のゴブリンを処理している時に、オレクの声が聞こえた。
「おい。嬢ちゃん後ろだ。四匹だ」
それを聞いたメリアは少し肝を冷やす。だが、即座に状況を理解して全力で前に走る。
走りながら目の前に見える二匹のゴブリンの片方へ氷柱をぶっさす。
どたばたと全速力で走るメリアに気づき前方のゴブリンが振り返った。
メリアはそこで急ブレーキをかける。即座にオレクはメリアの方を向いたゴブリンの頭を回し蹴りで吹き飛ばし、そこから流れるような動きで、メリアの後ろから迫るゴブリンに鉄の杭のようなものを投げつける。それはゴブリンの頭に当たって、深く刺さる。
メリアは振り向きざまに氷魔法でもう一匹吹き飛ばす。
残り二匹はオレクが前衛で時間を稼ぎ、メリアがとどめをさした。
「危なかったなあ、嬢ちゃん」
「おい、おっさん。今気づいたわ」
メリアが少し怒気を孕んだ声でオレクに言う。
「どうした?」
オレクは何かあったか? という顔で不思議そうにしている。
「おっさん。普通にゴブリンの頭、蹴りで吹き飛ばしてた。あれの方がタダだろ」
「いや、あれは返り血で洗濯代がかかる」
そう堂々と言うオレク。
「いや、洗濯はこまめにしろよ。ただでさえタバコ臭えし、酒臭えのに、さらに体臭までとか……」
「俺はまだそんな歳じゃ……え? 臭い?」
しばし沈黙。
「うん」
メリアは目線を逸らした。
「嘘だろ。なあ嬢ちゃん。嘘だろ。え? マジで? 嘘だと言ってくれよ、嬢ちゃん」
必死の形相でメリアに近づくオレク。
「やめろ近づくな、臭え」
オレクは地面に両膝と両手をついて絶望した。
少し冗談が過ぎたか? と思ったメリアだったが、どうせ一緒にパーティーを組むならいい匂いの方がいい。そう思ってそのままにした。鬼畜であった。
オレクが絶望から復帰して再度ゴブリン狩りが始まった。
倒した数が五十を超えた頃、メリアはやっと異変に気づいた。
やっべえ。あのおっさん、やってくれる。Sランクは伊達じゃないってことか。
メリアはそんな感想を抱く。
メリアは今日一度も魔法を外していなかった。勿論狙って撃ってはいる。だが必中ではない。ゴブリンだって避けるのだから。それに気づいてから戦ってみると世界が違って見えた。
オレクは敵の位置、敵の硬直、全てをコントロールしていた。魔法を当てることだけに集中していたメリアでは気づけない領域であった。
メリアが魔法を撃つタイミングをわざとずらす。オレクは不思議そうな顔でメリアをチラリと見る。それだけで確信に変わった。
背筋が凍る思いだった。そんなことが可能なのか?
敵の位置をコントロールすることは理解できる。
メリアとオレクは出会ってまだ三日目だ。
それでいつ魔法を撃つかなんて見抜けるようになるのか?
メリアはそんなことを考えながら魔法を撃つ。
それは吸い込まれるようにゴブリンの頭に刺さった。
メリアはその日、Sランク冒険者という壁を肌で感じるのだった。
ゴブリンを処理したあと、メリアはオレクに近づく。
メリアの顔は少し引きつる。
オレクは振り返る。そして急に真面目な顔になる。
メリアは息を飲んだ。
そしてオレクは頭を下げた。
状況の理解が追い付かないメリアは硬直した。
「メリア。頼む。金を貸してくれ」
森にゴンという鈍い音が響いた。




