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終末悉喰【アポカリプス・イーター】  作者: 粘着物質X


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第2話:遭遇

 覚悟を決めて部屋を出たものの、さてどうしたものか。階段を下りながら思考を巡らせる。

 モンスターの肉が俺を強くしてくれるのは確かだが、できればちゃんとした食べ物が欲しい。


「そうだ、コンビニだ。確かバックヤードに缶詰の在庫が積まれていたはず。」


 缶詰なら日持ちもするし、他にも役に立つ物があるはずだ。店長や社員さんのことも、できればちゃんと弔ってあげたい。

 そう思いながらマンションのエントランスを抜け、外へと足を踏み出した。


 見慣れていたはずの町並みは惨状と化していた。あちこちに飛び散った血痕、転がる人の体の一部、鼻を突く嫌な異臭。ここがかつての日本なのかすら怪しく思えるほどの光景だ。


「とにかくコンビニを目指そう。……いや、あそこも無事なわけないよな」


 胸を締め付ける光景からできるだけ目を背け、公園の横を通り抜けようとしたその時、あの忌々しい唸り声が耳に届いた。しかも、一匹だけじゃない。


「複数で行動してるのか!? まずい、どこかに隠れないと……!」


 焦って周囲を見回し、目に入ったドーム型の遊具へ滑り込んで息をひそめた。


「#$&*‘#%」

「$>*#%>*」

「@;*$@$+」


 ドームの隙間から覗くと、3体のゴブリンが公園前の通りを悠々と歩いていくのが見えた。我が物顔で街を歩き回る化け物たち。倒したい気持ちはあるが、今の力で複数相手に勝てる保証はない。


 ゴブリンたちが完全に姿を消したのを確認し、俺は再びコンビニへ向かって走り出した。幸い今度は遭遇することもなく、バイト先だったコンビニへたどり着くことができた。


 パニック状態で逃げ出したため気づかなかったが、店内も外と同じく悲惨な状態だった。壊れた自動ドアをくぐると、目の前に店長の亡骸が横たわっていた。そしてその少し奥には、社員さんの姿もある。


「店長……社員さんまで……」


 胸が痛む。その時、奥のバックヤードからカサリと物音が聞こえた。


 モンスターだったらマズい――焦って物陰に隠れようとした瞬間、思いもよらない声が響いた。人間の声だ。


「あ? 誰だ、お前」


 出てきたのは、深くフードをかぶった男だった。

 顔はよく見えないが、声の感じからして俺と同世代だろうか。

 人の姿を見て一瞬ホッとした俺が足を踏み出そうとした、その時だった。


「おい、持ってるもん出してさっさと失せろ。」


 冷酷な言葉とともに、鋭いナイフが俺の喉元へ突きつけられた。


「な、なんで……俺たち、同じ人間だろ!?」


 突然の敵意に動揺し、声が震える。

 だが、男の返答はどこまでも容赦がなかった。


「だからなんだよ! ここは俺らの縄張りだ。てめぇは持ってるもん出すか、ここで死ぬか選べ!」


 男が興奮気味に罵声を浴びせてくる。

 ――ああ、そうか。この狂った世界じゃ、敵はモンスターだけじゃないんだ。


「……差し出せるものなんてない。せいぜいこの棍棒くらいだ。俺はすぐに出ていくから、見逃してくれ。」

「あ? ふざけてんじゃ――」


 男の怒鳴り声を遮るように、甲高い咆哮が響き渡った。


「ワォオオオオオオオオン!!!!!」


 人間じゃない。だが、さっきまでのゴブリンとも違う声だ。

 俺と男は身を固くし、声のした方向へ視線を向けた。


「犬……いや、オオカミ!?」


 店の入り口に立っていたのは、成人男性と同じくらいの巨大な一匹のオオカミだった。


「チッ……!」


 男が短く舌打ちし、身を低く沈める。


「フッ!」


 男の体が薄っすらと光を帯びたかと思うと、とんでもない速度でオオカミの脇を駆け抜け、あっという間に外へ消え去っていった。


「なっ……スキル!? 俺以外にも持っている奴がいたのか……!」


 驚愕する俺をよそに、オオカミは逃げた男の方向を一瞥したあと、ゆっくりと俺のほうへ向き直った。逃げた足の早い奴より、目の前のトロそうな獲物を狙う気だ。


 オオカミと視線がぶつかる。

 恐怖で足が竦みそうになる。だが、ここで怯んだら確実に食われる。

 俺は手にした棍棒を強く握り直し、オオカミを観察した。


 俊敏な相手だ……狙うなら足か? 危険なのはあの巨大な牙、噛みつかれたら終わりだ。


「ガァアアアア!!!!」


 オオカミが大きな口を開け、直線的に飛びかかってきた。


「ぐっ……!」


 咄嗟に棍棒を横にして受け止めたが、オオカミの巨体に押し潰される形で床に倒れ込んでしまう。重圧で身動きが取れない。さらに、頭上でミシミシと棍棒が悲鳴を上げ始めた。


 まずい、噛み砕かれる!


 必死に周囲へ目を走らせると、すぐ近くの床にドライバーが転がっているのが見えた。だが、両手は棍棒を支えるのに手一杯で届かない。

 このまま殺されるのか――そう覚悟しかけた瞬間、衝撃で天井の一部がガラガラと崩れ落ちた。


 その大きな音にオオカミの意識が一瞬削がれ、上からの圧力がわずかに緩む。


 今だ!


 強引に片手を伸ばし、ドライバーの柄を掴む。


「俺から……離れろっ!」


 全身の力を振り絞り、オオカミの眼球へ向けてドライバーを突き刺した。


「ギャンッ!?」


 激痛と視界を奪われたショックで、オオカミが悲鳴を上げて飛び退く。

 俺はその隙に這い起き、近くの商品棚の裏へと滑り込んだ。


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」


 荒い息を整えながら、次の攻撃に備える。しかし、自分の手に棍棒がないことに気づいた。


 しまった。急いで隠れることを意識しすぎて武器のことがすっかり頭から抜けていた。


 周囲を見渡し、近くの棚にあったハサミを手にする。心もとない武器だが、まぁ素手よりはマシだ。


 よし、落ち着け。俺ならあのオオカミを絶対に倒せる。


 自分に言い聞かせ、鼓動を鎮める。

 生きて、きっと生き残っているであろう田舎の家族や友人と再会するために――俺は絶対にここで死ねない。

前話から引き続きストックがないため不定期更新です。

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