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終末悉喰【アポカリプス・イーター】  作者: 粘着物質X


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第1話:終わりの始まり

「ありがとうございましたー、またおこしくださいませー」


 仕事終わりであろう、少しくたびれたサラリーマンの背中を見送りながら定型文を口にする。

 いつもと変わらない日常。まぁ、大学生のバイトなんてこんなものだ。

 俺の名前は須崎昌磨(すざき しょうま)。福岡の田舎から出てきて一人暮らしをしている、ごく普通の19歳だ。


「昌磨くん、お疲れさま。休憩行っていいよ」

「あ、ありがとうございます」


 店長がバックヤードから出てきて声をかけてくれた。今日のシフトは店長と社員さん、そして俺の3人だけだ。ようやく訪れた休憩に入るため、俺はバックヤードへと移動した。

 いつものパイプ椅子に腰掛け、スマホでSNSを眺めて時間を潰す。


 しかし、休憩時間が終わりバックヤードから出ようとしたその時、異変が起きた。

 売り場のほうが妙に騒がしい。強盗でも来たのだろうか――そんな荒唐無稽なことを考えながら扉を開けた。


 その瞬間、目に飛び込んできたのは、ゲームに出てくるゴブリンのような化け物が店長に向かって棍棒を振りかざす姿だった。


「な、なんだ、来るな、いやだあああ、あ゛――」


 ドゴッ、と鈍い音が響く。店長の首があり得ない方向にねじ曲がり、そのまま床へ倒れ落ちた。

 無残なその姿を目にした瞬間、胃の底から激しい吐き気がこみ上げてくる。


「う、おええええっ……!」


 思わずその場に吐いてしまった。嗚咽が止まらない。

 だが、うずくまっている猶予なんてなかった。涙目で顔を上げた先で、あの化け物がこちらを向いていたからだ。


「;@=~2;@p@;:」


 化け物が濁った声を漏らしながら、俺を睨みつける。


「ひっ……!」


 気づいた時には、なりふり構わず走り出していた。とにかく安全な場所へ。俺の部屋へ帰らなきゃ。

 幸い、バイト先から自宅のマンションまでは歩いて10分ほどの距離だった。必死の思いで階段を駆け上がり、部屋の前までたどり着く。震える手で鍵を差し込み、扉を押し開けた。


「@^;“”$‘+」

「え……あ……」


 ありえない。そんなことがあっていいのか。

 なんで俺の部屋の玄関に、あの化け物がいるんだよ。


 途端に足が竦み、動かなくなる。嫌だ、死にたくない。どうにかして逃げないと――!


 化け物が棍棒を振り上げた。その瞬間、振り下ろされる軌道がなぜかスローモーションのように見え、俺は咄嗟に横へ跳んだ。奇跡的に攻撃を回避する。


 ベキベキッ、と床板が砕ける重い音が響いた。深くめり込んだ棍棒を引き抜こうと、化け物が手間取っている。


(直撃したら、店長みたいに……っ!)


 いけない、こんな時に思い出して吐きそうになっている場合じゃない。逃げるか……いや、狭い玄関だ、ここで倒さなければ殺される!

 何か武器はないか。考えろ、考えろ、生きるために!


 化け物の体格は俺と同じか、やや小柄だ。狙うなら目か口――ふと、傘立てに立てかけてあるビニール傘が目に入った。先端が尖っている。あそこを狙って突き刺せば、あるいは……!


 傘を強く握りしめ、いまだに棍棒に手こずっている化け物へ突きつける。

 恐怖で全身が震える。だけど、やらなければ俺が死ぬ。


「うぁああああああ!!!!」


 叫び声を上げながら化け物へ突進した。

 声に気づいた化け物がこちらを振り向く。その恐怖を強引にねじ伏せ、開いた口を目がけて全力で傘を突き刺した。


「#+*&$%&*%!!!!!!!!!!!」


 口内を貫き、奥の柔らかい何かを突き破る嫌な感触。溢れ出た返り血が俺の全身を濡らす。

 化け物は痙攣するように少しずつ動きを弱め、やがて完全に動かなくなった。


 室内に静寂が戻る――はずだった。


『モンスター初回討伐報酬:スキル「悪食」を獲得』


「……は?」


 頭の中に響いた無機質な声に、思わず呆然と声を漏らす。

 その直後、屋外から人々の悲鳴や怒号が聞こえ始めた。


 ハッと我に返り、玄関から部屋の奥へ移動して窓の外を見やる。あちこちで激しい炎と黒煙が立ち上り、はるか遠くでは煙を吹き上げる飛行機が市街地へと墜落していくのが見えた。


 部屋の窓の向こうは、一夜にして地獄へと変わっていた。


「なんだ……これ……現実かよ……」


 俺はただ、血と惨状に包まれた部屋で立ち尽くすことしかできなかった。


 ◇


 とりあえず服を着替え、スマホを確認する。だが既に圏外となっており、ただの板と化していた。

 電気が止まれば冷凍食品もじきに傷むだろうから、残っていた分はすべて腹に押し込んだ。


 それから数日が経過した。


 ついに、蓄えていた食料も水も底を突いた。電気もガスも水道も、とっくに止まっている。

 この数日の間、玄関に転がる化け物の死体は腐る気配すら見せず、ただ冷たく横たわっている。


 ……食べるしかないのか。この肉を。

 もう水も食べ物もない。火だって使えないんだ。


 包丁を手に取り、化け物の腕から肉を削ぎ落とす。つまみ上げて匂いを嗅ぐ。


「……匂いは、ほとんどないか。今さら病気とか気にしている場合じゃない……!」


 覚悟を決め、削いだ肉片を口の中へ放り込んだ。

 途端に、生臭さと粘り気のある最悪な感触が口いっぱいに広がる。吐き気を猛烈に催しながらも、必死で喉の奥へと押し込んだ。


『悪食の効果発動。身体能力微増:3/100』


 脳内に再び、あの無機質な声が響く。


「……え? これ、肉を食べたからか……!?」


 体がわずかに軽くなった感覚がある。

 生き残るためだ。強くなるためなら、どんなものでも喰ってやる。俺はなりふり構わず、再び包丁を握り直した。


 削って、口に押し込む。

 削って、呑み込む。

 削る。

 呑み込む。

 削る。

 呑み込む。

 削る。

 呑み込む。

 削る。

 呑み込む。



『悪食の効果発動。身体能力微増:100/100』


 ハッと正気に戻った時には、食べられそうな部位をすべて平らげていた。腹は満たされ、不思議と喉の渇きも癒えている。


「身体能力微増……文字通り、少し強くなったってことか」


 玄関へ視線を向けると、数日前に床へ深々と刺さったままの棍棒が目に入った。

 当時はビクともせず引き抜けなかった代物だ。意を決して柄を掴み、力を込めて引っ張ってみる。すると、拍子抜けするほど簡単に抜けてしまった。


「これが『微増』の威力か……! 微増でこれなら、化け物を倒してもっと食えば、さらに強くなれるんじゃないか……!?」


 外には、あの化け物たちが蠢いている。

 喰えば喰うほど、俺は強くなれる。


「強くなって……生きて、家族に会いたい。」


 俺は重い扉を押し開けた。

 化け物を狩り、喰らい、強くなって生き延びるために。

連載ではあるものの、ストックがないので超不定期更新です。

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