第7話 気まぐれな魔女との温度差
「ちょっと待て」
「なんだよ。話の腰を折らないでくれる? ここから、カーマイン公爵夫妻に事情を話す大事な場面なんだからさ」
それともブルーノには、ここまでの話を理解する能力すらなかったのかな。
思わず国王に視線を向けたが、逸らされてしまった。子が子なら親もか、とげんなりしたところでどうしようもない。ブルーノにはそんなボクの心情など、勿論伝わっていなかったのだから。
だけどボクは、これでも優しい方の魔女だからね。ブルーノの意見くらい、聞いてあげる器量は持っている。
「それで? 何がちょっと待て、なのさ」
「俺がまるで、悪役のような扱いだからだ」
「事実だろう? 実際、ミルドレッド……といってもボクだったわけだけど、婚約破棄を言い渡しに来たじゃないか」
「うっ、それは……だが、婚約破棄はこの間の話だ。カーマイン公爵令嬢に祝福を与えたのは、十八年前のことだろう? 赤ん坊だと言っていたのだからな」
ふむふむ。どうやらちょっとは頭が回るようだ。
「ボクは赤ん坊のミルドレッドを見た時に思い出したのさ」
「何を?」
「前世の記憶だよ。どうやら、生まれ変わる前の魔女、先代とでも言っておこうか。先代魔女は予知魔法が使えたらしくてね。そこで知ったんだよ」
今は転生者とか、乙女ゲームとかは伏せておく。カーマイン公爵夫妻に話したのと同じように、この世界の魔女の仕組みを利用させてもらった。その方が信憑性が高く、あまり説明しなくても納得してもらえるからだ。
魔女設定、様々である。普通の人間は魔女に詳しくないお陰で、予知魔法の有無や先代魔女の使用を疑われずに済んでいる。因みにボクは予知魔法なんて使えないから、疑われたら即アウトだ。乙女ゲームの知識範囲内であれば、なんとか言い逃れは出来るけどね。
「なるほど。俺とカーマイン公爵令嬢の婚約は、生まれる前から決められていたからな。魔女がいずれ王太子になる、俺の婚約者に相応しい人間なのか調べた結果、そんな未来が見えたというわけか。ならば、俺の決断に間違いはなかった、ということだ」
漕ぎつけたような辻褄だったが、あながち間違いではないだろう。しかし、解せない。おそらく、ブルーノが自信満々に講釈をした末、高笑いをしているからだ。
ボクは箒を出現させて、国王に問いかけた。
「殴ってもいいかな」
「ダメに決まっているだろう!」
「お前に聞いていない。ボクは国王に聞いているんだよ」
持っていた箒の穂が、僕の感情を示すように逆立つ。たかだか十八年しか生きていないブルーノ相手に対して大人気ない、とは思ったけど、位の上下を忘れてもらっては困る。
この世界で魔女は聖女の役割をしているけれど、聖女のような清く大らかな心を持ち合わせていないボクらは、国王よりも上の立場。つまり、王子であるブルーノなど、口答えしていい立場ではなかった。
だからボクは国王の許可を待たずに、ブルーノの頭めがけて箒の柄を振り下ろした。
「学園にいた時にも思っていたけど、ブルーノの傲慢な態度は目に余る。まさかとは思うけど、そんな風に教育でもしたの? ボクたち魔女に対する認識も薄いようだし。これがこの国の標準であれば、ボクは他の魔女たちに伝えなければならない」
「そ、それは困る。確かに、魔女の認識が薄れているのは事実だ。カーマイン公爵令嬢は祝福を得たようだが、ブルーノは魔女の祝福を得ていない。かねてよりの婚約であったため、こちらに不利益があってはならないと思い、公表はしていなかったが」
「だからボクへ不敬は、当たり前だとでもいいたいのかい?」
「……悪かった、と思っている。だが、どの魔女に頼んでも、ブルーノの祝福をしてくれなかったのは、ユニティ殿が原因ではないのか?」
「前世の記憶があることは、他の魔女に告げていない。カーマイン公爵夫妻には伝えてあるけど、ミルドレッドはブルーノの後に生まれたんじゃなかったっけ?」
だからブルーノの後ろ盾として、生まれて間もないミルドレッドが婚約者にされたのだ。まぁ、それもあって、国王は魔女にブルーノを祝福してほしかったのだろう。第一王子とはいえ、ブルーノの母親は王妃ではないからだ。
そんなブルーノは、乙女ゲームの世界でヒロインと結ばれ、王太子になる。けれど現状は王太子になることは危うく、弟王子に王位を譲ろうなんて考えをしているほどだった。
なるほど、ボクがミルドレッドに祝福を与えることを承諾したのは、前世の記憶が蘇る前の話だ。乙女ゲームの世界に干渉する前のこと。
だからこの時点で、ブルーノとミルドレッドの間には、確執があった、ということになる。
まさか、その原因がボクだったとはね。その後は意図的だったとはいえ、元々ミルドレッドの人生に、ボクは深く関わっていたようだ。
「まぁとにかく、ブルーノを祝福しなかった件については、何も知らない。ボクたち魔女はつるまない質なんだ。それくらいは知っているだろう?」
「あぁ」
「それにボクはここ十数年、首都の近くにいたけど、他の魔女には会っていない。ボクがいるから、ということはあり得ないから、何かやったんじゃないのか?」
たとえば、今のように傲慢に振る舞って反感を持たれたか。もしくはボクたち魔女をどうにかしようと画策したか、のどちらかだろう。
ボクたちはそれほど祝福を重要視していないけれど、国王の反応を見ると、人間にとってはそうじゃないらしい。気まぐれで祝福している行為を、何か勘違いしているのかもしれなかった。
祝福を受けた、というだけで、人としての優劣を判断している、とか。前世でもそうだけど、人間は他と比べたがる種族だ。
何も言わない国王を見る限り、おそらくそうなのだろう。ブルーノといい、この国は大丈夫か? 他の魔女たちが見限ったのも、理解できるような気がした。
でもボクは……まだ見限れないんだよ。この国にはまだ、見守りたい存在がいるからね。
ボクは再び、過去を語り始めた。





