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魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 悪役令嬢との出会い

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第6話 始まりの話

 この世界の魔女は、長寿種であり、生まれた時から魔女である。老いた魔女が亡くなり、新たな魔女が生まれるため、常に数は変わらない。

 だからボクも、どこかの魔女の生まれ変わりなのだ。そう、同胞の魔女たちによって教えられてきた。


 そんな魔女が転生者だと、誰が思う? ボクは思わない。だけど知ってしまったのだ。あの日、カーマイン公爵家を訪れた日に。


「よく参られた、魔女殿」

「ユニティだ、カーマイン公爵。本日はお招きいただき、感謝する」


 銀髪の男性越しに見える、煌びやかな風景に、思わず感嘆してしまった。それと同時に感じる、場違いな空気。けれどそう思っていたのは、ボクだけだった。


 なぜならこの世界では、聖女の役割を魔女が担っている。さらにこの日は、とある理由でパーティーが開かれていた。


「さすがはカーマイン公爵家だね。子どもの誕生に、これほどの人たちがお祝いに来るのだから」

「それもあるが、ユニティ殿が来られると聞いて、やって来た者たちもいる」

「ボク?」

「魔女を間近で、さらに祝福をする場面なんて、なかなか遭遇できない。これ幸い、と来た者たちだっているのだ」

「なるほどね」


 聖女の役割を担っているからといっても、魔女は全ての子どもに祝福を与えることはない。それが魔女たる所以。聖女のように見返りを求めない美しい心を持っていないのだ。気まぐれにやって来て、見かけた子どもに祝福を与えるだけ。


 目の前にいるカーマイン公爵に対してもそうだ。たまたま王城にいた時に、声をかけられたのだ。「娘が生まれたため、祝福してほしい」と。


 すぐに帰るには惜しいと思っていたボクは、何の考えもなしにカーマイン公爵の頼みを聞き入れた。


 一応、ボクも魔女だからね。こんな口調だし、お洒落になんて興味のないボクだけど、この国でも一、ニを争う色男、カーマイン公爵の申し出を断ることなんて、できなかったんだ。


 それにそんな色男の娘だ。さぞ可愛いんだろうな、と想像をしたら、見たくなってしまった、というわけである。


 ボクは黒のフードだけ取り、パーティーの主役の元へと行く。こんな人で溢れ、シャンデリアの光を浴びているのに、泣きもしない赤ん坊。


 来賓客は、カーマイン公爵が言ったように、ボクの登場を待ちわびたかのように、羨望の眼差しを向けてくる。これでも百歳を超えているが、魔女としては若い。見た目だけなら、人間の十六歳と変わらないせいだろうか。その眼差しの中には好奇、いや奇異な視線を感じた。


 けれど揺り籠を覗いた瞬間、気にならなくなった。カーマイン公爵と同じ銀髪に、青い瞳。その無垢で愛らしい赤ん坊と、成長した強く美しい女性の姿が重なったのだ。


 祝福を与える前にはよくある光景だから、何も不思議には感じなかった。違和感を覚えたのは、ボクだ。ボク自身の記憶にない光景が映像のように映し出され、頭に入っていく。


 おそらく、その光景はパーティー会場の誰にも見えなかったのだろう。よろめくボクの体を、近くにいたカーマイン公爵が支えてくれたのだ。隣にいる公爵夫人の不安そうな顔が、さらにそれを物語っている。


「大丈夫だ。この娘からとても美しい女性が見えた。凛とした佇まい。何者にも負けない意志を感じる眼差しは、とても力強い。素晴らしい女性になるよ」


 ボクは咄嗟に、赤ん坊から感じ取ったものを口にした。突然入ってきた記憶を無視して。


 そうしなければ、今、正常に祝福を与えることができない、と判断したからだ。ここに来た目的を忘れてはいけない。そう、ボクは今、魔女なのだから。


 安堵しつつ、顔をほころばせる公爵夫人と、今すぐにでも抱きしめたい、と顔に書いてあるカーマイン公爵。たくさんの来賓客が感じているように、ボクもそんな二人を微笑ましい、と思った。


 たくさんの者たちから愛されている、揺り籠の中の赤ん坊に手を翳す。すると、大きな青い瞳をさらに大きくして、ボクの手のひらを見つめている。


「気高き魂よ。汝は心のままに、振り返ることなく、真っ直ぐ伸びた道を歩め。月光を浴び、その力強い一歩を踏み出した先に、星を掴むことだろう。汝の未来に祝福あれ」


 ボクの手のひらから、銀色の星の形をした光がいくつも現れ、赤ん坊の頭上に舞い上がる。そして星が一つに集まった瞬間、会場に振り注ぐ。


 シャンデリアの黄色い光とは違う、魔法の光に、見惚れる来賓客。中には銀色の星を掴もうとする者までいたが、祝福の光を掴める者はただ一人。

 誰よりも銀色の星を浴びた、赤ん坊は「キャキャッ」とボクの指を掴んで喜んでいた。


 良かった。心からそう思えたはずなのに、先ほどの記憶がボクを苦しめる。


「月と星。なんて素敵な祝福なのかしら。ねぇ、あなた」

「あぁ。そうだな。未来の王妃と国母を意味しているかのようだ。ありがとう、ユニティ殿」


 公爵夫妻の感謝の言葉が胸に刺さる。この国での太陽は王を意味し、月は王妃、星は王子、または姫を意味している。けれどボクの記憶が確かなら、この赤ん坊は王妃にも国母にもならない。


「良かったわね、ミルドレッド」


 あぁ、やっぱり。この赤ん坊はミルドレッドというのだな。乙女ゲーム『贄姫になっても恋はしたい』の悪役令嬢、ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢、その人だ。


 近い未来。この赤ん坊は婚約者である王子に婚約破棄を言い渡され、月を背にこの国を出て行く。星を頼りに、行く当てもなく彷徨うのだ。


 せめてその道に、幸あらんことを願うしかなかった。

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【コミカライズ作品】


ヒロインの弟に迫られています
ヒロインの弟に迫られています~モブでいたいので、溺愛は遠慮します!~
漫画:水月ミキネ先生
原作:有木珠乃
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