第4話 少女と魔女のその後
宰相から現在の地図を見せてもらい、子爵令嬢の元へ向かう。転移魔法陣を使えばすぐだが、領地のどこにいるのかも分からない。それに、ボクは箒に乗るのが好きだ。
だけど人目につかないように、と姿を消して、金髪の少女を探した。
髪の色が特殊ではないが、やはりあの体型は探しやすいようだ。領主館の近くを飛び回っただけで、すぐに見つけることができた。
「大丈夫。噂なんて一時よ。それに学園に通えなくても、優秀な家庭教師をつければ……」
「その家庭教師がここまで来てくれるっていうの? こんな田舎に。それも子爵家に!」
母親と思われる女性に向かって、物を投げる。日常茶飯事なのか、それが女性に当たることはなかったが、見ていていいものではない。
「のほほんとした王子の婚約者も、のほほんとしていたから、いけると思ったのに。まさか偽者で、王子本人も知らなかったなんて。そんな茶番に付き合わされていたのよ」
確かに、授業とか交流なんて、魔女のボクには関係なかったから、のほほんとしているように見えたんだろうね。でもこれって、別にブルーノを愛していたわけじゃないって感じかな。
悪いことをした、と思っていたけど、同情する余地はなさそう。そもそもエリアルに代わるほどのヒロインの器ではなかったって感じだし。
なるほどね。だから乙女ゲームのシステムは、彼女を見限ったわけか。
「自業自得なら、ボクが心配する必要はない」
どうやらボクに対しても、本気で敵意を向けていたわけでもなさそうだし、会わない方がいいだろう。だが、この街には興味が湧いた。
ずっと公爵令嬢なんてしていたものだから、街歩きは久々なのだ。ボクは早速、魔法を解いて散策することにした。
その気の緩みがいけなかったのだろう。知り合いもいないことをいいことに、ボクはフードを被らずに街を歩いていた。そんな時だった。
「見つけたぞ」
聞いたことがある。いや、少し前に見た人物が、目の前に立っていた。
「ブルーノ、王子様? なんでここに……」
驚きの眼差しを向けると、ブルーノはボクに近づいてきた。咄嗟に後退るが間に合わず、腕を掴まれた。さらに脇道に連れ込む、という王子としてあるまじき行為をしたのだ。
「何をする。ボクに腹いせでもしに来たのか!? いや、そもそも貴殿は謹慎処分を食らっていたはずだが? どうしてここにいる」
「王城で宰相と話していただろう。俺には筒抜けなんだよ」
「っ!」
思わず身を引くと、背中が壁に当たった。
「なるほど。あの令嬢に用があったわけじゃないってことか」
「そうだ。まさか本当に魔女だったとはな。いきなり姿を現した時は驚いた」
つまり、そんなところから付けられていた、というのか。しかも気づかずにいたとは……。
「でも、魔女だと脅すことはできないよ。ボクはまた雲隠れする。人間と魔女は、同じ時間が流れているわけじゃないんだからね」
「知っているさ。だから俺も一緒に雲隠れさせてくれ」
「はぁ?」
「宰相から聞いて知っているだろうが、俺の立場は今、危うい。ならば、弟に王位を――……」
「待て待て、早まるな!」
一応、攻略対象者の一人だろう。何、現実逃避しているんだよ!
「早まっていないし、そもそもこれは頼みではない」
「では、なんだというの?」
「責任だ。王族を騙した償いだ。カーマイン公爵はすでにしたのに、魔女であるお前がしないのは不公平だろう?」
「それは……そう、なのか?」
ミルドレッド、エリアル、金髪の少女。それだけでなく、ブルーノの運命も変えてしまった。ボクの一時の感情で。
だからブルーノの言うことも一理ある。
「そうだ。分かったのなら、森でもなんでも俺を連れて行け」
「嫌だね。それに責任というのなら、そっちだって王族としてきちんと処罰を受けるべきだろう? こんな風に逃げることではないはずだ」
これでようやく乙女ゲームの世界から離れられるというのに、なんでブルーノを引き取らなければならないんだ。冗談じゃない。
「分かったら、さっさと王城に戻れ。今頃、大騒ぎになっているんじゃないか?」
「……魔女ユニティのせいでな」
「はぁ? どうしてボクのせいなんだよ。勝手に王城から抜け出して来たのは、そっちだろう?」
よく見ると、ブルーノの近くには護衛らしい存在は見当たらなかった。
こいつ、本当に家出をしてきたのか。それもボクを追って……呆れてものも言えないな。
「分かった。こうしようじゃないか」
ボクは梃子でも動かなさそうなブルーノに向かって、ある提案をした。
「ブルーノ王子様はまだ、学園を卒業していない。つまり、まだ未成年だ」
「それがどうした。長い時を生きる魔女には関係ない話だろう」
「魔女にとってはね。でもブルーノ王子様は人間だ。勝手に未成年を引き取る、ということは誘拐と同じこと。ボクはお尋ね者になりたくない」
ましてや、相手がブルーノだなんて、鳥肌が立つほど嫌だ。ミルドレッドになっていた時、ブルーノの婚約者ではあったが、最初から情などない。
「つまり……どういうことだ? 何が言いたい」
「……親御さんの許可が必要だと言っているんだよ。この場合、国王になるね」
「ち、父上の許可だと!?」
「そうだ。ちょうどいいじゃないか。ブルーノ王子様はそのまま王城に残り、ボクはカーマイン公爵に挨拶して帰れる」
うん。カーマイン公爵には迷惑をかけてしまったからね。会いに行かなければ、と思っていたところだったんだ。ブルーノを送る方々、様子を見に行こう。
本物のミルドレッドの様子も気になるしね。
目の前で、「嫌だ。なんで父上の許可が? 折角、撒いて来たのに」とおかしなことを言っているブルーノを無視して、このまま転移魔法陣を展開した。
こういう時、ブルーノの頭の軽さは助かる。抵抗されることもなく、ボクはブルーノと共に城門に降り立った。





