第3話 ヒロインと王子のその後
だけど、本当に幸せなのかどうか、やはり確かめずにはいられなかった。あの時はボクの罪悪感を減らすために言ったことかもしれなかったからだ。
「カシルはほらっ、ツンデレだから」
誰に言うわけでもなく、そう呟きながら、ボクはカシルの住んでいる家までやってきた。
元カーマイン公爵令嬢ということもあり、王都の郊外に住んでいるカシル。実の娘でなくても、ミルドレッドの未来のために養女にしたからか、カシルが家を出た後も、公爵は何かと世話を焼いていたらしい。
カシルもカシルで、王都を離れられなかったのは、公爵が理由なのか。はたまたボクの様子がきになったのか、までは分からない。
「この間の様子からすると、両方かもね」
姿を消す魔法を使い、さらに家に近づいた。
「あぁ、どうしよう。今日に限って、寝癖がなかなか直らない~」
思わず窓から様子を窺うと、あらぬ方向にピンク色の髪が伸びていた。一度濡らして、乾かせばいいと思うけれど、焦るカシルの声から、そんな時間はないのだろう。
「この世界にドライヤーもないしね」
仕方がない、とボクは窓に向かって手を伸ばした。疑われないように、カシルが髪を抑えた瞬間を狙って寝癖を直す。
「あ、あれ?」
その様子にカシルは戸惑っていたが、どうやら急いでいるらしい。気にすることなく、化粧をして、身嗜みのチェックも済ませる。
まさに恋する少女の風景だ。
「ボクには縁のない世界……」
キラキラと輝いている。もしかして、デートなのかな。
慌ただしく出かけていくカシルを見送り、ボクはその場を後にした。さすがにデートを盗み見る趣味はない。
***
次にボクが様子を見に行ったのは、あの日、ブルーノの傍らにいた少女だ。
どうやらブルーノは、ボク……いや、ミルドレッドに婚約破棄を言い渡した後、国王に報告したらしい。
確かにボクは「面倒な手続きはそっちで勝手にやってくれ」と言ったし、当のミルドレッドはいない。婚約破棄の手続きをしなければ、あの金髪の少女と結婚どころか、婚約さえできないのだ。
だから仕方がないのだが……やはり怒られたらしい。
「カシルではないが、ボクが原因だからね。一応、見に行くか」
そう言って、魔女らしく箒に乗って王城へ近づいた。結界が張られているため、許可証を見せる。ミルドレッドの時もそうだが、魔女はこの国で悪とは思われていない。生まれた子どもに祝福を与える存在であるため、あまり規制されていなかった。
今日も、「王に会わせてほしい」と頼むと、謁見の許可が取れず、代わりに宰相が相手をしてくれた。
「珍しいですね。魔女様が訪ねに来てくださるとは」
「そう、嫌味を言わないでくれ。カーマイン公爵から聞いているんだろう?」
「えぇ、勿論。だから嫌味を言いたくなったのです。このようなことをするのならば、始めから我々に言ってくださればよかったものを。ブルーノ王子もこんなことにはならなかったのですよ」
「実は……ブルーノ王子様も含め、かの少女がどうなったのか、知りたくてやって来たんだ」
すると宰相は、口にするのが面倒だと思ったのか、書類をテーブルの上に置いた。
まぁ、態度からして歓迎されていないのは分かっていたけど。
チラッと宰相の方を見た後、ボクは書類を手に取った。
どうやらブルーノの身分はそのまま、ということになったらしい。婚約者ではない女性との交際や、学園で婚約者を蔑ろにしていたが、そもそもその婚約者の正体が婚約者ではなかったのだ。
そこについては、カーマイン公爵が弁明してくれたらしい。事前にボクから乙女ゲームの詳細を聞いて、実の娘であるミルドレッドを避難させていたのだから、当然だろう。こちらがブルーノ及び王族を騙していたのだ。
共に非があったわけだから、ブルーノの処分もあってないようなもの。ただ王族としての自覚が足らない、という国王からのお達しで、謹慎処分を食らったらしい。
「なんだ。謹慎処分くらいで済んだのか。良かったじゃないか」
「何を言っているのですか。処分としては軽いですが、評判はガタ落ちです。お陰で、次の婚約者も決まらない状況でして。誰もブルーノ王子と婚約したがらないのですよ」
「あの金髪の少女はどうしたんだよ。同じ女としても羨ましくなるほどの豊満なボディ――……」
思わず手振り身振りをしたら、宰相が咳払いをした。
いいじゃないか。宰相はボクが百歳以上の魔女だってことは、知っているんだから。これくらい。
「ともかく、件の令嬢とは婚約させられないのです」
「どうして」
「彼女が子爵令嬢だからです」
「あっ……」
乙女ゲームのヒロインであるエリアルは男爵令嬢だった。だから子爵令嬢、というわけか。盲点だったな。さらにいうと、エリアルというヒロインが実在しているため、臨時の浮気相手となった金髪の少女が贄姫になれる可能性もない、というわけか。
「困ったな」
「何が、ですか? 困ったのはこちらですよ」
「……その子爵令嬢を高位貴族の養女にもできないのか?」
「ブルーノ王子の評判を落とした令嬢ですよ。誰もしたがりません」
なるほど。そこもエリアルと違うのか。贄姫ではない令嬢には手を差し伸べない。乙女ゲームの世界だから、ヒロインに選ばれなかった、というだけで、攻略対象者の末路も違ってしまうらしい。
「カーマイン公爵も、王族を騙していたわけですが、件の令嬢を庇うことはしませんでした」
「そりゃ、できないだろうね」
実の娘ではなくても、ミルドレッドを陥れた存在なのだから。けれど、私にとっては救いの存在だ。ブルーノと結婚しなくてもいいからだ。
「今、彼女はどこに? この書類での処分は、ブルーノ王子と同じ、謹慎処分となっているけど。子爵令嬢という立場で、そのまま学園にいるのはキツいんじゃないか?」
「えぇ。ですから、彼女は自主退学しましたよ。今後、社交界に出るのも難しいと思います」
孤立無援。乙女ゲームのシステムは、どうやら金髪の少女を悪役令嬢と同じポジションとして扱ったわけか。
「そうなると、王都のタウンハウス。いや、子爵家だから領地に今、いるのかもしれないな」
「だと思います」
よし。行先は決まった。





