第37話 身分という問題
王城に行くことが決まったものの、ここでまた、問題が発生した。ボクとブルーノではない。魔女であるボクにそもそも制限はなく、ブルーノに至っては説明など不要だろう。
つまり、エリアルとギルバートだった。
「ブルーノの権限で、どうにかならないのかい?」
翌日、ギルバートの家で作戦会議を開いた。さすがに女の一人暮らしをしている家に、男が出入りしているのは、世間体が悪い、と思ったからだ。特に今後のことを思うと、余計にだ。
けれど今の問題は、平民である二人を、どうやって王城に入らせるか、である。
「まず、俺の置かれている状況を忘れていないか? 謹慎処分を食らっているんだぞ」
「えっ、なんで? というか、謹慎処分を受けているのに、どうして城の外にいられるの?」
エリアルの疑問は最もだ。だから婚約破棄後の出来事を、簡単に説明した。
「ソレハ誠ニ申シ訳ゴザイマセンテシタ」
「なんで片言なんだ。いや、謝るんだ」
「だって、私も原因の一人だし……」
「そう? 結果は変わらなかったと思うけど?」
バッサリ切ったせいか、ブルーノは何も言わなくなってしまった。というよりも、落ち込んでいるように見える。
別に本当のことを言っただけなのに、なんだよ。その態度は。
「まぁまぁ、ユニティ。それくらいにしてあげなよ。ブルーノが……ちょっと可哀想だから」
「ボクは何もしていないよ」
「そうなんだけど。まぁいいや」
何がいいのか分からないけど、エリアルは本題を切り出した。
「私にね、一つ提案があるの。それにはユニティの協力が必要なんだけど」
「いいよ。何?」
「相変わらず、即断即決だね。でも助かるよ。実はね、カーマイン公爵様の力を借りたいと思っているの」
「っ! それは名案だね。公爵夫妻は、今でもエリアルのことを大事に想っているから。きっと力になってくれるよ」
けれどカシルは、ボクの言葉とは裏腹に苦笑いしていた。公爵夫妻、特に夫人からエリアルとのエピソードを聞いていたブルーノは、ボクと同じで不思議そうな表情になっている。ギルバートはそんなボクたちの顔を交互に見て、困惑している様子だった。
「何が不安なんだい?」
「それは……ミルドレッドが戻って来たから、私は用済みなのかなって思ったの」
「だから協力してもらえない、と?」
「うん……自分から提案しておいて、なんだけど」
なるほど。ここでもパティのような感情が発生していることに、ボクの胸がズキンと痛んだ。パティの居場所を奪ってしまったミルドレッド。ミルドレッドの居場所に居座っていたエリアル。
本来の居場所に戻るだけなのに、ところてんのように押し出される図式に、エリアルもまた、困惑していたのだ。
「ボクは大丈夫だと思うよ。エリアルと同じで、ボクもミルドレッドの役を降りた身だ。それでも公爵夫妻の態度は変わらなかったし、屋敷の使用人たちも温かく迎えてくれた」
「逆に俺に対しては冷たかったがな」
「それは自業自得だよ。だけどもう、大丈夫じゃないかな。そろそろミルドレッドも、王都に戻ってきているだろうし」
いつまでも、いい思い出のない領地に置いておくほど、公爵夫妻は優しい人たちじゃない。パティに対しては同情の余地はないけど、長年ミルドレッドを預けていた乳母夫婦には、一切何もしなかったのだ。着の身着のまま、娘を見捨てる形で領地から出て行くしかない、乳母夫婦に対して。
「ブルーノの頑張りは伝わっていると思うよ。また、エリアル。君もだ」
「私? ミルドレッドの救出には関係ないよ」
「いや、年頃の娘に対する扱いに戸惑わない点については、大いに協力できたんじゃないかな」
ボクよりも、エリアルがミルドレッドの役をやっていた期間は長い。それも我が子のように接していたのだ。今、その経験が発揮されていることだろう。
「そっか。それなら、こういうのはどうかな。ミルドレッドが無事に戻った祝いにやってきましたってことで、伺うの。ユニティも一緒に行けば、不自然に思われないはずだから。ねぇ、いい案でしょう?」
「別に何もなくても歓迎してくれると思うよ? エリアルなら特に」
「き、気持ちの問題だよ~!」
よく分からないけど、照れくさいのかな。
「だってほら。その……ギルバートも一緒に行くわけだし」
「あっ、そうか。エリアルにとっては、親代わりである公爵夫妻に、彼氏を紹介するようなもんだからね」
「ゆ、ユニティ!?」
慌てるエリアルと、急に話を振られたギルバートがアタフタしている。人の恋愛事情ほど、見ていて面白いものはない。
「そのギルバート殿については、どうするんだ?」
「公爵様に、一緒に頼んでみようと思っているの。幸い、ギルバートは騎士を目指していたから、そこを見込んでもらうかなって」
「騎士……確か公爵家は独自に騎士団を有していたな」
「そっ、だから身分だけでも、お借りできたらいいんだけど……」
王城に入るためには、身分証明が必要なのだ。いくらブルーノのお供でも、身分が平民では、門をくぐるのは難しい。ゲームみたいに、勇者だとか聖女とかならいざ知らず、ただの平民では無理なのだ。
「そこは……公爵夫人にアプローチするんだね。あの人は、そういう話が好きだから。公爵も夫人のお願いなら断れないはずだ」
「だね! 公爵様は奥様に弱い方だから」
「それじゃまず、ミルドレッドの帰還祝いの品物を用意しに行こうか」
「うん!」
エリアルの気持ちのいい返事を聞くと、ボクたちは立ち上がった。早速、商店街や市場に繰り出し、目ぼしいものを探す。
ブルーノとギルバートには公爵への土産を。ボクとエリアルはミルドレッドと公爵夫人への土産をそれぞれ用意し、翌日、そっと伺う旨の手紙を出した。
すると、返事はその日の内にやって来た。ボクの予想通り、すでにミルドレッドも公爵邸にいるのだそうだ。公爵夫人がエリアルに会いたがっている、ということも書かれていたため、これで心配事もないだろう。
「ううん、あるよ! 服! このままでいいのかな」
「ボクたちも、このまま行くしかないんだから、大丈夫だよ。それに向こうだって、エリアルとギルバートの立場も分かっているわけだし」
「そ、そっか」
といったトラブルもありつつ、ボクたちは返事をもらった次の日に、カーマイン公爵邸を訪ねに行った。エリアルにとっては、久しぶりの里帰りでもある。





