第32話 活躍する攻略対象者たち
いざカシルを捕まえる、といったものの、この街のことはよく知らない。下町ともいえないほど王城から離れているため、ブルーノもボクと同じくらいだろう。だから遠慮なく、ギルバートに尋ねた。
「カシルが行きそうなところって分かる?」
これは丸投げではない、と思ってもらいたい。
「たぶん、この街と王都の境にある、林にいると思います」
「ここも王都だと思うのだが」
「確かに、地図上ではそうなのですが、この街を王都と思う人は少ないです。俺たち街の人間も、王都に住んでいる! と声を大にして言いませんし」
まぁ、ボクも田舎のような長閑さがある、と表現したくらいだから、ギルバートの言い分も理解した。
「それはともかくとして、どうしてカシルの居場所を、そんなピンポイントで言い当てられるんだい? ボクはてっきり、いくつか候補をあげてくれるものだと思っていたよ」
「……実はカシルの様子がおかしくなってから、こっそり見に行っていたんです。あっ、変な意味ではないですよ。ただ心配になって。林の中に入っていく姿を、何人も見かけているんです」
「っ! それはギルバート殿が、カシルの行動を監視した結果ではないのかい?」
するとギルバートは、ボクの言葉に赤面した。
「ユニティ……言葉を選べ」
「なんで? いいじゃないか。ギルバート殿にそこまでしてもらえるなんて、カシルが知ったら喜びそうだよ?」
なにせギルバートを追って、貴族から平民になったのだから。推しに、逆に追われるなんて、本望だと思うよ。
「あくまで、正常なカシルなら、ね」
「どういうことだ?」
「ギルバート殿の話を聞いていなかったのかい? 林の中に入っていくことは、この街では不思議に感じることなのだろう。いや、どちらかというと、普通はのこのこ入っていかない、といった方が正しいか」
ボクの指摘に、ギルバートが正常に戻ったらしい。真っ直ぐボクたちの方を向いた。
「……ユニティ殿のおっしゃる通りです。林の中は常に光が当たらず、日中でも薄暗いため、危険なんです」
「木が死角になって、襲われ易い、から?」
「はい。だから、何かあってはと思って――……」
「あぁぁぁ! うだうだするな!」
「る、ルーノ殿?」
突然立ち上がったブルーノに、ギルバートは驚きつつも、どちらかというと戸惑っている感じだった。
「お前はカシルのことが心配なんだろう? 危険な目に遭ってほしくないって思っているんだろう? どうしてそこまで分かっているのに、踏み込もうとしない! 未だここにいる!」
「それは……ルーノ殿たちが訪ねてきたからで」
「違うだろう! 俺たちから、カシルが家を出たことを聞いたではないか。もしかしたら、今日もその林に向かったのかもしれないのだぞ。ここで呑気に話をしていていいのか、と言っているんだ!」
「っ! そうでした。話している間に、カシルに何かあったら……」
ガタッと今度はギルバートが立ち上がり、玄関の方へと歩いて行く。その足は次第に速くなり、ボクたちも急いで後を追う。
「見直したよ。まさかルーノが、ギルバートに発破をかけるとはね」
「ミルドレッドの時に思ったのだ。一瞬の躊躇いが、命取りになる、と」
「……そうだね」
助けに行くのが遅かったら、ミルドレッドの命は危なかった。もしも、カシルが似たような状況にあったら、と思うだけで胸が苦しくなる。
前を行くギルバートの背中を見ながら、この気持ちが杞憂であってほしい、と願わざるを得なかった。
***
けれどボクの嫌な予感は、ミルドレッドの時と同様、当たってしまう。いや、これはギルバートルートのイベントが、発生しただけなのかもしれなかった。
「だ、誰よ、あんたたち」
そのセリフだけでも分かる。まさにボクたちが到着した瞬間に、カシルもまた、ゴロツキに遭遇した、というタイミングだ。
すかさず助けに入るギルバート。今回はブルーノもいるせいか、イベントで見た時よりも、ゴロツキの人数が多いように感じた。当然、ブルーノもギルバートの隣に並ぶ。ボクはボクで、乱闘が始まった瞬間を狙って、カシルに近づいた。
さすがに魔女のボクがゴロツキを倒すわけにはいかないからね。
「ユニティ!」
さっきボクを無視したことなど忘れたのか、カシルが抱きついてきた。だけどボクもカシルの背中と頭に手を伸ばす。
「無事でよかった」
「よくないよ……これって、あのイベントでしょう? ギルバートが来たってことは」
「君がギルバートルートに入ったってことだよ? 嬉しくないの?」
「嬉しいけど、それってつまり、乙女ゲームがまだ続いているってことでしょう?」
ボクは後ろを振り向き、ゴロツキと戦っている二人の様子を見た。さすがは騎士志望のギルバートと、ブルーノ王子様だ。
自分の身は自分で守れ、といったけど、十分、ゴロツキを抑え込んでいる。ギルバートはギルバートで、相手から武器を奪ったのか、手には剣が握られていた。
二人ともさすがだ。直にゴロツキを倒し終えるだろう。
「その話も含めて、あとでゆっくり話そう。いいね」
「えっ、それは、ちょっと……」
「ちょっとじゃない。ギルバートから話は聞いたよ。豊穣祭で何があったの? まさかとは思うけど、選ばれたわけじゃないよね」
その言葉にカシルの体が跳ねた。やっぱり、と思ったけど、ボクは言葉を続けた。
「なんで隠すの? ボクたちは同じ転生者だよ。それにボクは魔女だ。ミルドレッドと君の運命を変えた魔女だよ。君の力になれるはずだ」
「……運命」
「そうだ。ミルドレッドの運命は変わった。預けた乳母の元で、辛い目に遭っていたけど、今は公爵夫妻と共にいる。これから家族仲良く暮らしていくんだと思う。予想外だったのは、ブルーノのことを好きになったことかな」
「えっ、好きってどういうこと!? それに辛い目って」
カシルはボクの体から離れ、ようやくボクたちは顔を合わせることができた。その表情からは不安の色は見えない。今はただ、新たに舞い込んだ情報を知りたがっている顔だった。
「ボクたちは、それを知らせるために、ここに来たんだよ。だからカシル。君も教えて。何があったのかを」





