第30話 友の事情を知る者
そうと決まれば話は早い。ボクは前世でプレイした、乙女ゲームの知識を思い出そうとした。けれど残念なことに、ギルバート・オーダムに関する知識は乏しかった。
なにせヒロインとの初対面時では、すでに騎士になっていたからだ。学園に通っている最中、王都の街中でゴロツキに絡まれるイベントがある。その時、助けてくれたのが、ギルバート・オーダムなのだ。
だから本来のギルバート・オーダムは、この田舎街にはいないことになっている。それなのにもかかわらず、カシルはこの街に留まっていた。ということは、ギルバート・オーダムは騎士になっていない可能性があるということだ。
約一カ月前に立ち寄った時のカシルは、これからデートに行くような浮かれようだったのだから。仮にギルバート・オーダムがこの街を離れていたとしても、出身であるこの街には、彼の情報が必ず存在する。
とはいえ、宛もなく彷徨うのは悪手だ。田舎というのは、外部の人間が目立ってしまうのだ。特にブルーノは、ボクのローブを着させている。怪しさ満点だ。
仕方がなく、ボクは家主のいなくなった家の物陰に移動し、探知魔法でギルバート・オーダムの居場所を探した。見やすいように魔法で水晶を取り出し、机代わりにブルーノに持ってもらって。
「この景色は、この街と同じだね」
「似たような街はいっぱいあるが……」
「ギルバート・オーダムはこの街出身なんだよ。ここ以外の街にいるとは思えない。特にカシルは彼を追って、ここに住んでいるんだから」
「だが、似たような家が多い中、この景色にある家を探すのか?」
まるで干し草の中から針を探すものだと言いたいらしい。このボクがそんな面倒なことをすると思っているのか? ボクは魔女だぞ。
「探知魔法には、索敵の用途もあって、相手の位置まで導いてくれる追糸魔法というのがあるんだ」
ボクは水晶に向かって手を翳す。すると、水晶から一本の糸が出現し、大通りに向かって伸びていった。
「ブルーノには見えないと思うけど、水晶から伸びた糸が、ギルバート・オーダムに繋がっている。すまないけど、そのまま水晶を持っていてもらえるかい? ボクの恰好だと水晶を隠せないから」
「あ、あぁ。でも俺には糸が見えない。持っていても役に立つのかどうか」
「大丈夫。ボクが先導すればいいんだから」
そういっても、見えないのは不便なのだろう。不満そうな顔をするため、同調魔法をブルーノの目に施した。
「これならどう? 視覚をボクと同調させたから、糸が見えるはずだ」
「おぉ! 凄いな、これは。いや、これがユニティが見えている世界か」
「ん? 糸以外は同調させていないはずだけど……まぁいいか」
感激している相手に、わざわざ水を差すことはない。楽しそうなブルーノの横で、ボクは歩みを進めた。
***
糸が導いた先は、水晶に移った通り、特に目立った家ではなかった。逆に違う点を探す方が難しい。糸がなければ、辿り着けなかった可能性が高かったと思う。
ボクはブルーノから水晶を受け取り、箒と同じように魔法で消す。ブルーノは何か物足りなそうにしていたが、ローブ姿の男が水晶を持って近づいたら、誰が相手でも警戒するだろう。
それよりも今はカシルのことだ。何があったのか、いち早く知りたい。その衝動のまま、ボクは扉をノックした。
「どちらさまですか?」
扉の向こうから聞こえてきた声は、前世で画面越しに聞いたものと同じ。少し低いけれど、優しさを感じる。あまり人を疑わない性格だからだろうか、ボクの返事も待たずに扉を開けた。
「カシルの知り合いの者なんだけど、ちょっと話が聞きたいんだ。今、いいかな?」
すると突然、両腕を掴まれた。騎士を目指していただけあって、その力は強く……少しだけ痛かった。けれどギルバートはこちらの表情など気づいていないのか、グッと顔を近づけ、そのままの勢いで話し始めた。
「カシルの!? ちょうどいいところに来てくれました。誰かに話を聞いてもらいたくて仕方がなかったんです」
「それはこちらとしても好都合でいいんだけど……」
「手を離せ。痛がっているのが見えないのか?」
ブルーノがギルバートの腕を掴み、注意してくれた。悪気はなかったのだろう。ギルバートも、ようやくそのことに気づいたらしく、手を離した後は、ペコペコと必要以上に謝っていた。
まったく、この脳筋のどこがいいんだか。あぁそうか。だからギルバート・オーダムに関する記憶が乏しいんだ。だけど……ボクの推しは誰だったっけ。ボクに関する記憶は薄いんだよね。
まぁ今はそんなこと、どうでもいいや。乙女ゲームの知識があれば、それだけで。
「すみません。カシルの知り合いだと聞いて、思わず」
「一つ聞きたいんだけど、どうしてそんなに過剰に反応したんだい?」
「それは……カシルがこの街に来てから、知り合いを見たことも、聞いたこともなかったからです。あっ、この街にはカシルの友人や知り合いはいっぱいいますよ。俺が言っているのは……」
「分かっている。この街に来る前のってことだろう? あと、家族とかそういうの」
「……はい」
でも普通は、これほど過剰に反応することはない。本当に気になれば、直接カシルに聞けばいいし、それで関係がギクシャクしたのなら、それっきりになる。今更現れたボクたちに関心を寄せるとも思えない。つまり……。
「それってカシルに何かあったってことだよね。しかも君には詳しいことを話していない。だからボクたちが現れたことに喜んだ。合っているかい?」
「まさにその通りです。実は……って玄関先で話すことではないですよね。どうぞ入ってください」
ギルバートに促され、中に入る。お客を中に入れ忘れるほどカシルのことが気がかりだった、と思うと、二人の関係は良好だったのだろう。
約一カ月前に見た、カシルの嬉しそうな顔は、ギルバートが引き出したもので間違いなさそうだ。そんなギルバートにすら、何も言わないなんて……一体、何があったんだ、カシル。





