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魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 悪役令嬢との出会い

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第23話 意気込みと不穏が混ざり合う夜

 宣戦布告をしたからといって、すぐにどうこうできるわけではない。ボクたちは一旦、ヴァルクの宿屋に来ていた。

 窓辺にある椅子に座りながら、マイナの言葉を思い出す。


『最後の仕事かもしれないからです』


 あれは覚悟の表れだったのかもしれないが。


「最後、にしていいのかな」

「何をだ?」


 宿屋の外を眺めていると、ブルーノが椅子を持ちながら近寄ってきた。ボクの前に椅子を置き、向き合う形になる。


「マイナ……いや、ミルドレッドでいいかな。まだヴァルクにいるけど、ここは宿屋だから」

「……あぁ、そっちか。俺はてっきり、すぐに片をつけるのかと思っていた。パティを叩きのめして、ミルドレッドをカーマイン公爵に引き渡すのかと。ユニティにはそれをするだけの理由と、力があるじゃないか」

「いくらなんでも、むやみやたらに武力行使はしないよ」

「だが、俺の時はそうだったじゃないか。問答無用に言いくるめて、去って行った」


 学園の食堂で、婚約破棄を言い渡して来た時のことかな?


「武力行使していなくても、その後の過程は似たようなものだっただろう?」

「……それは自業自得でしょう? 何も調べないし、根回しもしない。そんな状態で簡単に婚約破棄ができたら、誰も苦労しないよ。わざわざボクが、ミルドレッドになる必要もなかったわけだしね」


 まずそこを考えてほしいよ。


「だが、お陰で別視点から、本来の婚約者であったミルドレッドを見ることができた」

「そういえば、ブルーノを連れて来た目的でもあったね。どうだった? 君から見た、ミルドレッドは」

「俺とよく似ていた。自分は優秀だと過信して、周りを頼ったり、使ったりするどころか、使われている。俺と違うのは、その状況を受け入れてしまっているところだろうな」

「……だから、優しくできなかったのかい?」


 驚くブルーノに、ボクはそのまま言葉を続けた。


「ミルドレッドとの会話を、盗み聞きしてしまったことは謝る。ただ、どうして優しい言葉ではなく、厳しい言葉をかけたのか、疑問だったんだよ」

「自分に似た存在に、優しい言葉なんてかけられるわけがないだろう。こうすればいいのに、あぁすればいいのに、とか。余計なことばかり頭に浮かんでくるんだから」

「まさに人の振り見て我が振り直せ、だね」

「なんだそれは」

「遠い国の言葉だよ。他人の善悪を見て、自分の言動を反省して、悪いところを直せ、という教え。同族嫌悪、ともいう」


 そうか。王子と悪役令嬢は似た者同士だったから、二人は相容れることなく、婚約破棄という結末に至るのか。

 どうやらボクの選択は間違っていなかったらしい。ブルーノもそうだが、ミルドレッドも不器用な生き方しかできないようだからだ。


「二人とも、難儀な性格をしているね」

「……返す言葉もない」

「だけどブルーノの言葉のお陰で、ミルドレッドは考えを改めてくれた。ただ悲観するだけじゃなく、自分の非も認めた上で、前に進もうとしている。いいことだよ」

「俺も少しは役に立ったんだな」


 ホッとするブルーノに、ボクはさらに言葉をかける。


「落ち込むボクに、発破をかけてくれたじゃないか。役に立ったどころじゃないよ。凄く助かった。ありがとう」


 もっと褒めてあげたいけど、これ以上言葉が浮かばなかった。だからボクは立ち上がり、ブルーノの頭を撫でる。普段、叩いているせいか、頭に触れた瞬間、ブルーノがビクッと反応した。

 これにはちょっと罪悪感と申し訳なさを感じた。なるべく控えようと思えるほど。


「……針子たちから聞いた情報も、役に立つか?」

「そうだね。もしも彼女たちがパティを笠にミルドレッドを虐めていたのなら、公爵に報告する必要がある」

「違っていたら?」

「ミルドレッドが告げ口をするとは思えないけど、何かお咎めがあったら、庇うことができるよ」


 窓から彼女たちの様子を見ていたけど、判断材料としては薄い。だからブルーノの話も聞いてみたかった。


「そうか。なら大丈夫そうだな。針子たちは、パティにミルドレッドがサボっていないか、監視も頼まれていたらしい。覚えているか? 俺たちが工房に入った時、パティがミルドレッドに言っていたことを」

「勿論。ミルドレッドに頼んでおいた仕事が、半分しかできていなかったことに、激怒したんだ」

「だから、針子たちも同様に怒られた。俺が見たのは、その腹いせだ」

「なるほど。そうやってパティは、ミルドレッドを孤立させるばかりか、八つ当たりの捌け口にしていたわけか。自分だけでなく、針子たちもそうするように誘導するなんて……えげつないね」


 いわゆる、恐怖政治みたいなものだ。小規模だけど、工房という小さな世界だから、同じともいえる。


「針子たちは雇われているから、そもそもパティには逆らえない。ミルドレッドを可哀想だと思うけど、自分たちも必死だから、と言っていた」

「自分の母親でさえ、支配している女だよ。針子たちが従うのも無理はない」


 常にミルドレッドを怒鳴る姿を見ているんだ。その矛先が自分たちに来る恐怖を考えれば、ミルドレッドを助けている余裕なんてできるはずもないんだ。


「ますます遠慮をする必要がなくなったね」

「……その、意気込んでいるところ悪いんだが」

「何?」


 ここは空気を読んで、そっとしておいてほしかったんだけど。


「本当に同じ部屋で休む気か?」

「当たり前だろう? お金はなるべく節約しないと」

「だが、一応、俺も男なわけで」


 顔を赤らめるブルーノには悪いが、十八歳の男など、百歳を超えたボクにとっては子どもに等しい。だから男、といわれても、なのである。


「ボクが気になるなら、犬か猫に変身しようか? その方が気が紛れるだろう」

「そういう意味で言っているんじゃない!」

「じゃ、どういう意味だよ」


 するとブルーノは、何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたらしい。「知らん!」といって、部屋から出て行ってしまった。

 一人取り残されたボクは、再び窓の外へと視線を向ける。今頃、パティはどうしているだろうか。ダーラがいないことに、気づいたかな?



 ***



「母さん! なんで明かりも付けないの!?」


 仕事がひと段落つき、パティは住まいである建物の扉を開けた。すでに空は月が輝き、星と雲が一緒になって絵を描いているようだった。


 そんな夜ともいえる時間に、パティは父親に今日の売上を報告し、工房を覗いて、進捗を確認。手が遅いと、マイナと針子たちに発破という怒鳴り声をお見舞いしていた。


 けれどパティのイライラは晴れない。その原因が、これだ。


 一日中、馬車馬のように働いていたのに、出迎えもない。温かい食事もない。目の前にあるのは、暗くて冷たい家だった。


「母さん! どこにいるのよ!」


 再び母親を呼ぶが、返事がない。日中だったら、買い物に出かけたのかな、と思うところだが、今は夜だ。そんな時間に母親が不在だったことはない。


 いつも、「お疲れ様」と出迎えてくれるのだ。自分にしか見せない、母親の顔で。この時だけは、唯一穏やかになれる瞬間なのだ。

 だからパティは、マイナと針子たちが自分よりも先に休ませることは、絶対にさせなかった。


 その当たり前で、自分の拠り所がいない。


 まさか、と思い、工房へ急ぐ。


「母さんの特別はいつもあの子。マイナ……ううん、ミルドレッドなのよ」


 カーマイン公爵家の縁者が来たから、ミルドレッド、あの子が何かしたに違いない。


「もしかして、仕事をサボっていたのも、このためだったっていうの?」


 許さない。許さないんだから!

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