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魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 悪役令嬢との出会い

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第22話 宣戦布告

 マイナが仕事を再開したのと同時に、部屋を出ると、廊下でブルーノと出くわした。どうやら針子たちから話を聞き終えたらしい。めぼしい情報を手に入れたのか分からないが、ボクの顔を見るなり、駆け寄ってきた。


「どうだった?」

「それはこっちの台詞だよ。だけど……ありがとう。ルーノが先にマイナに接触してくれていたお陰で、警戒されずにゆっくり話せた」

「少しは役に立って良かったよ」


 思わず目をパチクリさせた。それを見たブルーノが怪訝な顔をする。


「なんだよ」

「ボクは君を預かっているだけで、そんなことを求めていなかったんだから、驚くもの無理はないだろう?」

「……お荷物だっていう自覚はあったが、よもやそこまで……いや、まだ達していなかったのか」


 なぜかブルーノが、ぶつくさ言いながら沈み込んでいる。ボクは気にせずに、工房の出入り口へと進んだ。


「何しているの? ほら早く行くよ」


 すると、ボクよりも大きな体をしているのに、まるで子犬のような顔をして駆けてきた。


 何がそんなに嬉しいのだろうか。ボクは首を横に傾けた。


 だけど、ここでやるべきことはすべてやった。ミルドレッドの事情を知り、覚悟も聞いた。また、白だった乳母をカーマイン公爵家に転移もさせた。

 あとは事情を聞いた公爵が、うまくやってくれるだろう。なにせ自分の領地内の出来事なのだから。ボクがブルーノに婚約破棄を言い渡されたり、正体がバレたりした後よりも、簡単なはずだ。


 ふふふっ、と軽い足取りで中庭に出る。


「そうだ。無断で帰るわけにはいかないよね。折角だから、挨拶して行こうか」

「……悪趣味だな」

「君に言われたくないよ。それに、確認したいこともあるし」

「確認?」


 ボクは首を傾げるブルーノを余所に、工房の反対側にある、立派な建物の裏口へと回った。確かパティは、裏口からならいいと言っていた。けれどボクたちの存在を忘れたかのようにマイナを叱ったのだ。当然……。


「ちょっと、あんたたち! どこから入って。じゃなくて、誰が入っていいって言ったのよ!」


 うん、忘れているよね。しかも裏口に入った途端、バックヤードにいたパティと出くわすんだから、ついているようでついていなかった。

 テーブルの上にある帳簿を開きながら、紙を手に取っているところを見るに、売上とかを記入していたのかな。もしくは注文書を見ながら、顧客情報を記入していたのかもしれない。


 この世界のドレスや服は、オーダーメイドだ。特にセジヴェルは、貴族を相手にしている店でもあるから、こういう情報は大事なのだ。


 まぁ、どちらにせよ。マイナに対する扱いはともかくとして、商売人としてはキチンとした性格のようだ。口は悪いけど。


「パティが言ったんじゃないか。「そうね。裏口、でいいのなら構わないわよ」って。もう忘れたの?」

「その裏口っていうのは、中庭に通じる入口で、店まで見せるとは言っていないよ。それにユニティだって「表の客に見えなければいい」って言っていたと思うけど?」

「表の客に遭遇していない。約束は守っているよ?」


 百歳を超えたボクに、口で勝てるとでも? まぁ、武力でも圧勝だと思うから、揶揄うのはその辺にしておいた。


「それに、ボクたちはもう宿に戻るからさ」

「あら、じゃもうここには、来ないってことね。探していた人が見つからなくて、残念だったわね」

「ふふふっ、それはどうかな?」

「……嫌な笑い方をするわね。ともかく! もう二度と来ないでちょうだい」

「それは無理だよ。ボクたちはカーマイン公爵家の縁者だよ? もう忘れちゃったの?」


 ここヴァルクはカーマイン公爵領だ。マイナのことを抜きにしても、領主の縁者を無下にすることはできない。


「ボクたちはもう一度ここに来る。覚悟しておいてね」


 思わず宣戦布告をしてしまった。だからといって、パティは逃げないだろう。マイナのために用意した店だが、パティが切り盛りをして大きくした店だ。それもまた、マイナの刺繍の腕によるものだろうけれど、それだけで他の貴族の目に留まる店になるはずはない。

 センスのいい針子を雇い、工房をまとめ上げ、お客の要望を上手く汲み取る情報処理能力。経営をダーラの旦那がしていたとしても、こればかりはパティの力が大きいように思えた。


 だからこそ、パティの態度はでかいのだ。実績の上の自信。店の評判。盛り立ててきた手応え。


 ただ一つの欠点が、マイナに対する嫉妬。劣等感。それさえなければ、ボクも君のことを認めていたよ。


「残念だなぁ」

「何が?」

「ううん。なんでも。あっ、そうだ。忘れるところだったよ。中庭の白いデイジー、アレを世話をしているのは誰だい?」

「……知らないわよ。たぶん、それでしか慰められない、哀れな子がしているんじゃないの?」


 『子』、ね。母親なら『子』とは表現しないだろう。やっぱりマイナが……。


 ダーラの考えで、淑女教育を受けていたマイナなら知っているだろう。デイジーの花言葉である「希望」と「平和」を。


 まるでマイナの心だと思った。この状況から抜け出したい「希望」と、自分が耐えることで保たれる「平和」

 無意識に訴えかけていたのだ。もっと早く様子を見に来れば、マイナのSOSに気づけたのに……今となっては過去の後悔だ。


 そのしがらみを追い払うように、ボクは再び裏口を通り中庭に出た。けれど目に入る白いデイジーを素通りすることはできなかった。


「もしかして、マイナが?」

「たぶんね」


 ブルーノも知っているのだろう。デイジーの花言葉を。仮にも、一国の王子なのだから。

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