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魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 悪役令嬢との出会い

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第21話 悪役令嬢と向き合うこと

「おい、大丈夫か?」


 頭上から聞こえてくる声に、少しだけ目を開けると、凄い近距離にブルーノの顔があった。


「っ!」

「あっ、目が覚めたようですね。良かったです」


 さらにマイナの顔も大きく見えて、ボクは戸惑った。


 これは……どういう状況? いや、思い出せ。直前の記憶を。確かボクはブルーノとマイナの様子を窓越しに見ていて、それから……そうだ。頭をぶつけたんだった。鳥の姿で……鳥の姿!?


「ピピっ」


 咄嗟にピョンと起き上がり、羽を広げて見せる。ブルーノはともかくとして、マイナの前では鳥、ということにしておかないとマズいのだ。ボクが魔女だということを知られるわけにはいかない。

 だけどこういう時、困った奴がこの場にいることを、ボクは失念していた。そう、空気を読めない、いや壊す男がいる、ということに。


「普通に話すか、返信を解くかにしろ。マイナには事情を話してある」

「っ! このバカ者が!」


 ブチっと切れた瞬間、条件反射のように元の姿に戻ったボクは、浮いた状態のまま、箒でブルーノの頭を叩いた。


「ってぇ!」

「自業自得だ。気遣いも優しさもないバカ者には、これくらいのお仕置きが必要だからね」

「な、何をするんですか、いきなり。この人は私の恩人なんですよ」


 なぜかマイナが、頭を押さえるブルーノに駆け寄り、労わる姿を見せた。


 恩人っていうけど、その男は君を破滅に追いやる存在だったんだよ? 今はもう婚約者でもなんでもないから違うけど。それでも警戒くらいはしてほしかったかな。


「いや、このくらいの方がユニティらしくていい。どうやら元に戻ったらしいな」

「……もしかして、わざとやったのか? 性格悪いぞ」

「それはお互い様だろう。すまないな、マイナ。君の恩人は俺ではなく、彼女だ。ユニティが君を助けたいと願ったから、俺は君を助けたに過ぎない」


 ブルーノは立ち上がりながら、マイナの手をどかした。


「で、でも……私は……」

「ごめんね。いきなり見苦しい姿を見せてしまって。怖かっただろう?」


 ボクは気遣いもできないブルーノを無視して、マイナに向き合い、回復魔法を施した。すでに変身魔法で正体がバレている以上、遠慮をする必要はなかった。

 マイナ……ミルドレッドをこの工房で見た瞬間、ずっと治してあげたかったんだ。叩かれた頬だけでなく、服の袖から見える擦り傷や痣。指先も荒れていて、涙が出そうだった。その姿があまりも想像以上に酷かったものだから、ショックで出なかったけど。


「……私はいいんです。慣れているので。それがどのくらい痛いのか、というのも」

「慣れちゃいけないよ。それにボクたちの場合は、ちゃんとその後、回復魔法で痛みさえも治しているから大丈夫」

「それは俺の台詞だと思うが……でも、確かに慣れるのは良くない。あと俺たちのは……なんというか、マイナのとは違うから安心しろ」


 いや、これも違うな、と後ろでぶつくさ言っていたが、マイナの表情が和らいだので良しとした。


「よく分かりませんが、お二人がそういうのなら、問題ないということなんですね」

「親愛の証のようなものだ」

「親愛?」


 ボクはそんな意味で叩いていたわけではないんだけど?


「さっきまで、ユニティはマイナのことでへこたれていたんだ。普段は俺のことを箒で叩くような女が、だぞ。だからこれはこれでいいんだ」

「……ブ、じゃなかったルーノ。それを本人の前で言うのは……」

「いいじゃないか。俺はまだ、針子たちから話を聞けていない。お前はお前で、マイナと話すことがあるだろう?」

「っ!」


 なんなんだよ。空気が読めない言動をしたり、突然気を遣ってきたり……調子が狂うじゃないか。


 けれどこの状況に戸惑いを見せていたのは、ボクだけじゃなかった。マイナだ。突然現れたばかりか、恩人に手を挙げた暴力女と話せと言われれば、誰だって戸惑うだろう。

 そんな一歩踏み出せない二人を余所に、ブルーノはさっさと部屋を出て行ってしまった。


 取り残されたボクは、改めてマイナを見る。痛んだ肌と髪は、ボクの回復魔法でも治せるものではない。けれど公爵夫人に似た品と美しさは損なってはいなかった。

 パティが妬んだのは、何も親の関心や愛情だけではなかったのだろう。マイナの洗練された美しさと比較されるのが嫌で、表に出したくなかったのかもしれない。パティは……ダーラによく似ていたからだ。


 公爵夫人に仕えていた乳母のダーラ。その二人に似たマイナとパティ。二人並んだら、誰がどう見ても、主人と侍女に見えてしまう。


 そんな理不尽な嫉妬を、当たり前のように享受させていたなんて……ボクは言葉を発するより前に、体が動いていた。


「えっ! あの……」


 急に抱きつかれて、マイナが戸惑いの声を上げる。だけど抵抗する様子はなかった。ボクはこれ幸いにと、そのままの体勢で話し始めた。


「ごめんね。様子を見に来るのが遅くなって。ずっと、君が幸せに暮らしていると思っていたんだ。ボクの判断は間違っていなかった、と思いたくて。でもそれはボクのエゴだった」

「な、何を、おっしゃっているんですか?」

「ボクはね……君を祝福した魔女だ」

「えっ……では、あなたが私を助けてくれた、魔女様?」


 ダーラから何を聞いたのか、そこで瞬時に理解した。本当の家族から引き離されたことを、マイナに納得させるために、都合よく改変したのだ。


「今、辛い状況なのに、ボクを恨まないのかい? 本当の家族のところにいた方が、幸せだったかもしれないんだよ」

「……さっきまではそう思っていました。でも、ルーノさんに言われて、気づいたんです。私の過信が、この状況を招いたんだってことに。自分にしかできない。自分がやらなければ、パティが困る。ダーラが困る。皆が困る。私は可哀想なんだ。本当の家族から引き離されて、私は可哀想だから、これくらいやって当然なんだって。それもまた、間違っていたんですよね」

「誰にも迷惑をかけない生き方はできないよ。ドレス作りだってそうだ。マイナが刺繍をして、針子たちが縫い合わせていく。一人でドレスを作っているわけじゃない。本当の家族から引き離されたことも、嫌なら嫌だって言ったって良かったんだよ。声を上げれば、皆、君のために考えて動くから」


 ダーラが公爵に報告をして、マイナを引き取っていたかもしれない。表には出せなくても、カーマイン公爵家にとっては、それが一番幸せな形になる。


「だけど、結果論でしかないよね。今更、こんなことを言っても」

「……そんなことはないです。もう手遅れだったら、ルーノさんは私に指摘などしないでしょうから」

「う~ん」


 それはどうかな、考えなしに言ったとも思えるけど、これは言わないことにした。マイナのやる気に水を差したくなかったからだ。


 ボクはマイナを離し、真正面から彼女を見つめる。その目はもう、ボクに対する疑念を抱いていない目立った。恨みの色も見えない。だからボクも堂々と言えた。


「君はどうしたい? ボクは君の願いを叶えたい。本当の意味で、君を助けたいんだ」

「……この状況を変えたいです。ううん、抜け出したい。それから……本当の家族にも、会ってみたいです」

「それによって、誰かが被害を被ることになる。その覚悟はある?」


 マイナは言った。「自分がやらなければ、パティが困る。ダーラが困る。皆が困る」と。その優しさは美徳だけど、今は邪魔でしかない。

 なにせボクは、これからそのパティに制裁を加える。マイナを、ミルドレッドを傷つけた者を許す気はないからだ。


「はい。たとえ、恩を仇で返すことになっても」

「いい覚悟だ。それにダーラも、覚悟は出来ているよ」

「それならば、今、任されている仕事はちゃんとやらなければ、ですね」

「どうして?」

「最後の仕事かもしれないからです」

「そうだね」


 ボクは仕事に取り掛かるマイナを目で追った。

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