第18話 王子の励まし(ブルーノ視点)
ユニティはカーマイン公爵夫人に弱い。
公爵家で夫人と対面した時の危うさと、相反する包み込むような愛情を見れば、なんとなく分かる。拒絶できないのだ。だから弱くなる。
俺もまた、父上からの期待と母上からの愛情を、煩わしいと感じつつも、拒絶できずにいるのだ。それに応えられない自分がもどかしくて。
だからユニティの気持ちが少しだけ理解できた。
その公爵夫人に似た少女が、目の前で床に手をついている。カーマイン公爵と同じ髪と瞳をした少女が。
後ろにいても分かるほど、ユニティが絶句をしているのを感じた。あれは……俺でも分かる。
本物のミルドレッド・カーマイン公爵令嬢だということを。
***
「おい、大丈夫か?」
パティの指示で外に出された俺とユニティは、中庭に置かれていた椅子に並んで腰かけた。正面でもよかったのだが、愕然とした顔を見るのが忍びなかったのだ。
普段は平然と、俺を箒で叩く癖に、こういう姿になると、途端に女に見える。それも、百歳を超えているとは思えないほど、少女の姿に。
「さすがにこれは……予想外だったか?」
すると、横にいても感じるほど、身を震わせていた。その瞬間、言葉を間違えたと思った。けれど気の利くような言葉も浮かばない。
「……仮にも、仕えている家の娘だよ? あんな扱いを受けているなんて、誰が想像できるの?」
「ならば確認すればいいだろう?」
「したじゃないか。たった今、そこで! お前の目は節穴か!?」
椅子から立ち上がり、ユニティは俺を睨みつけた。
「節穴はどっちだ? あの女は乳母じゃないだろう?」
「そう……だけど。彼女は血縁者だ。苗字が同じだったし、顔だって似ている」
「ならばここにいるのではないか? 先ほど、住まいも一緒だと言っていたしな」
ウロウロするな、とは言われたが、それはユニティを人間だと思っているからだ。俺はユニティの耳にそっと話しかけた。
「俺は針子にそれとなく情報を聞き出してみるから、お前は魔法で、乳母を探せ。姿を隠せるんだ。何を遠慮している」
ユニティ一人なら、こんな回りくどいことはしなかっただろう。俺がユニティを追いかけに行った時、彼女はずっと魔法を使っていた。
それなのに、俺といるようになってからは一切使っていないのだ(箒を取り出しているのはノーカンだ)
魔女の掟など、まったく知らんが、それがユニティのポリシーなのだろう。だが、今はそんなことを言っている場合ではないと思った。
「もしもそれで騒ぎが起きたら、それ以上の騒ぎを俺が起こすから安心しろ。知っているだろう? 俺は騒ぎを起こすのが得意だってことを」
「学園の食堂で、婚約破棄を言い渡してくるような問題児だもんね」
「器用に立ち回るのが苦手なだけだ。だけどそんな俺でも、サポートくらいはできる」
するとユニティは、目をパチクリさせた。
「よ、弱った時は、お互い様だろう?」
「それをいうなら、困った時だよ。まぁ、今のボクの状況としては、弱った時、なんだろうけど……ありがとう」
まさか感謝の言葉が返って来るとは思わず、今度は俺の方が驚かされた。
「ボクだって、ありがとうくらい言えるよ」
すると、すぐにユニティが拗ねた顔をした。
なんだろうな。箒で俺を叩くような乱暴で、口が悪いのに、さっきのような弱い姿を見ると、何かしたくなる。してあげたくなる。
こいつは魔女で、俺の婚約者に成りすましていた女だというのに。ついでにいうと、俺を破滅に追い込んだ女でもある。
そのユニティの傍にいれば、復讐の機会も得られるだろう、と思っていた。あわよくば、国の外に出られるのではないか、とも。しかしそんな下心など、吹き飛ぶほどの弱々しい姿を見せられたら……守りたくなってしまうではないか。こんな俺でも。
だからさっさと元の調子に戻ってくれ。箒で叩かれるのは嫌だが、弱々しい姿を見せられるよりかはいい。
「感謝なら、言葉ではなく態度で示せ。いつもの憎まれ口はどうした? そっちの方が、お前には似合うぞ」
「っ! 少しでも見直した、ボクがバカだったよ」
そう。そういう姿の方がユニティらしくていい。俺も変な気持ちにならなくて済むのだからな。





