第17話 魔女の嫌な予感は当たる
やって来たのは、ヴァルクの商店街の中でも、一際目につくブティック店。いかにも高級だと感じる洗練された外観と、入口の横に並べられたドレスなどの展示の数々。王都でも、これほど大きな店はないだろう、と思わず感心してしまった。
けれど王都では、逆にそれほど大きな規模の店を構える必要はないのだ。貴族はそれぞれ仕立屋を自宅に招くケースが多く、直接店に出向くことはない。だからブティックというよりも、工房という役割が占めていた。
「ここがウチの店、セジヴェルよ」
家名のセジベンスを弄った店名か。なるほど。パティが大きな顔をするのも理解できる。名前もそうだが、チラッと中の様子を窺っただけでも、店内にはお客の姿があった。それも、身なりの良い男女が二組も。
「ちょっと、何しているの? こっちよ。あと、あまり店の前で立ち止まらないで」
「すまない。なかなかの店だと思ってね」
「今更、おだてても無駄よ。裏口からって約束したでしょう?」
「ただ感想を述べただけだよ。表から入りたいとは思わないし」
するとパティに睨まれたが、別に嫌味を言ったわけではない。単に、毛色が合わない店に、好きこのんで入りたいと思わなかっただけだ。どちらかというと、ボクは魔法薬店の方に興味がある方だからね。
ブルーノはどうだろうか、と視線を向けると、やはりそこは王子だからなのか。パティに指摘を受けたのにもかかわらず、セジヴェルの方を見ていた。けれどボクの視線に気づくと、すぐにその態度を改める。
パティの言動にも、目立った反応を見せていなかったから、中には入っても、面倒事は起こさないだろう。そういう部分は、生まれの良さを感じざるを得なかった。
「さぁ、さっさと入ってちょうだい」
店の脇にある小さな扉を開けながら、パティが催促する。その間も、周りに人がいないか、きょろきょろを顔を動かしていた。よっぽどボクたちが、中には入るのを見られたくないようだ。
だけど扉をくぐると、その憂鬱が吹き飛んだ。いきなり中庭に続く小道が現れたからだ。
「工房はこの先よ。住まいも一緒だから、あまりウロウロしないで」
「あぁ。それにしても、意外に綺麗にしてるんだね。こういう場所はゴミ置き場になり易いのに、花壇が並んでいるとは思わなかったよ」
「……お客の見えないところでも、ちゃんとしているのが一流ってもんだからね。当たり前でしょう」
「確かに。植えられている花も素朴な感じがしていいな」
ブルーノも珍しく感心している。さらにその場で跪き、白い花に手を差し伸べている姿など、様になり過ぎていて、パティが顔を赤らめていた。
普段、ボクが粗雑な扱いをしているせいもあって忘れられているが、これでも一国の王子である前に、乙女ゲームの攻略対象者だ。黙っていれば、爽やかイケメンなのである。
「き、気に入ったのなら、あげるけど?」
「いらん。ここにあるから、美しさを感じるのだ」
「っ! あっ、そ! あとで欲しいと言ってもやらないからね」
ブルーノに断られたのが、そんなに癪に障ったのか。パティは速足で、ボクたちの横を通り過ぎ、奥へと向かっていってしまった。
「どうやらこの花の世話をしているのは、あの女ではないらしいな」
「だね……何か気になるかい?」
「分からない。ただ、会ってみたいと思っただけだ」
そういうと、ブルーノは立ち上がり、パティの向かった方へと歩き出す。ボクはボクで、ブルーノとは違った意味で、その白い花が気になった。
けれどそれ自体は、珍しい花ではない。前世でも見たことがあるデイジーだ。白のデイジーの花言葉は「無邪気」だけど、デイジーのみの花言葉は「希望」や「平和」がある。
手を差し伸べるほど気にかけるブルーノと、自分が育てたものではないのに気安く差し出そうとするパティ。
嫌な予感がしつつ、ボクも二人の後を追った。
***
そういう予感ほど、当たってほしくはないのに、当たってしまう。
工房の扉らしき入口で、足を止めているブルーノを見つけた。どうして中に入らないんだろう、と思った瞬間、その理由が耳に飛び込んで来た。
「私が買い物に行っている間に、これを全部やっておきなさいって言っておいたでしょう! 半分もできていないなんて、今まで何をしていたのよ!」
パティの怒鳴り声が聞こえてきたのだ。思わずボクは、ブルーノに小さく問いかけた。
「何があったの?」
「さぁな。俺も扉を開けたら、突然、始まったんだ」
「ボクたちを連れて来たことを忘れたのかな」
「もしくは、忘れるほどの案件なのかもしれん」
パティの物言いからすると、仕事関係なのが見て取れた。だからブルーノも、遠巻きにしているのだろう。部外者が口を出していい案件ではないからだ。
だけどボクはブルーノを押し退けて、さらに中には入る。すると、遠巻きに見ていたのが、ボクたちだけではなかったことに気づく。
おそらくこの工房で働いている針子なのだろう。ボクたちの姿を捉えたものの、パティを刺激したくないのか、追い出そうする素振りさえ見せなかった。
お陰でボクは、パティが誰に怒鳴っているのかを、見ることができた。
「ほんと、愚図なんだから」
「っ!」
パティの前で頭を垂れているから、顔までは見えない。だけどその髪の色は銀髪。後ろで一つに束ねたその髪に艶はなく、床についている手や腕の傷。着ている物の汚れから、いい扱いを受けていないことは一目瞭然だった。
「ちょっと今、取り込み中なのが見て分かんないの? 誰か、そこの二人を中庭に連れて行って」
ボクの息を吞む声が聞こえたらしく、パティが振り向いて、近くの針子に指示を出す。その時、銀髪の少女が顔を上げた。青い瞳と目が合った瞬間、ボクは確信した。
この少女はミルドレッド、だと。
憎まれ口を叩く魔女ユニティのお話を読んでいただき、ありがとうございます。
毎日追ってくださっている方がどれほどいるのか分かりませんが、18話からは一日置き更新に変更します。
本物のミルドレッドを発見した後、ユニティとブルーノがどう動くのか。どう感じるのか。
また、ブルーノはヒーローに昇格できるのか、など楽しんでもらえたらな、と思います。
因みにこの作品は、恋愛要素は本当に少ないです。





