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魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 悪役令嬢との出会い

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第16話 交渉ごとはお手のもの

「あぁ〜。分かったわよ。店でもなんでも、好きに見ていきなさい。でもそんな安っぽい服で、ウチの店に入られるのは困るわ」


 茶髪の女性は荷物を抱え直しながら、改めてボクたちを見る。上から下まで値踏みするような視線。脳内で計算しているのが見て取れた。

 手のひらを返すのか、無難に接するのか、考えているのだろう。ボクとしては、今まで通りの方が相手しやすくていい。いきなりすり寄って来られるよりかは、幾分マシだったからだ。


「そう言われても、手持ちの服はこれしかないんだよ。なんとかならないかな? 君の話を聞く限り、どうやら責任者のようだし」

「……服は提供できないわ。商売道具だからね。はいよって簡単に渡せるほど安いものじゃないの。だから……そうね。裏口、でいいのなら構わないわよ」

「さすがに服を要求する、なんて野暮なことは言っていないさ。あと、表の客に見えなければいいってことなら、ボクたちにとっても都合がいいしね」


 ヴァルクは広い街だけど、やって来て早々、乳母に似た女性に出会ってしまったのだ。これはミルドレッドに遭遇する可能性だって否定できない。さらにいうと、乳母本人にも。


 とはいえ、どこにいるのか、だいたいの見当をつけておかなければ、その可能性を高めてしまうことだってあり得る。透視魔法で姿を消せすことはできるが、今はブルーノという同行者がいるため、なるべくそれは避けたかった。


 人間に見せる魔法は必要最低限であること。これは魔女の鉄則だ。利用されないためには、相手に情報を与え過ぎないことが一番なのだ。


 だけど時にはリスクを冒す必要がある。


「なにせボクたちは、ある人物を探しにやって来たんだからだ」

「……カーマイン公爵家に頼まれて?」

「そこまでは言えない。だけど、君の店にいる可能性もあると思うんだ」


 ボクたちを田舎者扱いをした、ということは、それなりの高級店なのだろう。そうなると、店先をウロウロしていては怪しい者だと疑われる。すでにそう思われているんだろうけれど、それは目の前の彼女に対してなら問題はない。


 今は自分の店に、該当する人物がいるのかどうか、頭をフル回転させていることだろう。

 仮にミルドレッドに思い至ったとしても、カーマイン公爵家と関わりのある人間が、わざわざ彼女を探すことはあり得ない、という事実に行き当たる。なぜなら、公爵が今もミルドレッドの所在を把握しているからだ。

 それは乳母が、今も尚、カーマイン公爵家に報告していることに他ならない。


「だから協力してくれないかな。悪いようにはしないからさ」

「言い方がすでに、悪いように聞こえるんだけど」

「そうかな。ボクは至って普通に交渉しているつもりなんだけど?」


 まさか商売人の癖に、この程度のことでビビっているのかい?


「っ! 口の減らないガキね。別にやましいところなんか、一つもないんだから、好きに見ればいいわ」

「うん。交渉成立だ。ボクはユニティ。こっちは……」


 さすがに本名はマズいよね。


「ルーノだ」

「ふ~ん。ユニティに、ルーノね。私はパティよ。パティ・セジベンス」


 さすがによろしく、と握手を求められはしなかった。けれどそんなことはどうでもいい。

 セジベンスという姓を聞いて、ボクはやはり、と内心ほくそ笑んだ。カーマイン公爵から聞いていた乳母の名が、ダーラ・セジベンスだったからだ。間違いなく、血縁者だろう。


 ブルーノよりも若干年上に見えることから、娘か姪と見るのが妥当なところかな。


 今度はボクの方がパティを値踏みしていると、どうやらそれは気に食わなかったらしい。「ふんっ」と、行先も告げずに歩き出してしまった。


 まぁ、買い物帰りのようだから、このまま店に向かうんだろうけど。それに交渉した後だからね。これで店に向かわなかった方がおかしい。


「さて、ボクたちも向かおうか、ルーノ」

「……お前はそのままでいいのか?」

「ん? なんのことだい?」

「名前だよ」

「あぁ」


 パティと少しだけ距離を取りながら、ブルーノに話しかける。


「カーマイン公爵家の縁者だと思うのならば、いずれ向こうに連絡をするだろうさ。その時、偽名を使っていたら、カーマイン公爵家の名に傷がつくし、ボクへの信頼も失うかもしれない。それは嫌だからね」

「……なんとなくだか、ユニティの基準が分かってきたような気がするな」

「ブ……いや、ルーノ如きに、分かった気でいられるのは嫌なんだけど」

「なんだと!」

「ちょっと! さっさとついて来なさいよ! 急いでいるんだから!」


 ブルーノが声を張り上げたところで、ボクたちとの距離に気がついたらしい。パティがわざとらしく、速度を上げた。


「あの女、性格悪いぞ」

「何を今更」


 会話だけでなく、初対面時の遭遇から見て取れるだろうに。何を見ていたんだか、と一息吐いた瞬間、あることを思い出した。そう今更、といえば……。


「そういえばなんだけど、咄嗟とはいえ、助かったよ」

「なんの話だ?」

「ルーノ、という名前。いつの間に考えていたんだい?」

「これは……市井に出る時に使っている名だ」


 あぁ、なるほど。その名を使って、あの金髪の少女と、王都の街でデートをしていた、というわけか。何をそんなに言い淀む必要がある。


 ボクはブルーノの様子を不思議に思いながら、パティの後を追った。

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