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魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 悪役令嬢との出会い

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第12話 公爵夫人の病んだ心

 正直に言うと、ブルーノを伴って公爵夫人の部屋を訪ねるのは、どうかと思っていた。同性のボクはともかく、ブルーノは男。


 先ほどのカーマイン公爵の態度を見ても、連れて行くべきじゃないと思った。けれど相手側がいいというのだから、ここは大人しく、お言葉に甘えさせてもらうことにしたのだ。


 公爵夫人の部屋へ案内する執事も、何も言わない。うん、大丈夫だろう。


「奥様。お嬢様が参られました」


 執事が扉をノックする。今のボクの姿は、ミルドレッドではないし、貴族令嬢とはかけ離れた風貌だ。さらにいうと、ボクはカーマイン公爵家の令嬢ではない。

 お嬢様呼びは、なんだかむず痒かった。それでも扉の向こうから駆けて来る足音が聞こえれば、そんな感情など吹き飛んでしまう。


「ユニティちゃん、いらっしゃい」


 緩やかな水色の髪を一つに束ねた美女に、満面の笑みでそう言われれば、こんなボクでも笑顔で返してしまう。公爵夫人には、そんな破壊力があった。


 さらにいうと、この世界でボクのことを「ユニティちゃん」と呼べるのも、彼女くらいだろう。後ろでブルーノが笑いを堪えているように感じるが、公爵夫人を目の前にして、いい度胸である。


「さぁさぁ、入って入って〜。待っていたんだから」

「すまない。公爵と少し話し込んでしまったんだ」

「いいのよ、このくらい。それに、後の方がゆっくりお話できるでしょう?」


 公爵夫人の距離感に戸惑いつつ、話を合わせる。


 十三年前。エリアルに変身魔法を施してから、公爵夫人の振る舞いも次第に変化していった。ミルドレッドの姿をしていても、中身はエリアルであり、実の娘ではない。そう忠告したからなのか、公爵夫人も懸命に努力したのだろう。


 結果、妙にテンションの高い性格へと様変わりしたのだ。エリアルがボクにミルドレッド役を押し付けたのは、おそらく公爵夫人も原因の一つだったのだろう。


 それが分かっていたから、ボクもまた、逃げるように学園へ入学したのだ。乙女ゲームの舞台でもある学園は、全寮制だったのがせめてもの救いである。


 だからボクがミルドレッドの姿で公爵邸にいたのは、ほんの僅かでしかない。それなのに、この歓迎振りだ。悪化した、ということなのだろうか。


「実は今日、連れがいるんだ。それでもいいかい?」

「連れ?」


 どこに? と首を回す公爵夫人に、ボクは少し横にずれて、ブルーノが見えるようにした。


「あら……ユニティちゃん、これはどういうことなのかしら?」

「王命で、ブルーノ王子様の子守をすることになったんだよ」


 後ろで「おい、子守とはどういうことだ」という声が聞こえたような気がしたが、今は構っていられない。普通の人から見れば、公爵夫人は穏やかな人物そのもの。けれど以前の彼女を知っている者からすれば、時限爆弾のように見えてしまうのだ。


「まぁ、国王はユニティちゃんにまで迷惑をかけるのね」

「にまで、とはどういうことだ?」

「……話が長くなりそうだから、とりあえず中に入って。ブルーノ王子も……久しぶりね」


 どうやら、ちゃんと認識していたようだ。冷静とは言い難いけれど、一先ず大丈夫そうだと胸を撫でおろした。


 さすがのブルーノも、その異変には気づいたようだった。いくらカーマイン公爵家に害をなした、とはいえ、謀っていたのはこちらも同じ。先ほどの公爵の態度もそうだったが、自分を蔑ろにされる自覚はあったのだろう。


 けれど公爵夫人の反応は違う。ブルーノを認識しているものの、脳が拒絶しているかのような、そんなふわふわした感じなのだ。


 ボクはブルーノに向かって、精神魔法の一つである、念話を使った。


『見ての通り、公爵夫人は精神を少し病んでいる。原因は……まぁボクなんだけど、あまり刺激しないように、いいね』


 応接間の時のようなことはするな、と忠告したのだ。ブルーノからボクへは念話を送れないため、頷き一つで答えてくれた。


「さぁ、座って~」


 公爵夫人に促されて、ボクとブルーノは共に着席する。相変わらず公爵夫人の部屋は、メルヘンチックだった。子ども部屋ならまだしも、ここは一児の母であり、人妻の部屋である。


 その幼すぎる部屋が、今の公爵夫人の心、そのものに思えてならなかった。ブルーノは王子だから、身だしなみもバッチリ。王子と知らない者が見れば、いいとこのボンボンか、貴族の令息だと思うだろう。

 片やボクは、黒いフードを纏った、如何にも魔女だと分かる恰好だった。ブルーノは気にしていないが、ボクは居心地が悪くて仕方がない。早速、本題を切り出すことにした。


「国王とは、何か因縁でもあるのか?」

「え? あぁ、さっきの話ね。ちょうどブルーノ王子もいることだし、婚約も破棄されたから言うけど、実は昔、国王に求婚されたことがあるのよ」

「……確か、カーマイン公爵夫人は、結婚される前は侯爵令嬢だと聞いた。だから父上が求婚したとしても、おかしくはない」


 輿入れできる身分の令嬢の中に、意中の相手がいるのなら、そりゃ申し込まない手はないだろう。


「でもね、その時にはもう、夫との結婚が決まっていたの。しかも政略結婚だったものだから、国王も勘違いしたのね。同じ政略結婚なら、自分の方が好条件だと言ってきたのよ」


 思わずボクは、ブルーノを見た。子が自分の婚約を断ち切ったのなら、親は他人の婚約を壊そうとしたらしい。


 魔法でブルーノの心を覗かなくても分かる。「さすが父上。スケールが違うな」とでも思っているのだろう。その感心した顔に、一発、お見舞いしてやりたくなった。

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ヒロインの弟に迫られています~モブでいたいので、溺愛は遠慮します!~
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