使用人の仕事着は何が良い?
朝食を終え、昨夜の情報共有を終えた蒼一とブリ雄は蒼一の寝室で今日の予定を話し合っていた。
「取り合えず私はこれからアイゼン様の所に行って霧隠れ山の件の顛末を伝えて来ます」
「あれ、まだちゃんと報告出来てなかったんだっけ?」
「えぇ、彼女達の事があったので霧隠れ山の件は軽く説明しただけでまだキチンと説明していないのです」
「そっか、俺の方はどうしようかなー」
ブリ雄に同行するという選択肢は端から無いのか、蒼一が今日の自身の予定を考えているとブリ雄がそこにある提案をする。
「やる事が無いのでしたら蒼一様、彼女達の仕事着を用意して頂けないでしょうか」
「仕事着?」
「はい、以前の服は随分とボロボロで処分したようで、彼女達は今ニーヴァの方で用意して貰ったあの服一着しか持っていません。正直仕事に適した服ではありませんし、汚れても良いような服が必要かと」
「なるほど、しかしメイド服とかってどこに売ってるものなんだ?」
女中の仕事着という事でメイド服を真っ先に思い浮かべた蒼一だったが、その考えに対しブリ雄が訂正を加える。
「残念ですが蒼一様、メイド服というものは時代的に存在してない可能性があります」
「え、無いのメイド服!?」
「蒼一様がメイド服と仰られているエプロンドレス自体は存在していますが、それが女中の制服として認知されるようになったのは十九世紀末頃です。この頃ですとエプロンドレスは貴婦人が着用するものですから、仕事着だと言って渡しても受け取って貰えない可能性があります。ただそれもあくまで蒼一様の元居た世界での話ですので、こちらでも同じとは限りませんが」
「そこは確認してみないと分からないか」
という訳でそこら辺がどうなっているのか、蒼一とブリ雄は早速誰かに聞いてみようと部屋を出て一階へと降りていく。
すると丁度食堂の方からグラファが歩いて来るのを見つけて声を掛ける。
「グラファ、ちょっと良いか?」
「蒼一様?それにブリ雄様も、どうしたの?」
相変わらず助けられた人間の態度とは思えないくらい気安いグラファ、ここにクラリッサが居れば雷の一つでも落ちていただろうが、蒼一もブリ雄もそこら辺は気にしないので蒼一はそのまま本題へと入った。
「実は皆の仕事着について相談があるんだけどさ。ほら皆今着てる一着しか服持ってないだろ?。家事やって貰ったら嫌でも汚れると思うし、仕事用に汚しても大丈夫な服を用意しないといけないなってブリ雄と話してたんだよ」
「それは有難いね。それで相談っていうのは?」
「仕事着としてエプロンドレスを用意しようと思うんだが、グラファはどう思う?」
「エプロンドレス?」
予想通りというか、エプロンドレスを仕事着にしたいと告げた途端、グラファは困惑した様子で眉を顰める。
「あ、やっぱり可笑しいかな。使用人の制服としてエプロンドレスってのは」
「いや、別に可笑しいって訳じゃないんだけど、少なくとも私らみたいな平民が着る物じゃないね」
「それはどういう意味ですか?」
使用人の制服としては可笑しくないが、自分達が着る物じゃないというグラファの言葉に引っ掛かったブリ雄がそう尋ねると、グラファはその訳を説明する。
「使用人がエプロンドレスを着るなんて王宮や高位の御貴族様の屋敷でもない限りまずないからね。そうしてそういった所で働いてるのも殆どが御貴族様の御令嬢だったりする訳で、だからアタシら平民には無縁のものって事」
「なるほど……そういう感じなのか」
少なくともエプロンドレスが使用人の制服として採用されているというのは事実だが、それは格式ばったもので一般的な制服として市井に広まっている訳ではないという事だった。
「となると皆の制服としてエプロンドレスを採用するのは無しか?」
「アタシとしてはそういう服が着れるのは羨ましいと感じるんだけど、他の子達は萎縮しちゃうかもねー。それにあぁいうのって王宮みたいなそこに住まう人間は勿論、訪れる人間も高位の人間ばかりだからこそ、使用人もそれに合わせてるって部分が大きいし、アタシらがそうする意味は全くないもの」
グラファの言う事は尤もであり、そういう訳で皆の仕事着としてエプロンドレスを採用するという案は無くなり、ならばどういった服が良いかとグラファに相談する。
「じゃあグラファはどんな服なら仕事着に適してると思う?」
「うーん、亜麻布の服とかで良いんじゃない?。洗い易くて乾き易いし、丈夫だから長持ちし易いしね」
「亜麻布か、ありがとう。参考になったわ」
そういう訳で方向性が決まった所で蒼一はふと以前にブリ雄と一緒に購入した服の存在を思い出す。
「そういえばブリ雄、以前に集落の皆用に服を買ったけど、あれってまだ渡せてないよな?」
「そうですね。アイゼン様からの指名依頼だったり、盗賊だなんだとバタバタしていたもので」
「その中に亜麻布の服とかってあったりする?」
「何着かはあったと思いますが、全員分となると流石に足りないですね。そもそもここで皆に渡すと集落の者達に配る分が足りなくなるのでどちらにせよ買いに行かなければなりません」
「そうなるよなぁ……仕方ない、何人か連れて買いに行くしかないか」
グラファが傍にいる手前、孤島とは言えず集落と濁しながら二人は話を進めていく。
「それではそちらはお任せしても宜しいでしょうか。私はアイゼン様への報告に行ってきますので」
「おう、そっちも任せたぞ。という訳でグラファ、悪いんだけど他の子達にこの事を伝えて来てくれるか?」
「了解、それじゃちょっと言ってくるね」
蒼一から告げるよりも自分が言った方が皆も受け入れ易いというのをグラファも理解していたのだろう。
特に文句も言わずグラファは素直に来た道を引き返して食堂の方に戻り、ブリ雄の方もアイゼンへの報告の為に玄関を出てニーヴァへと向かう。
その後、蒼一はグラファから話を聞いて集まった何人かを引き連れて仕事着の買い出しに向かったのだった。




