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ピンポイントな魔術

翌朝、広い食堂に見合うだけの大きなテーブルで蒼一とブリ雄は二人だけで朝食を取っていた。

蒼一達とクラリッサ達が別々に食事を取っているのは不安がるレミィの為という事だったが、正確に言えばレミィを出しにしたというのが正解だろう。

皆で揃って食事が出来るようになるのは一体何時の事になるだろうかと考えつつも、蒼一は娘達が作ってくれた朝食へと視線を通す。

昨日のシチューにも入っていた少し煮込めば柔らかくなる野菜を中心としたスープは具材こそ同じだが味付けは全く異なり、朝食にピッタリな胃に優しい味でまだ本調子でない胃をゆっくりと起こしてくれる。

ポカポカと胃が温まって食欲が湧いてきたところで次に湯気の立つアツアツのパンへと手を伸ばす。

こっちは昨日買い出しの時に買った出来合いのパンをリベイクしたもので、リベイク前に表面をちゃんと濡らしたのだろう。

流石に出来立てと同じくらいとはいかないが、それでもふっくらとしたパンは美味しいと言っても差し支えのない味だった。

最後に葉野菜のサラダにはシェリービネガーが振りかけられており、シャキシャキとした葉野菜の食感とシェリービネガーの持つフルーティな香りとまろやかな酸味が合わさってこれまた食欲が湧き上がってくる。


「ふぅ……なんかこういうちゃんと考えられた料理を食べてると、自分も作りたくなってくるな」

「お気持ちは分かりますが、今は自重してください。これは彼女達の仕事なんですから」

「分かってるって」


屋敷の管理や家事などこういった仕事の対価として屋敷に住まわせているという事で皆を納得させたのだから、その前提を早速崩すような真似だけはしないでくれというブリ雄の言葉に蒼一は苦笑いを浮かべつつ同調する。

ここで蒼一が皆の代わりに料理するなんて言い出した日には、疑り深い三つ子なんて"料理に媚薬を混ぜる気なのでは"とあらぬ疑いを掛けて来るのが容易に想像できてしまう。


(まずは信頼度稼ぎだよな。かと言って変にあれこれ手を出し過ぎるとブリ雄の言う通り彼女達がこの屋敷に住まう為の建前が無くなってしまう訳で)


親類に裏切られ、他人をそう簡単に信用できなくなった娘達、純粋な善意だなんて信じられない娘達を納得させる為に用意した建前である以上、それを今ここで崩す訳にはいかない。

だからこそ屋敷の管理や家事に関しては皆に任せつつ、娘達の仕事を奪わないようにそれ以外の事で蒼一は彼女達の信頼を勝ち得なければならないのだ。


(単純に親切にしてれば良いって問題でもないからなぁ)


雇い主として、保護者として、適切な距離感を保ちながらというこれまた七面倒な条件が付き纏う事に対し溜息を零していた時だった。

食堂とキッチンを繋ぐ扉が開かれ、クラリッサが顔を出す。


「ブリ雄様、蒼一様、朝食のおかわりは如何でしょうか?」

「あ、じゃあスープのおかわりを頂戴」

「私にはサラダをお願いします」

「畏まりました」


そう言って一礼するとクラリッサは踵を返してキッチンの方へと引っ込もうとするも、扉に手を掛けた所で足を止め、少々躊躇いながらも蒼一の方へと向き直る。


「あの、蒼一様」

「うん?どうした?」

「昨夜指示された通り、普通の食事を用意しましたが……本当にこれで宜しかったのですか?」

「あぁ、うん大丈夫だよ。もう手は打ってあるから」

「二人共、一体何の話をしているのです?」


昨夜の中庭での蒼一とクラリッサの会話を知らないブリ雄が当然の疑問を口にし、それに蒼一が答える。


「昨日寝付けなくて夜風に当たりに出たらクラリッサが中庭に居てな。その時ちょっと話をしたんだ」


蒼一が眠る事が出来ない事を知っているブリ雄は直ぐに蒼一がクラリッサが夜中に一人で中庭に出ていた事に気が付き、偶然を装って接触したのだと理解した。


「なるほど……それで普通の食事を用意したという話ですが、どういう事ですか?」

「それはな」


自分が何をしたのか、それを告げようと蒼一が口を開いた時だった。

廊下の方からドタドタと走る音が聞こえて来たと思ったら、食堂の扉が勢い良く開け放たれ肌着姿のコノが飛び込んでくる。


「た、大変!」

「ちょっとコノ!貴女なんて恰好で、少し落ち着きなさい!。一体何が――」

「レミィに歯が生えたの!」

「……は?」

「そう!歯なの!歯が生えたの!」

「……蒼一様、これは?」


コノの口から飛び出たその内容に混乱するクラリッサとブリ雄だったが、その中で直ぐにこれが蒼一の仕業だと察したブリ雄が蒼一の方を見て問い掛け、それに少し遅れてクラリッサも蒼一の方を見て目線で説明を求める。


「実は昨日ちょっと知り合いの凄腕魔術師に会って来てな。レミィの歯が生える魔術を教えて貰ったんだ」

「そんな魔術を……その魔術って他にどんな事が出来るんですか?。例えば歯だけじゃなくて手足も再生出来たりとかは」

「あーそれがこの魔術なんだがな。レミィの歯を再生する魔術を教えてくれってお願いした所為で、本当にそれ以外に使い道が無いんだ。レミィ以外には使えないし、歯しか再生出来ないから既に再生させた今じゃ無用の長物だ」

「な、なんですかそのピンポイント過ぎる魔術は」


レミィの、それも歯に限定された再生魔術なんて限定的過ぎる代物にクラリッサが若干引き気味にそう言うと、蒼一は混乱する場を治めるようにパンパンと柏手を打つ。


「はいはい、取り合えず皆落ち着いて。コノは部屋に戻って服を着て来い。俺達も直ぐに食事が終わるからレミィを連れて来てくれ。クラリッサは他の子達の食事の準備を頼んだよ」

「わ、分かった」

「あ、はい!分かりました」


慌てて飛び出して来た所為で服を着ていない事に気が付いたコノが頬を赤らめながらも廊下を駆け戻り、クラリッサもまだ混乱していたが蒼一に命令されれば従わない訳にはいかず、大人しくキッチンへと下がっていく。

食堂に蒼一とブリ雄の二人だけになり、それを確認してからブリ雄が蒼一へと声を掛ける。


「それで、実際の所はどうなんですか?」

「ん?どうって?」

「凄腕の魔術師って、ユーリア様の事ですよね?。となると魔術というのも嘘で、世界としての力の扱い方を教わったのでは?」

「流石ブリ雄、鋭いな。ただ現状レミィの歯くらいしか再生出来ないのは本当なんだ。説明されたけど、ちょっと今の俺には扱えそうも無くてな……」


そう前置きをしつつ、蒼一は昨夜の出来事を、クラリッサと別れてから何をしていたのかについて語り出す。

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