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甘い想像

甘い想像って言ってもスウィートなイメージとかそういう意味ではないです。

どちらかと言うと"甘いわ小童がッ!"みたいなニュアンスの甘いです。

あれから屋敷全てを見て回り、魔力タンクも見つけ適当なモンスターの核を放り込んだ後、現在足りない物も判明したので蒼一達は掃除の為に残った三つ子を除く六人で買い出しにやって来ていた。


「それでは蒼一様、そちらはお任せしましたよ」

「あぁ、ブリ雄の方も頼むぞ」


屋敷から商業区まで共だって移動してきた蒼一達はここで分かれ、ブリ雄は一人で別の方向へと歩き出す。

その背を見て、三人娘の一人であるネーナが不満を漏らした。


「あぁ、私はブリ雄様と一緒にお買い物がしたかったです」

「ちょっとネーナ、その気持ちは分かるけどそれだと蒼一様に失礼でしょう」


(失礼だって分かってるならマリンもその気持ちは口に出さないで欲しかったなぁ……)


ネーナの言葉に同意を示した時点で蒼一よりもブリ雄の方が良かったと言っているのと同義であると蒼一は心の中で一人静かに涙を流す。


何故六人も居るのにブリ雄一人と残り五人なんて分け方をしたのかというと、その理由は異空間に物を収納出来るブリ雄に荷物持ちの必要は無いと言う事で今回の買い出しの中で鍋などの嵩張る物はブリ雄が担当、それ以外の小物は残りの五人が分担で持つという話になったのだ。

そういう訳で大物はブリ雄の方に任せて蒼一達は食器や食料の買い出しに向かったのだが、ブリ雄と三つ子が減って人数は五人になったものの、傍から見れば四人の美少女を侍らせる美青年一人という絵面はそれだけで十二分に目立つ。

美少女を四人侍らせる蒼一に対する嫉妬や羨望の視線も多かったが、やはり一番多いのは少女達自身に向けられる男共の視線だろう。


「ッチ、鬱陶しい」


そんな周囲の視線に堪えかねたのか、不機嫌そうに舌打ちするグラファに対し、蒼一がその気を紛らわせるように話しかける。


「唐突で特に深い意味は無い質問なんだけどさ。良く女性は視線に敏感だって聞くけど、実際そうなのか?」


女性は視線に敏感だというのは良く聞く話だが、蒼一は女性ではないのでその視線に敏感というのがどれくらいのものなのかという純粋な疑問からグラファにそう尋ねた。


「え?まぁそうだね。男女差があるかは正直分からないけど、アタシ個人としては昔は気にならなかった方かな」

「昔はって?」

「今はほら、そういう色に濁った視線に晒されまくった結果というか、どうも我慢ならないというか、敏感になっちゃって」

「あっ……ごめん」


配慮の足りない質問をしてしまったと蒼一は気まずそうに顔を背ける。

ついこの間までゲスな男共に捕まって良い様にされていたのだ。

そういう視線に敏感になって同然だろうし、そういう視線を堪え難く感じるのは当たり前の事だろう。

自らの失言で重くなった空気を変えるべく、蒼一は作り笑いを浮かべながら今夜の献立についての話を振る。


「そうだ、今夜の御飯はちょっと豪勢にいくか。ブリ雄から渡されたお金も随分とあるし、ぱぁっとさ」


今回の場合引越し祝いと言って良いのかは不明だが、兎に角引越し祝いと皆のこれからを祈って、今晩ぐらいは豪勢にしても良いだろうと蒼一はそう提案した。


「お、良いね。具体的にはどれくらい豪勢にいく?」

「ん-どれくらいか」


ちょっと豪華にとは言ったものの、この世界の一般的な家庭料理がどの程度か知らない蒼一はどれくらいの料理を並べればこの世界の基準で言う"ちょっと豪華な食事"になるのだろうと頭を捻る。


「こんくらいの分厚いステーキってのはどう?」


そういって蒼一は指先で三センチくらいの幅を作って四人に尋ねてみた。

それくらいのサイズの肉なら今まで宿泊していた宿屋のメニューにもちょっとお高いメニューとしてあったし、購入する肉の種類で値段の調整も利くだろうと極厚の肉を提案してみたのだ。


「おぉぉ、肉なら大歓迎――って、本当なら言いたいところなんだけど」

「あ、もしかしてステーキじゃちょっと豪華な食事にはならないか?」


そのグラファの反応に蒼一は肉くらいじゃ豪華な食事の内に入らないかと出鼻を挫かれた思いだったのだが、それをグラファが否定する。


「違う違う、貧しい農村の出のアタシらからしたら肉は立派な御馳走だよ。ただ……肉ってなるとレミィが食べられないんだ」

「え?」


業かな食事にしようという話からまさかレミィの話題が出て来るとは予想もしておらず、そして自分がまた知らぬ間に地雷を踏み抜いた事を蒼一は察してしまう。


「その、なんかごめん」

「その感じだとブリ雄様からは聞いてないんだね?」

「あぁ、個々人に関する話は何も……本人達が話してくれた事だけしか俺は知らないよ」

「じゃあレミィが肉を食べられないのを知らないのも無理ないさ。レミィが食べられない事を承知の上で肉を提案した訳じゃないってなら謝る必要はないよ」


そう言って蒼一をフォローするグラファだったが、そのグラファ達の表情は一段と暗くなりそれが蒼一は余計に気掛かりであった。

自分が地雷を踏み抜いた事は分かるが、それが一体どういったものだったのかがまるで分からないのだ。


(肉が喰えないってだけでここまで暗い顔する事は無いだろうし、てなると問題なのは肉が食えない事それ自体ではなくその理由ってところか)


肉が食べられない理由、それで真っ先に蒼一の脳裏に浮かんだのはレミィが草食動物の獣人ではないかというものだったが、草食動物と言っても肉が全く食べられない訳では無いし、第一それくらいの理由でグラファ達がこうも表情を暗くする意味が分からない。

そうなると次に思いついたのは宗教的な観念だったり、呪いと言った物だったが、前者であればこちらもグラファ達が表情を暗くする意味が分からないし、後者の場合肉を食べられなくなる呪いってなんだという話になって結局直ぐに自ら否定する。


(駄目だ、いくら考えても答えに辿り着けそうにない。いっそこうなったら聞いてしまうか?)


結局この場を明るくするという蒼一の目的は失敗したままであり、自身が踏み抜いた地雷の正体も不明のままではまた何時踏み抜くか分かったものではない。

そうなるくらいならいっそまた空気をぶち壊してしまう前に、空気が壊れている今のうちに聞いてしまうのが良いではないかと蒼一は考えた。


「なぁ、レミィが肉を食えない理由を教えてくれないか?」

「…………」


蒼一の問いに四人は反射的にキュッと口を堅く噤む。

話辛い事であるというのは四人の表情を見ていれば分かったが、ここで埋まっている地雷を発掘しておかないと絶対にまた自分は知らず知らずの内に踏み抜くという確信を持つ蒼一も簡単に引き下がるような真似は出来なかった。


「話辛い事なんだろうなってのは皆の表情を見てれば分かるよ。でもだからこそ、俺はそれを知っておきたい。何も知らないまま、また無神経な事を言って皆に不快な思いはさせたくないんだ」


移動の片手間ではなく、その場で足を止めて蒼一は真摯な態度でもう一度四人に向かって頼み込む。

暫しの沈黙の後、不意に今まで沈黙を守っていたコノが口を開く。


「レミィには歯が一本も無いの」

「え……歯が?何で」

「抜かれたの、あの男達に、邪魔だからって」

「――――ッ」


コノの口から語られたその内容の凄惨さに蒼一は反射的に拳を握り締め、歯軋りがする程に奥歯を噛み締めてしまう。

そしてそれは蒼一だけではなくグラファも同様で蒼一と同じように拳を握り奥歯を噛み締め怒りを堪えようとしていたのだが、我慢の限界に達したのかグラファは感情に突き動かせるように口を開いた。


「あの野郎共、口に入れる時に邪魔になるからって、そんな理由だけでレミィの歯を一本残らず抜いたんだよ。ねぇ蒼一様、アタシがそれを知ってアイツらに問い詰めた時、あの屑共はなんて返したと思う?」


グラファの言葉は蒼一に向けられているようで、その実向けられてはいない。

その時の事を思い返しながらグラファの胸の中では静かに、それでいて激しく憎悪の炎が熱を灯していた。

もしこの場に件の盗賊共が居たならば、全員の歯を一本一本引き抜いた上で殺してしまいそうな程に殺気立ったグラファがゆっくりとあの時の盗賊の言葉を復唱する。


「"どんなに無茶苦茶に突っ込んでも歯が当たらないから、最高に気持ちが良いぞ"って、ゲスな笑みを浮かべて、悪怯れる様子もなくそう言い放ったんだよ」

「…………」


それを聞いた蒼一は何一つ言葉を出す事が出来なかった。

己の想像が甘かった――レミィが、皆が盗賊のアジトで過ごして来た時間は蒼一が今まで考えていた以上に惨酷で、人としての尊厳など何一つ守られなくて、それがどれ程の屈辱だったのか。

人は利己の為なら何処までも惨酷になれる、それを嫌という程味わってきたグラファ達はその話が終わった後も表情が晴れる事は無く、蒼一達は重苦しい空気を抱えたまま買い出しを続けるのだった。

視線に関する発言は蒼一の失言、でも献立の話からのあの流れはもう不可抗力よ。

そしてレミィ関連の話はやっぱシリアスに寄るなぁ……改めてブリ雄が単独行動していた時のシーンをカットして良かったと思ってます。

執筆始めたら多分抑えないとミッドナイトノベルズ行きの内容になってた気がする。

取り合えず助け出された少女達回りの話は登場してまだ間もないでちょっとシリアス多いですが、話数が進む毎にどんどん薄くなるのでご安心を。

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