助け出された少女達(三つ子の場合)
三人娘との会話が良い気分転換になったのか、精神的な疲労も随分と減った事を感じながらも廊下の突きあたりに着いた蒼一が扉を開けると、受付嬢達が並ぶカウンターの裏側に出る。
すると扉の一番近くに座っていた受付嬢の一人が蒼一に気が付いたのか声を掛けて来た。
「あら蒼一君じゃない。もう体調は良いの?」
「えぇ、おかげさまで、それよりブリ雄が盗賊から救出した女の子達って何処に居ます?三人には会ったんですが、他の六人とはまだでして」
「六人の内一人の居場所は知らないけど、二人は確か倉庫の方に居て残りの三人はホラ、あそこよ」
そう言って受付嬢が指差した方を見ると、まだ昼過ぎという事で人も疎らなエントランスホールの中でも更に際立って人の姿が無い空間があり、その中心には壁際のベンチに腰掛ける見慣れない三人の少女の姿があった。
「あれ?もしかして彼女達って」
「そう、三つ子よ。ソックリでしょ?」
顔も髪の色もソックリな三人の娘だったが、髪型で区別を付けているのかベンチの右端に座っている娘は橙色の髪を右に纏めたサイドテール、その反対の左端の娘は左に纏めたサイドテール、そしてその中央の娘は髪を結わえてはおらずストレートに下ろしていた。
「三つ子ね。確かに似てるな。にしてもなんで彼女らはこうも露骨に避けられてるんだ?」
その表情は暗かったが目鼻立ちも整った娘が三人も並んでいて声を掛ける男どころか近寄ろうとする者さえ居ないのはちょっと異様な風景である。
「別にあの子達が割けられてる訳じゃないのよ。彼らが避けているのは――」
そんな蒼一の疑問に受付嬢が答えようとした時だった。
チリンチリンと鈴の音を響かせながら扉が開かれ、依頼帰りと思われる男達が数人やってきた。
「はぁ……とんだ無駄骨だったなぁ」
「まぁまぁ、完遂は出来なかったがお詫びに報酬自体は七割払って貰えるんだし、無駄って事もねぇさ。それより折角早く終わったんだし、報告終わったら早速一杯どうだ?」
「こんな昼間から酒かよ――って、お?」
そんな他愛無い話を繰り広げていた男達だったが、その内の一人が壁際のベンチに居た三人娘の存在に気が付く。
「なぁあの子達、結構可愛くないか?。見た感じニーヴァの職員じゃ無さそうだけど」
「生産職の人間じゃねーの?数は少ないがニーヴァにもそういう人間は居るし」
「だとしたらなんであんな所で暗い顔して座ってんだよ。俺ちょっと声掛けて――」
「ちょいちょい、そこの兄さん、その子らに手を出すのは止めときな」
男が三人娘の方に近づこうとした時、その近くに居た一人の人間が男の肩を掴んでその動きを制止する。
「なんだよアンタ、あの子達の知り合いか?」
「アタシはあの事達は良く知らないけど、あの子達の知り合いの事なら知ってるよ。あの子達はブリ雄の関係者だよ」
「げっ、ブリ雄ってあのブリ雄か!?ルドルフさんやデミスさん、果てはサンジスのおやっさんや支部長まで絶対に手を出すなと言っていた要注意人物の」
「そのブリ雄だ。だから命が惜しかったらその辺にしときなよ」
「……なるほど、そういう事か」
遠目にそのやり取りを眺めていた蒼一は三人娘の周囲に人が近寄ろうとしない訳を理解した。
ブリ雄の力の一端を知る者達がお調子者共がブリ雄や蒼一に下手なちょっかいを出さないよう忠告していたらそれが人伝にどんどん大袈裟に伝わっていったのだろう。
噂になっているのは知っていたが、命が惜しかったら関わるなと言われる程に畏怖の対象として見られていたとは流石に蒼一も予想していなかった。
取り合えず何時までも遠目に眺めている訳にもいかないかと、蒼一はカウンターから出て三人娘の方に近づいて声を掛ける。
「こんにちは、君達はブリ雄が連れ帰った子達で合ってる?」
「はい」「そうですけど」「貴方は?」
三人で分割して喋る娘達に蒼一は一瞬だけたじろいでしまったが、直ぐに気を取り直して自己紹介をする。
「ブリ雄から聞いてると思うけど俺は蒼一、君達の事教えて貰える?」
「貴方が」「蒼一、様?」「初め……まして」
自己紹介した蒼一に対し、ネーナ達三人とは違って三つ子は怯えた様子で蒼一の顔色を窺うようにしながら、恐る恐る口を開く。
「私達の名前はサーシャ」「ミーシャ」「クーシャです」
右端から順に右のサイドテールがサーシャ、真ん中のストレートがミーシャ、左のサイドテールがクーシャと最低限の自己紹介をしてくれる。
「サーシャ、ミーシャ、クーシャだな。改めてよろしく」
そう言って蒼一が握手するように手を伸ばすと、三人はお互いの顔をチラチラ確認し合った後、三人揃って手を伸ばし、サーシャが人差し指、ミーシャが中指、クーシャが薬指を摘まむようにして蒼一の指を握る。
「「「よろしくお願いします」」」
「……随分と変わった握手だな。それよりも三人に今後の事で話があるんだ」
まさか三人同時に握手?をしてくるとは思ってなかった蒼一はその事に面食らいながらも手を引っ込め、三人の不安を解消すべく早速本題に入った。
蒼一がネーナ達にした時と同じ説明をミーシャ達にも伝えたのだが、三人表情は相変わらず曇ったままで、その事に蒼一は首を傾げる。
(あれ、てっきりネーナ達みたいに喜ぶとか、せめて安心くらいはすると思ったんだけど、まだ何か不安な事があるのか?)
そういえば衣食住の住に関しては説明したが、衣服や食事など生活していく上で必要な事は一切説明していない事に思い至り、それが不安の原因かと蒼一は推察する。
(しまったな、そこら辺ブリ雄とどうするか話し合って無いけど……まぁ屋敷だけ与えて放置なんてブリ雄がする訳無いし、そこら辺も用意してやる前提で説明して大丈夫だろ)
という事で住む場所だけでなくその後もしっかりケアする事も伝え、これで流石に安心するだろうと思っていたのだが、むしろその逆で三つ子は身を寄せ合って怯えるような目で蒼一を見ていた。
(あれぇ?俺また何かやっちまったか?)
何やら既視感を覚えるその光景に蒼一が必死に何がいけなかったのかを考えていると、真ん中に居たミーシャが両脇のサーシャとクーシャの肩を抱きしめながら決心した様子で蒼一を見やる。
「あの、蒼一様にお願いがあります」
「お願いって?」
"普通に喋れるんかい!"とツッコミを入れたくなった蒼一だが、流石にこの状況でそんなツッコミを入れる程空気が読めない男ではない。
表面上は至って冷静な風を装いつつ、蒼一がそう言葉を返すとミーシャは身を乗り出す勢いでその願いを口にする。
「私には何をしても構いません!その代わり、妹達に手を出さないでください!!」
「…………はい?」
ミーシャのその要求が蒼一にとっては完全に慮外の事であった為に蒼一は一瞬何を言われたのか分からず、その言葉を何度も反芻させてようやくその意味を飲み込む。
「いや、ちょっと待って!なんでそんな話になってんの!?」
「わ、分かってます。私が対価として差し出せるものなんて、それくらいしかない事くらい、でもせめて妹達にだけは!」
「ミーシャ!」「それは駄目!」
「でも!お父さんにもお母さんにも捨てられた私達が生きていくにはもう、これしか」
「ミーシャだけ背負わないで」「私達は一心同体、そうでしょう?」
「サーシャ、クーシャ……」
(何だ、俺は何を見せられているんだ)
三人だけで盛り上がって蚊帳の外にされた蒼一が目の前で繰り広げられる三人の世界に言葉を失っていると、遠巻きにそれを見ていた者達が蒼一の方を見て何やらコソコソと話し合っていた。
「おい今の聞いたか?」
「あぁ、アイツって確かあのブリ雄にくっついてる奴だろ?。仲間が助けた癖に助けられたという相手の立場に付け込んでなんて、とんでもねぇ野郎だ」
「いや違うから!なんでそうなるの!?」
周囲から突き刺さる軽蔑の視線に蒼一は必至に弁明するも、互いの肩を抱き涙を流す三つ子が居る以上、傍から見て蒼一が悪者にしか見えないのは抗い様の無い事実であった。
「お、俺は悪くねぇぇぇええ!!」




