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皆目が死んでる

サブタイ最初は悩んだんですが、書いてく内に皆目が死んでいってるなって思ったのでこのサブタイになりました。

微妙なテンションで飛び出した蒼一とブリ雄はあれから本当に一夜中モンスターを狩り続け、モンスターの数が減ったら次の狩場へ移動し、そこでもモンスターの数が減ったらその次へというのを幾度となく繰り返し、更に移動時間を短縮する為にマーカーを持った蒼一が赤鉄で目的地まで先行してブリ雄は転移で追いつくという強引な手段を取りながらも、二人は翌日の昼前にスルクへと戻って来た。


外見は兎も角内面は人の身ではない蒼一とブリ雄の肉体は人並外れたスタミナを持ち合わせてはいたが、夜通し休憩もせずに動き回れば流石に疲れを隠す事は出来ず、肉体的にも精神的にも疲労した二人はゾンビのような足取りでニーヴァに到着する。


「あれ、蒼一とブリ雄じゃな――って、どうしたのよその顔」

「トリシャさん、アイゼン様にお話があるのですが確認をお願い出来ますか」


受付をしていたトリシャが疲労が滲み出るを通り越して疲労が服を着て歩いていると言っても過言ではない二人の姿に心配そうに声を掛けるも、そんなトリシャの言葉が聞こえなかったのか或いは聞く余裕が無いのか、ブリ雄はその問いに答えず自身の要求を伝えると、トリシャは少々不服そうな表情を浮かべながらもカウンターの奥の扉の方へと引っ込む。

暫くしておくへと引っ込んだトリシャが戻って来て扉の所から二人を手招きし、二人は何時もの応接室へと通され、程なくしてアイゼンがサンジスを連れて応接室へとやってきた。


「御二人共、どうしたのですか?」

「顔がとんでもなく窶れてるぞ」

「えぇ、はい」

「色々あって」


以前会った時と比べて明らかに顔が落ち窪んでいる二人を見てアイゼンとサンジスがそう声を掛けるも、二人は気の無い返事を返すだけでもはや意識がハッキリしているのかも怪しいところである。

取り合えず心配しているだけでは話が一向に進まないのでアイゼンとサンジスは明らかに不調な様子の二人を気遣いながらも話を切り出す。


「それで二人揃って訪ねて来たという事は昨日の件で宜しいのですか?」

「はい、屋敷の事ですが良い物件は見つかりましたでしょうか」

「それはサンジスさんに聞いてください。という訳でお願いします」

「あいよ、ったくこの間持ち込んだエルダートレント周りの仕事もまだ残ってて忙しいってのに更に仕事増やしやがって」


サンジスはニーヴァ専属の鑑定士ではあるが買い取った素材の売買なども担当している為、スルク支部の中で一番対外的に顔の広い人物である事に間違いはなく、そういう観点から今回の物件探しもサンジスが適任であろうという事でエルダートレントの件が片付かない間に更に仕事を押し付けられたという訳である。


その事にぶつくさと文句を言いながらもこの短期間にしっかり仕事はこなしたのか全部で六枚の羊皮紙を机に並べていく。


「お前が昨日、今日蒼一を連れて戻って来るなんて言いやがったもんだから大慌てで条件に見合う物件を探し回ったんだぜ」

「六軒ですか。この短い間に……ありがとうございます」

「おう!感謝しろ感謝しろ!」


照れ隠しなのか頬を赤らめながらぶっきらぼうに返すサンジスを他所に、ブリ雄は早速机に並べられた羊皮紙を確認していく。


「指定があの九人の娘共が管理できる範囲、かつ住み込みで働く前提と聞いたからな。部屋割りをどうするのか聞いてなかったから、取り合えず一人一人に部屋を割り当てられるよう部屋数の多い屋敷と、何人かで纏められるよう部屋数は減るが大部屋の多い屋敷を選んできてやったぞ。右端から左に掛けて値段が上がってくが、俺としては右から二番目辺りがオススメだな」


羊皮紙には屋敷の間取りが描かれており、サンジスがオススメと言った物件は屋敷としてはこじんまりとしているが一階部分に談話室や食堂とキッチン、使用人部屋と思われる大部屋が二つ、二階部分は主人の書斎や寝室などと区分けされた屋敷だ。

部屋数も必要最低限にまとまっており、拠点とする分には機能的にも申し分ない。


「問題点があるとすれば貴族外の外れの方、それも外壁の傍ってところだな。中心街からは遠いし馬車でもあれば良いんだが」

「……私と蒼一様だけなら問題は無いですが、普段からそこに住む事になる彼女達の事を考えるともっと中心街に近い場所の方が良いですね」

「そういう意見もあると思ったぜ。となるとこの中で一番中心街に近いのは右から四番目の物件だな」


そう言ってサンジスは右から四番目の羊皮紙をブリ雄の方へ差し出す。


こちらは先程の屋敷と比べ二回り程大きく、部屋数もそれに伴い増えており一人一人に個室を与えても何部屋は空きが出来るだろう。


(屋敷の中に転移陣を設置しようと考えていましたし、空き部屋はやはり必要ですね)


その後もまだ見ていない屋敷の間取り図も一応確認したが、所詮はスルクに居る間の一時的な拠点でしか無い為、それ程拘りの無い二人は最終的にサンジスが二番目に進めて来た右から四番目の屋敷を選ぶ。


「了解した、それじゃあこっちで契約の方は進めとくが……ここまで話を進めといてあれだがお前ら金の方はどうする気なんだ?。今回は事情が事情だし、支部長が代金はうちで立て替えるって言うから購入自体は滞りなく進められるけどよ」


普通であれば屋敷の購入費を立て替えるなんて真似はしないのだが、エルダートレントを気軽に狩って来た二人の能力を考えれば今すぐは無理でもそう遠くない内に返済出来るだろうという確信がアイゼンにあったからこその決断だったし、何より現在ニーヴァで保護している九人の少女もアイゼンにそう決断させる要因になっていた。

ニーヴァとて立派な営利団体であり慈善事業団体ではない以上、いくら身寄りがないと言っても九人の少女を何時までも善意だけで世話していられる程暇ではない。

とはいえ一度受け入れてしまった後でもう無理だなんて途中で放り出すような無責任な真似が出来る筈も無く、その件に関しても早々に蒼一とブリ雄の方に任せてしまいたいという思いもあったが故の特例という奴だ。

更に言うならここで蒼一とブリ雄に恩の一つでも売っておいて今後何らかの形で返してもらおうという打算的な考えもあったのだが、そんなアイゼンの企みも蒼一とブリ雄の常軌を逸した強行軍によって無駄に終わる。


「その心配はありません。一時的に彼女達を保護して貰っているのにこれ以上そちらに迷惑はかけられませんからね。私と蒼一様の二人でモンスターを大量に狩って来ましたので、それをニーヴァに納めますのでそれを屋敷の代金に充ててください」

「充ててくださいって、まさかお前らあれから今日訪ねて来るまでずっと狩り続けてたのか?」


二人の疲労具合から見て間違いないだろうと考えつつも、こんな疲労困憊になるまで狩り続けるなんて普通に考えれば正気の沙汰ではない。

普通であれば注意力が散漫になりどれ程の実力者であろうと命を失っても可笑しくない、むしろそうなって当然の蛮行であり、こうして五体満足で二人揃っている事の方が奇跡的なのだ。

それもひとえに集中力を欠いても余りある蒼一とブリ雄の規格外な力があってこそなのだが、二人の実力を正しく理解出来ていないアイゼンとサンジスにそれを理解しろというのも無理な話である。

そうなると当然の事だが二人はそんな状態の二人が大物を狩って来たとは微塵も考えておらず、適当な近場で雑魚を片っ端から狩って数を搔き集めて来たのだろうと考えていたのだが、しかし


「取り合えず手付というか、一部出すので確認してください」

「え?出すって、ちょっと待っ――」


応接室で血生臭いものを出されては堪らないと制止の声を出そうとしたアイゼンだったが、思考が鈍化していたブリ雄は応接室が汚れてしまうという事に気が回らずそのまま異空間を開き、応接室の床の上にボトボトと零れ落ちては二人が一晩かけて狩って来たモンスターのほんの一部が小さな山を形成する。


「「…………」」


一瞬にして目の前に出来上がった骸の山を前にアイゼンとサンジスの二人は唖然とその山を見つめていた。

山を見つめて言葉を失う二人だったがその理由は制止の声が間に合わず応接室が汚れてしまった事に対してなどではなく、その山を形成するモンスターの内容に対してであった。


「グリフォンが二体、マンティコアが一体、ズラトロクが四体、コカトリスが……八体でしたか?」

「それブリ雄が倒した数だろ。俺が倒した十……一、二だっけ?。その分忘れてるぞ」

「あぁ、そうでしたね。流石に全部は出せないので一種類一体ずつで出してるので数は曖昧ですみません。もう面倒なので数は置いといて種類だけ列挙していきますが、一部正体不明のモンスターも居たのでそちらも後ほど鑑定をお願いします。という訳で続けていきますが」

「「待って!続けないで!!」」


死んだ魚のような目で淡々と進行させようとするブリ雄をアイゼンとサンジスの二人が必死の形相で止める。


「お前ら一体なんてもの狩って来たんだ!?」

「だからそれを今説明しているのではないですか」

「サンジスさんと私が聞きたいのはそういう事では無いです。一体どこに狩りに行ったのですか?グリフォンもマンティコアも縄張り意識が強く、異種族は勿論同族であろうと同じ場所に二体と居る筈はないのですが」

「それはもうあちこっち飛び回ってですよ。東の森でコカトリスの群れを狩った後に北の山岳地帯に移動して道中でマンティコアを狩って……あれ?道中で見つけたのグリフォンの方だっけ?」

「いえ、それはフレスベルグですね」

「フレッ!?」


ここに来て更に追加されたモンスターの名前にサンジスが驚愕に歪んだ顔を山の方へと向けると、二体いた鷲型のモンスターだったが良く見ると下半身が獅子なのは一体だけでもう一体の方は完全な鷲型であった。


「そうだったっけ。もう後半部分とか思考回路麻痺してたから覚えてねぇよ……」

「道中飛び出してきたモンスターを避けもせず跳ね飛ばしてましたもんね。何やらドラゴンっぽかったので素材が惜しかったですが」

「あーそういやそんなの居た気がするな……素材回収しなかったのか?」

「蒼一様が吹っ飛ばした首の一つだけ回収しましたよ。他の部位はまだ生きてて逃げてしまったので、正直その時点で大分素材は集まってたので"もういいかな"って気力が無くなりかけてたのが一番の原因ですが」

「おいちょっと待て、ドラゴンっぽい?首を失っても生きてた?お前ら一体何を跳ね飛ばしやがった!?」


何か思い当たるモンスターが居るのか、サンジスが怒鳴り散らす勢いで二人に食ってかかる。


「お前らって跳ね飛ばしたのは蒼一様です。私はあくまで回収しただけで」

「誰がやったとかそんなんどうでもいいから!ソイツの首を見せてみろ!」

「出すにしても首だけとはいえ少々大きいのですが……まぁ取り合えずテーブルの上にでも」


そう前置きしてからブリ雄が異空間を開くと次の瞬間真っ黒な塊が部屋の中央にあったテーブルの上へと落下し、加重に耐えきれなかったテーブルが粉々に砕ける。

テーブルを押し潰して出現した黒い塊の正体は巨大なモンスターの首であり、その大きさは立ち上がらなければ対面に居る相手が見えない程の大きさであった。


「お、大きいですね……」


ニーヴァの備品であるテーブルを潰されたというのにアイゼンは文句の一つを言う事もせず、ただ目の前に現れた巨大な首の感想だけを述べる。

というのも応接室の中はモンスターから流れ出た血液やらなんやらで既に酷い惨状になっており、今更テーブルの一つくらいでとやかく言う段階など疾うに通り過ぎていた。

つまりは現実逃避である。


蒼一、ブリ雄に続きアイゼンもまた死んだ魚の目連盟に名を連ねる中、唯一まだ辛うじて瞳に理性の色を宿していたサンジスが目の前の首を見分する。


(黒い鱗、形状からして確かにドラゴンっぽいが有色種のブラックドラゴンでもなければ、ましてや属性種のダークドラゴンでもない。このサイズ、それにブリ雄が言っていた首を失っても生きているというのが本当だとすれば……)


脳裏を過るとあるモンスターの名、しかしその名を出すにはこの首だけでは確証を得る事が出来ず、現状ではブラックドラゴンが更に長い年月を経て成長した存在というのが関の山である。


(駄目だな、取り合えず直近の目撃例があったのはベランナだったか?。あそこの支部に今アイツの首がどうなってるか確認を取るしかないな)


そんな理性的な判断に見える問題の棚上げを行った後、サンジスの目はゆっくりと黒いドラゴンの首からその脇に積み上げられた小さな山の方へと向けられていく。

グリフォン、マンティコア、ズラトロク、コカトリス、フレスベルグ、その他にもヘナールにカトブレパス、オロンバロスとその殆どが蒼一達が以前に持ち込んだエルダートレント以上に希少なモンスター達だった。


「これだけの希少モンスター、一体誰が捌く事になるんだろうなぁ……」


遠い目をしてその山から視線を外すサンジス、とういうのも希少なモンスターの素材というのはその希少性故に素材として必要としている者達だけではなく、転売目的で手元に置いておきたいという者、コレクター要素として集めている者など買い手に事欠かないのだが、その実売るのが非常に難しい厄介な代物でもあった。

事情を知らぬ者からしたら買い手がそんなに多いなら売り払うなんて簡単な事だと思うかもしれないが、実はモンスターの素材を原材料として売り払う場合非常に厳しい法律が存在しているのだ。

端的に言えば希少なモンスターの素材が国外へと流れ、それが戦争の為に利用されて自分達に向けられる事を恐れた国が軍事利用や違法な輸出を減らす為に制定したものである。

故にただ欲しいと言っている相手に売れば良いという訳にもいかず、まず相手の素性を調べその使用用途を調査し、軍事利用や国外への転売などを目的としていない事を明確化した上で取引に望まなければならないので非常に売るのに手間が掛かるのだ。

ニーヴァは新人教育の為の組織という側面が大きい為、入って来る素材は基本的に新人でも倒せるような有り触れたモンスターの素材ばかりで上記の法律を気する必要は殆ど無い。

故にニーヴァに所属する鑑定士の殆どは希少素材の買い手探しなど経験した事が無いような人間が殆どなのだが、それでも稀に運良く希少な素材を持ち帰る者も居る為、サンジスのような人間が各支部に一人は配属されている。

それはつまり言ってしまえば希少な素材の取り扱いが出来る者がスルク支部にはサンジスしか居ないという事であり、以前に蒼一達が持ち込んだエルダートレントの素材も未だに売り捌けていないというのにここに来て更に希少価値の高い素材が一気に持ち込まれたものだからサンジスのキャパシティを明らかに超えていた。


「協会の競りに流せば客の選別は向こうでやってくれるが、全部協会に丸投げする訳にはいかねぇし……こりゃまた徹夜だなぁ。はははははははは」


仕事が降って来たと思えばそれが終わる前にまた次の仕事がと、終わりの見えない仕事地獄にサンジスの口からは乾いた笑いが零れ出し、瞳からも遂に光が消え失せる。


こうして血と臓物に塗れ、乾いた笑いの木霊する応接室に死んだ魚の目をした男が四人という地獄絵図がここに完成するのであった。

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