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拠点購入とその訳

「……はい?」


西の大陸から戻って来て早々、ブリ雄が口にした"拠点を買わないか"という言葉に蒼一は一瞬理解が及ばずフリーズする。


「えっと、拠点ってのは宿に泊まるとかじゃなく、家とかそういうのを買おうって事だよな?」

「はい、それと出来れば家ではなく屋敷を購入したいと考えております」

「それは何ともまぁ……その理由を聞いても?」

「勿論です。実は山頂に設置したマーカーへ転移した時なのですが――」


そこから始まったブリ雄の話によれば、転移した先は霧隠れ山の山頂ではなく何故か薄暗い洞窟の中だったらしい。

どうやら霧隠れ山の近くの洞窟を根城にしていた盗賊が霧隠れ山からコバヤシが飛び立っていくのを目撃、昔からドラゴンという種族は財宝を溜め込むものだという話が広く知れ渡っており、ドラゴンが根城にしていた山頂にその財宝があるかも知れないと考えた盗賊達はコバヤシが飛び立っていったのを目撃してから即座に行動に移したのだが、当たり前だが半年近くただ息を潜めていただけのコバヤシが財宝なんて物を持っている筈も無く、それらしき物を見つけられなかった盗賊達は意気消沈し、それでも鱗の一つくらい落ちていないかと注意深く探していると地面に埋まっていたマーカーを発見、盗賊達にはそれが何か理解する事は出来なかったが、ドラゴンが根城にしていた場所にあるマジックアイテムらしき代物であればきっと高価なもの違いないと自分達のアジトへと持ち帰ったというのが事の起こりだった。


そんな訳で意図せず盗賊のアジトに転移してしまったブリ雄は面倒事になる前にコッソリと抜け出す予定だったのが、そこで思わぬ物を見つけてしまう。

それは洞窟の一部を改造して作られた牢に詰め込まれていた八人の少女達だった。

ここは盗賊のアジトでそこに明らかに捕らえられたうら若き少女達、その時点で何事も無く抜け出そうという考えは微塵も無くなり、ブリ雄は少女達を逃す為に盗賊を殲滅する事に決める。

道中遭遇した盗賊を音も無く静かに倒しながら、出入口とは反対にアジトの奥へ奥へと進むブリ雄はそこで更に別の光景を目撃した。

途中で見つけたあの牢の中に居なかった別の少女とその少女に覆い被さった肥え太った男にそれを囲う下世話な笑みを浮かべた男共――ブリ雄は敢えて詳細に説明はしなかったがその状況だけで蒼一にも何が行われていたのかは容易に理解する事が出来てしまった。


義憤に駆られながらも盗賊達を殲滅しその少女を助けたブリ雄は牢に捕らえられていた少女達も救出、九人の少女を保護したブリ雄はスルクの街へと向かうと街の衛兵に盗賊と捕らえられていた少女達の事を説明、調書の後スルクへと入ったブリ雄はニーヴァへ直行、そこでもまた似たような説明をして少女達を親元へと返してやりたいとアイゼンへ掛け合ったのだが……。


「どうも彼女らは攫われた訳ではなく、親に売られたらしいのです。金銭欲しさに娘を盗賊に売り渡すような親ですから、返したところでまた同じ事の繰り返しになるでしょうし、彼女達も戻る気は無いようで」

「もうなんか話の流れが読めて来たけど、続きをどうぞ」

「もう察しはついているようですが、その彼女達の面倒を私が見る事になりましてね。どうも盗賊から助け出した事で懐かれてしまったようで……とはいえ流石にこの島に連れて来る訳にもいかず、九人分の宿を取る事も考えたのですがそれならいっそ拠点を購入してその管理を任せるのが良いのではないかと考えたのです。人数も九人と住む人数と管理に必要な人手を考えれば家よりは屋敷が良いと……蒼一様?」

「…………………」


途中から完全に反応が無くなり無言になった蒼一の様子にブリ雄が不安気に首を傾げると、今まで微動だにしなかった蒼一が唐突に動き出し、地面にヘッドバットを繰り出さんばかりの勢いで頭を抱えてその場にしゃがみ込み、ケダモノのような唸り声を上げる。


「うぉぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛……!何故!どうして俺が同行しなかった時に限って、そんなテンプレイベントに遭遇してんだよぉぉぉぉぉ!」

「いえ、そう叫ばれましても」


自分だって好き好んでそんな場面に出くわした訳ではないと、必死な蒼一の様子に引き気味になりながらもブリ雄はそう意思表示するが、そんな事は蒼一にはどうだって良かった。

肝心なのはブリ雄が九人の少女を救い出し、その場に自分が居なかったという事なのだから。

とはいえブリ雄の言う通り叫んだところで過去に戻れる訳でも無いので、蒼一は不満そうな顔を継続しながらも話を続ける。


「それで、屋敷を購入したい理由については分かったし、俺にそれを拒否する理由はない。でも金はどうするんだ?。一千万くらいはまだ残ってるとはいえ、それで買えてしまうくらい屋敷は安くはないだろ?」


単価が円のせいで時々妙な錯覚を起こすが、元居た世界とこちらの世界では物価も違うとはいえ流石に一千万程度で屋敷が買える筈も無い事は蒼一も分かっていた。


「それに屋敷が欲しい!買います!ってそんなスムーズに買えるようなもんじゃないだろ?。まずは不動産探しからになるし」

「あぁ、そこに関してなのですが先に謝っておかなければならない事が」

「何だ?」

「今回の調査依頼の報酬についてですが、ニーヴァの方で目ぼしい屋敷を何件か見繕って貰えるよう依頼したのです」

「あぁ、なるほど」


そう言えば今回の依頼に関しては金銭以外でも受け付けるから考えておいてくれみたいな事をアイゼンに言われた事を思い出した蒼一が得心がいったという顔をする。


「申し訳ありません。相談も無しに決めてしまって……ただ相談してからだと購入が更に遅れてしまうと思いまして」

「まぁそういう事なら仕方ない。そもそも俺も報酬に関しては忘れてたくらいだしな、謝る必要はないぞ」

「いえ、そこは覚えておいてくださいよ」


呆れたように呟くブリ雄の言葉をスルーしつつ、蒼一は残った疑問を片付けていく。


「それで屋敷探しに関しては問題ないのが分かったが、肝心の金はどうするんだ?。これが普通の家だっていうなら兎も角、屋敷となると一千万ぽっちじゃ頭金にもならないだろう」


そもそも住宅ローンの概念がこの世界に存在しているのかさえ微妙なところなのだが、それはどうする気なのだと蒼一が尋ねると、ブリ雄は不自然な笑みを浮かべながら蒼一の肩を掴む。


「それは今夜(・・)の内に稼ごうかと」

「…………え?ごめん、なんて?」

「ですから、今夜の内に屋敷を買えるだけの素材を狩りに行きましょう、という話です」

「……why?冗談だろ?」

「私は至って本気ですよ」


笑みを浮かべたまま圧力だけが増していくブリ雄に蒼一は後退ろうとするも肩を掴まれている以上それも出来ない。


「あのーブリ雄さん、何故俺の肩をガッチリと掴んで離さないのでしょう」

「だって離したら蒼一様逃げるじゃないですか」

「俺、昨日の夜からずっと畑弄りしてて肉体的には兎も角、精神的にちょっと疲れてるんだけどなぁ」

「ならお揃いですね。私の方も精神的に疲れているだけで肉体労働は問題ありませんよ」

「お揃いだからってなんだよ!?」


訳の分からない理屈で押し切ろうとするブリ雄に蒼一が抗議の声を上げるも、隠せないくらい疲労が滲み出てしまっているブリ雄は聞く耳を持たず、蒼一の肩を掴んでズルズルと引き摺っていく。


「短時間で効率的にモンスターを狩るには蒼一様の協力が欠かせないのです。取り合えず西の大陸に戻ったら高効率の狩場を転々としましょう」

「狩場を転々って……お前まさか」

「今夜は大陸を西へ東へ、北へ南への大移動ですよ。観光している余裕は一切ありませんが」

「とんだハードスケジュールじゃねぇか!!俺が普通の人間だったら間違いなく過労死してるレベルでブラックだぞ!」

「安心してください。私も蒼一様も人間ではないのでこの程度問題になりませんよ。それとも蒼一様は帰る場所も頼れる人も居ない彼女達の事など知らないと言うのですか?」

「おまっ、それ持ち出すのは卑怯だろうが!」

「あぁ可哀想に、身寄りも無い彼女達はこれからその身一つでこの過酷な世界を生き延びていかねばならないのですね」


疲れているのかちょっとテンションの可笑しなブリ雄がこれ見よがしに悲痛な顔でそう告げると、蒼一は癇癪を起した子供のように叫びながらブリ雄の手を振り払う。


「だぁぁぁぁ!もう分かったよ!屋敷の一つや二つ上等じゃねぇか!やってやらぁ!!」


そんな風に良心に付け込まれたら嫌と言える訳も無く、蒼一とブリ雄の二人は若干ヤケクソ気味のテンションのまま館の購入費を稼ぐべく西の大陸へと向かうのであった。

本当はブリ雄視点というか、しっかりと書いても良かったのですがシリアスというか残酷描写とかそういうのが多分に含まれてしまい、今作のテーマから著しく外れるなと思い簡単な状況説明に留めました。

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