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蒼一と農作業

コバヤシを孤島に連れ帰った翌朝、ブリ雄は宣言通り一人西の大陸へと向かい今回の顛末についてをアイゼンに報告しに行った。

無論真実の中に嘘を混ぜつつだが、コバヤシの意見も取り入れ少なくともコバヤシに関する事だけは真実をそのまま伝えるという事になった。

本来の筋書きであればコバヤシはレヴィアタンの海域に侵入して死んでしまったという事にする予定だったのだが、自分が人間の軍門に下ったという事にしてしまい、それが同族達の耳に入ればコバヤシに対して失望し再び長に等と言い出す連中も減るだろうという打算的な考えもあっての判断である。

なのでアイゼンに報告する内容としてはコバヤシに関する事は真実を、どうやってコバヤシを下したのかという蒼一の力を推察出来てしまうような内容とコバヤシの現在位置に関しては言及を避けるという形になった。


という訳で面倒事はブリ雄が引き受け、蒼一の方はというと昨日ブリ雄から貰った余り物の種を使って早速土弄りに精を出していた。

その弄り方が物理的ではなく概念的な情報を弄るという変な方向ではるのだが、土弄りは土弄りである。


「ん-……この土じゃ芽が出ねぇか。もうちょっとこっちの数値弄ったらどうなる?」

「お、なんか急に土に粘り気が出始めたぞ」

「粘性が出て来たな。ちょっと泥っぽい」

「作物の生育には関係無さそうな感じだな」


蒼一が土を弄り、その横で見学をしている肖像画の顔をしたコバヤシが畑に手を突っ込んで変化した土の感触を確認していた。


「であれば、これならばどうだ?」

「おい、なんか急激に地面が泡立ち始――」


不穏な気配を感じ取ったコバヤシが言い終わるよりも早く、泡立ち始めた畑は次の瞬間には破裂し、泥が周囲へと激しく飛び散る。


「「ぶっ!?」」


近くに居た二人はその泥爆弾の直撃を諸に受けて二人は見事に泥だらけになってしまう。


「ぺっぺっ、一体何をしたのだ!?」

「うげぇぇ……多分、沸点とかそういうのを書き換えちまったみたいだな」

「多分とは、蒼一は世界で自分を書き換えたのだろう?何故自信が無い」

「俺が世界として生まれ変わったのはここ数ヵ月の話だからな、自分の身体の事だけどまだ良く分からない部分も多いんだよ」


身体に付着した泥を拭いながらそんな事を話し合う二人、しかし話は進む一方で泥の方は拭ったくらいではそう簡単に綺麗にはならず、二人が悪戦苦闘していた時だった。


「ムーー!」

「わっ!?」

「むっ!?」


川の向こう岸の方からそんな鳴き声が聞こえて来たかと思った直後、二人めがけて水が放物線を描いて直撃し、身体に付着した泥が洗い流されていく。

たっぷりの水で身体に付着した泥が綺麗に洗い流された頃、パチャパチャと川の中を走ってこちらに向かって走って来るクレアと、その腕の中にある木器の中からぴゅー!と水を吐くムーの姿が見えたが、近づくにつれて増していく水圧に蒼一は手で水を防ぎながらムーに向かって声を掛ける。


「ムー!綺麗になったからもう水は止めて大丈夫だぞ!」

「ムー!」


その声が聞こえたのかムーは放水を止め、蒼一は泥だらけの次に水浸しになった衣服を絞りながらクレアとムーの方に歩いていく。


「驚いたな、何時の間に水を出せるようになったんだ?」

「ムー……ムッムー!」

「二、三日くらい前からちょっとずつか、なるほど」


バハムートと同じく海神と呼ばれるレヴィアタンのブレスを知っているだけにムーの今のブレスはちょっと勢いの強い水鉄砲程度でしか無かったが、将来を感じさせる良いブレスだったと蒼一は内心でムーの成長を喜んでいた。

親馬鹿である。


「ん-」

「どうしたクレア?」

「ん」


蒼一の傍に来て袖を引っ張るクレアに蒼一が首を傾げてみせると、クレアが畑の脇に置かれていた作物を指差す。

それは今回の力の実験で生み出された作物の数々であり、食いしん坊であるクレアがそれを指差す理由なんて一つしかない。


「食べたいのか?」

「ん!」

「ム!」


蒼一の言葉にクレアとムーがその通りだと力強く頷いてみせるも、蒼一はといて気まずそうに頬を掻きながら口を開く。


「でもなぁ、実はあれ失敗作なんだ」

「ん?」

「失・敗・作――って言ってもクレアには伝わらないよな」


まだまだ言葉を覚えている最中のクレアにあの作物の事をどう伝えれば良いかと蒼一が頭を捻る。

一見してたわわに実った作物達だが、その実外見に反して内面、味については正直言ってかなり不味い代物が出来てしまった。

これは蒼一の力で生育の度合いだけを強制的に書き換えた結果であり、外見はしっかり育っても内面的な情報が一切変化していないので、味や栄養価などがまるで無い、ただ土臭いだけで到底食えた代物ではなかったのだ。


(食べられない事は無いんだが食べたところで美味しくはないし、あんな失敗作食わせてもし真っ当に育った作物まで嫌いになられても困るしなぁ)


だからこそ最初に食べさせるならちゃんと美味しく育ったものが良いと考えていた蒼一の前で、そんな蒼一の顔とクレアの顔を交互に見ていたムーが不意にクレアの方へと向き直り鳴き声を上げる。


「ムー」

「んー?」

「ム、ムー」

「ん」

「ムムム!ムー!」

「んー……ん!」


不思議なやり取りを繰り広げるクレアとムー、それを見て蒼一はふっと笑みを零しながらムーの頭を指先で撫でて感謝の言葉を告げる。


「ムー、ありがとうな」

「え、何がだ?」


唐突に礼を述べた蒼一を見てその光景を傍から見ていたコバヤシがそう疑問を口にした。


「ムーがクレアに伝えてくれたんだよ。あれはちゃんと育ってないから美味しくないものだって」

「何故あの鳴き声からそこまでの意図を読み取る事が出来るのだ……」

「何でって言われても、なぁ?」

「んー?」


ムーとして言っていないのに解せないというコバヤシに、蒼一とクレアは差し合わせたように互いの顔を見て首を傾げる。

分かるものは分かってしまうのだから何故と言われても困るというのが素直な気持ちだ。

蒼一の場合は肉体的には同種族と言っても良いからと理由付け出来るかも知れないが、その場合だとクレアがムーの言葉を理解出来ているのが謎になるので、これに関してはそういうものなのだと蒼一達は勝手に納得していた。


「まぁコバヤシもそのうち分かるようになるさ」

「絶対にそれは無い」


鳴き声のニュアンスからある程度推察する事は出来るようになるかもしれないが、少なくとも蒼一やクレアのようにあそこまで理解する事など到底不可能だと断言するコバヤシ。

しかしその一ヶ月後には蒼一やクレアと同じところまで辿り着く事になるのだが、それはまだ先のお話である。


取り合えず今は力の使い方の訓練として、美味しい作物を育てる事に蒼一は集中するのだった。









「作物を直接書き換えるのは全てを均等に書き換えないと歪なものしか生まれないから駄目、土壌改良は本当に改良されたのかもしくは改悪されたのか直ぐに判断出来ないから駄目、生育度合いを直接弄るのではなく促進してやる事で生育自体は本来の手順を踏ませるってのも、結局どうやって促進してやれば良いのか分からないから駄目……あーもう無理、手詰まり感がハンパねぇ」


実験に実験を重ね、どうにかして自分の力で作物を美味しく育てようと奮闘していた蒼一だったがその努力も空しく肝心の成果の方は非常に芳しくなかった。

一人で云々唸っているばかりの蒼一の邪魔をしない為か、手伝える事は何もないからとコバヤシにクレア、ムー達は別の場所に行き実験用の畑には蒼一一人だけ、そんな時だった。


「蒼一様」

「ん、ブリ雄か?。思ったよりも早――」


早く帰って来たなと言い掛けた蒼一だったが、視界に映る茜色の空を見て口を噤む。

農作業に集中し過ぎて気が付かなかったが現在時刻は既に夕暮れ、アイゼンの所に相談しに向かっただけにしては早いどころか遅いくらいである。


「……遅かったみたいだけど何してたんだ?」

「ちょっと色々ありましてね」


そう告げたブリ雄の顔には疲労の色が見え、それは以前に蒼一の肉体のお披露目の際に暴走する同胞達を制御するのに苦労していた時のブリ雄を蒼一に思い起こさせた。


「アイゼンさんへの説明、そんなに苦労したのか」

「それもそれでで大変だったというかちょっと面倒事が間に挟まってそっちは現在進行形なのですが、それは一旦置いといて実は蒼一様にご相談があるのです」

「相談?」


現在進行形という事はアイゼンへの説明はまだ中途半端のままという事であり、それを一旦打ち切って相談に来たという事は十中八九その面倒事関連なのだろうと予想しつつ蒼一がそう尋ねると、ブリ雄は疲労感を滲ませたまま、しかし至って真面目な表情でこう告げる。


「蒼一様、スルクに私達の拠点を買いませんか?」

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