伝説の地ハッ●ーセット
サブタイからお察しでしょうが、ちょっと少し前までシリアスというか真面目な雰囲気も多かったので、今回は大分ギャグに振り切りました。
レヴィアタンとの二度目の会敵から無事逃げ果した三名は現在蒼一の定位置となっている巨大なチェススの駒の乱立する砂浜に居た。
「うぇぇぇ……まだ土と血の味がする」
「大分ド派手な着地、いえ墜落でしたからね」
『あの速度で地面と激突して良く無事だったな』
全速力で交差する形で転移した蒼一達、ブリ雄とドラゴンは孤島を背にする形で転移し海上へと飛び出したのだが、運の悪い事に蒼一はそれとは正反対、島に突っ込む形で転移してしまったのだ。
「落ちたのが俺じゃなかったら死んでたな……」
「そこに関しては幸いでしたね。もし私達だったら多分生きていませんでしたよ」
それどころか力を解放し赤熱した巨大なドラゴンが島に落下していた場合、その質量と熱量によって森は吹き飛び火事になっていた可能性を考えると、間違いなく幸いである。
『しかしこの島は一体何処なんだ?軽く島全体を見渡してみたが他の陸地はまるで見えないし、この規模の島も長い事生きてきたが今まで見た事が無い』
「流れで連れて来てしまいましたが、まぁここまで来て隠す必要もありませんか」
「この島はな、レヴィアタン――お前らが海神と呼ぶアイツの海域を越えた先にある島だよ」
『何!?海神の海域の先だと、であればここは伝説の地なのか!?』
「伝説の地?なんだそりゃ」
これまた在り来たりというか安直な名前が飛び出して来たなと蒼一が考えていると、突然蒼一の背後に気配が湧く。
「悪かったな、在り来たりな翻訳で」
「うっ!ユーリア!?」
その声に蒼一が弾かれるように背後を振り返るとそこには伝説の地なんて翻訳をしたユーリアがそこに立っていた。
「あぁ、その安直な名前を付けたユーリアだ」
「あ……ははは、いやぁ分かり易くて良い名前だなぁ!。それよりも伝説って?」
「露骨に話題を変えたな……まぁ良い。伝説の地とは西と東、それぞれの大陸での互いの呼び名だ」
「え?じゃあ西の大陸の人達は科学で発展した東の大陸の存在を知ってるのか?」
「いいや、所詮は伝説、誰も越えられない海の先に幻想を抱いた夢追い人の妄言程度にしか認識されていない」
「あぁ、そうなのか。それもそうだよな」
レヴィアタンがあの海域を守っている事を考えれば、西の大陸に居る者達がレヴィアタンの海域、更にはバハムートの海域を超えて東の大陸まで辿り着くなんて不可能だろう。
しかもそれを往復でとなれば不可能なんて言葉では到底言い表せない難度だ。
「ドラゴン、その伝説の地は一体どんな場所って言われてるんだ?」
『あ、あぁ、何でも海の向こうには一切の穢れが存在しない神々の住まう純白の地があり、そこから湧き出る水を一口飲めばどんな病気も忽ち癒え、老いる事も無ければ死ぬ事も無く、犯した罪も全て赦されるという、更にはその地で修行を積めば神に近しい存在へと成れるとも言われている』
「うわぁ……良くある伝説の地の詰め合わせみてぇだ」
「伝説の地ハッ●ーセットですね。夢見た代金が命一つと重いですが」
「ワンコインならぬワンソウルだな」
伝説の地をそんなどこかのファーストフード店のセットメニューみたいな扱いをする三人に、唯一三人の言う事が理解出来ていないドラゴンが疑問を口にする。
『ところで自然と入って来たが、そこに居る人間……か?。その女は一体』
「ん?あぁコイツはユーリア、この世界を管理してる神様だよ」
『……ファ?』
「ちなみに蒼一様はその神様に管理されている世界です」
『…………』
蒼一が唐突にぶち込んだ爆弾に更にブリ雄が火薬を投入し、ただでさえ混乱していたドラゴンの思考回路はショート寸前に陥っていた。
『……なるほど、これは夢か』
「何ベタな反応してるんだよ。結構重大な事教えたんだからもうちょっと教え甲斐のある反応してくれ」
「事の重大さを考えるとそれに見合った反応って一体どんな反応になるのでしょうか?」
「そいつはこう、おはだけ的な奴をだな!」
「それは料理漫画等にありがちな奴ですよね。少なくとも今回の場合にはそぐわないような、というかドラゴンのおはだけって何ですか」
「鱗が全部剥ける、とか?」
三人の脳裏に鱗が抜け落ちお色気ポーズで地肌を隠すドラゴンの姿が再生され、三人はその気色悪い絵面にゲンナリとした顔をする。
「……やっぱベタな反応が一番だな」
「無駄に奇をてらったところでロクな事になりません」
「私の想像力の豊かさが憎らしい」
吐き気を催していた三人を他所に、思考停止していたドラゴンも何とか再起動を果たし、嘔吐いていた三人へと視線を向ける。
(世界を管理する神に、その神が管理している世界、だと?そんな馬鹿な、いやしかし)
ユーリアを一目見た時から人間とは明らかに違うとその纏う空気から察していたドラゴンには、突拍子もない神という言葉が非常にしっくりと来ていた。
更に蒼一の規格外の力、生物の範疇を圧倒的に超越した何かを肌で感じ取った以上、それを世迷言とせせら笑う事など出来る筈もない。
(魔術ではない、世界を直接操るような力だとは思ったが、本当にそうだったという事か)
全てを飲み込めた訳ではないが、それでも得心がいったという様子でドラゴンは三人に言葉を伝える。
『神――いえ、ユーリア様でしたか。御挨拶が遅れて申し訳ございません。我、ではなく私は』
「あぁ馴れない敬語は使わなくて良い。そもそも敬われるのに慣れていないのでな」
『神なのに、ですか?』
「その反応、前に俺がやった。まぁこれまで人と関わり合った事が無かったらしくてな、敬われるという事が皆無なんだと」
『だから馴れていないと』
「それと、ユーリア曰く"神というだけで無条件に媚び諂う者なぞ見ていて怖気が走るわ"だってさ」
『そうか、そういう事であれば口調は崩させて貰おう。改めて我の名は……あー』
「名は?」
気になるところで区切ったドラゴンに蒼一が催促するように言うと、ドラゴンは躊躇いがちに口を開く。
『我が今まで名乗っていた名は正確には我の名ではない。グロングリドの長の名なのだ。つまりその座を退いた我がもう名乗る事は許されない』
「じゃあその前に名乗っていた名前は?まさか長以外には名前が無いとか言わないよな?」
『それは無いのだがな……我が長の名を名乗り続けて数千年、過去になんて名乗っていたかなど既に忘却の彼方だ』
「つまりは名無しって事になるのか。ん-でもドラゴンって呼ぶのもなぁ。じゃあ俺が名前を付けて良いか?実はお前の姿を見て思い浮かんだ名前があるんだ」
「「え?」」
蒼一が名前を付ける、それに反応したのは当のドラゴンではなくブリ雄とユーリアであった。
「蒼一が名前を付けるだと?止めた方が良いのではないか?」
「いえ、何やら彼の姿を見て思い浮かんだと言っていますから、恐らくアニメや漫画、神話に出て来るドラゴンからの引用でしょうし、大丈夫な筈です」
不安気な様子で見守る二人の前で、蒼一は思い浮かんだというその名前を口にする。
「"コバヤシ"ってのはどうだろうか」
「「コバヤシ!?」」
そうして飛び出た名前が斜め上どころの騒ぎではなく、ブリ雄だけでなくユーリアも珍しく声を荒げてコバヤシという名前について蒼一に追及する。
「一体何処からコバヤシが出てきた!?何を連想したのだ貴様は!」
「え?いや、全身が太陽みたいにピッカピカに光っててさ。あれを見た時に某演歌歌手のラスボスっぽいなーって」
「コバヤシって、小林●子の事ですか。まさかの角度で攻めて来ましたね」
その角度は予想していなかったと愕然とする二人を他所に、当のドラゴンはまんざらでもない様子でコバヤシという名前を反芻していた。
『コバヤシか……ふむ、演歌歌手という言葉の意味は良く分からないが、ラスボスの名だと言うのならば気に入った』
「ラスボスは翻訳が利いているのですね……これどうしましょう、絶対彼の考えているラスボスとは別物ですよ」
「……まぁ、本人が気に入ったというのだから私達がとやかく言う事では無いだろう。正直蒼一に創作させるよりはマシな名前である事に違いはない」
「私の名前って、一体……」
という訳で元長の名無しのドラゴンは蒼一によってコバヤシと命名されたのであった。
これ書いてた時に某メイドラゴンを連想しましたが、小林さんちのっていうかドラゴンの小林さんになりました。
当初はちゃんとした名前を考えてやる予定だったのですが、ドラゴンの名前はこの流れを思い付いたが故に犠牲となりました。




