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蒼一、キレた‼

サブタイの元ネタはアレです。某少年漫画です。

スルクから徒歩で三時間は掛かる道程を、二人は空を飛びものの数分で霧隠れ山へと到着する。

霧隠れ山は相変わらず山頂付近が霧に覆われており、空から見ても山頂の様子はまるで分からない。


「それで、如何いたしましょうか。あの濃霧に向かって不用意に近づくのはあまりオススメしません。山頂への接近に反応し濃霧の範囲を引き上げたり、地面を動かす何かがある以上、空からの侵入でも接近すれば何か仕掛けて来る可能性は大いにあります」

「俺なら濃霧で視界を塞がれても関係はないが、ブリ雄はそうもいかないよな。」


どう出るのが正解かと考えを巡らせる二人だったが、不意に山頂に変化が現れ二人の思考を中断する。


「ブリ雄!」

「えぇ、分かっています」


二人の視界の先で山頂を覆い隠していた濃霧が広がり、二人の居る上空まで伸びて来るのが見えた。


「近づいて来る様子がないとみて、先に俺達の視界を塞ぎに来たか。どうする?」

「このまま視界を遮られるのも面白くは無いですね……仕方ない、少々強引な手でいきますか」

「強引な手?」

「可能なら証拠の類を確保する為にも山頂は綺麗なまま残しておきたかったのですがね」

「ちょ、それって」


ブリ雄が一体何をしようとしているのか理解した蒼一が引き攣った顔でブリ雄から距離を取り、次の瞬間ブリ雄が山頂に向けて翳した左手から閃光が解き放たれ、迫る濃霧を消し飛ばしながら流星のような輝きが山頂へと落ちる。

周囲に轟き渡る爆発音と撒き散らされる衝撃波、その余波だけで山頂付近にあった濃霧は木々諸共も吹き飛び、霧隠れ山の山頂は禿山になってしまった。


「あれは……」


山頂を隠すものは何一つ残らず消滅し、蒼一とブリ雄は露となった山頂に唯一残った何かの姿を捉える。

深紅の鱗を身に纏い、四翼を広げ空を飛ぶ二人を睨み上げるその存在は見間違えようもないファンタジー世界の代名詞とも言えるドラゴンの姿だった。


「あれが今回の騒動の原因ですか。それも四翼の赤いドラゴン、属性種ではなく有色種という奴ですね」

「その違い俺には分からないんだが、兎に角厄介って事で良いんだよな?」

「えぇ、少なくとも私達の敵ではありませんが、スルクに居る人達ではどうしようも無いでしょう」


こちらを睨み上げる赤いドラゴンをそう評するブリ雄、その時二人の脳裏に何者かの声が反響する。


『私達の敵ではないだと?我も随分と舐められたものだな』

「「ッ!?」」


突如として聞こえて来た頭に直接響くようなその声に蒼一とブリ雄が驚きを露にするも、直ぐにそれが誰の仕業であるかを理解し、その声の主に意識を向けた。


「この距離で私達の声が聞こえているとは随分と耳が良いのですね。それに知性もあるようで」


言葉を解する赤いドラゴンに向かってそう言葉を投げるブリ雄に対し、どこまでも相手を評するような上から目線が気に食わないと赤いドラゴンは牙を剥き出して唸り上げる。


『ただ魔力が多いだけの脆弱な人間風情が、良く我を目の前にしてそこまでつけ上がれるものだ』

「途轍もなく強大な怪物と二度も対面しているものでしてね。貴方程度なら問題にもなりません」

『ほう?』


挑発的なブリ雄の物言いに赤いドラゴンは可笑しそうに口角を吊り上げると、次の瞬間ドラゴンの全身から真っ赤な魔力が噴出し周辺の温度が急激に上昇し始める。


『この姿を見ても、まだそんな口が利けるか?』


剥き出しになっていた山肌はマグマのように溶けだし、ドラゴンの身体はまるで太陽のように輝き直視すればその熱量で目が焼かれかねない。

しかし蒼一は海神由来の肉体によって、ブリ雄は魔術によって無傷のまま眼下で唸るドラゴンを見据えていた。


「随分と派手ですが、なるほどそれが貴方の全力ですか……しかし解せませんね。ただの有色種程度なら不思議にも思いませんでしたが、貴方程の力があればもっと縄張りに相応しい場所があったのでは?何故こんなところで数ヵ月もの間じっとしているのです?」

『貴様にそれを話したところで何になる』

「何にもなりません。ただの好奇心から質問をしているに過ぎませんからね。しかし貴方程の力であればこの山に来る人間など相手にもならなかった筈です。それを濃霧と地面を操る事で山頂に近づけさせないようにするなんて回りくどい方法で、まるで隠れるようにしていたのは何故なのだろうと」

『我が隠れる?何を馬鹿な事を、見当違いも甚だしい』

「であれば何故あんな回りくどい方法を?」

『それは……』


口籠もるドラゴンに対し、ブリ雄は考えを巡らせる。


(退治する前に可能なら何故ここに居たのか、その情報は引き出したいところなのですが、この様子では難しいでしょうか)


ここは相手の自尊心を傷つける形で煽ってみるかとブリ雄はドラゴンに向けて挑発的な言葉を投げる。


「言えない、という事はなるほど図星という事ですか。尊大な態度の割に随分と肝が小さいのですね」

『グッ、貴様ァ!!』


ブリ雄の言葉に激怒するドラゴン、一触即発の空気の中で今まで黙って聞いていた蒼一が口を挟む。


「どうでも良いけどさ、取り合えず俺達はお前にここに居られると困るんだよ。だから退いてくれないか?」


普段の蒼一であればドラゴンを見て"うわ!テンプレ生物だ!"とかテンションを上げていただろう。

しかし先の男とのやり取りが尾を引いている蒼一はとてもそんな気分にはなれず、淡々と自分の役目を終わらせようとしていた。

そんなお前に対して自分は微塵も興味が無いといった蒼一の姿もドラゴンの癪に障り、ドラゴンのボルテージは益々上昇していく。


『虎の威を借る狐が!大した魔力も持たず、その男の金魚の糞の分際で我に盾突く気かッ!!』

「あっ――」


その瞬間、ブリ雄は上昇し続けていた筈の周囲の大気が途端に氷点下まで下がったような錯覚を覚えた。

今の蒼一に決して言ってはならない言葉、蒼一の地雷をドラゴンが踏み抜いた事を理解したブリ雄は恐る恐る蒼一の方へと視線を向ける。


「…………ざけんな」

「蒼一、様?」

「ふざけんなよ、確かに俺は金魚の糞かもしれねぇ。何でもかんでもブリ雄任せだし、良いところみせるのだって何時もブリ雄で、俺は力も活躍も見せた事ないんだから周囲の連中がそう思っても仕方ないってのは分かってるさ。でもなぁ――」


そこで言葉を切った蒼一の全身から蒼い輝きが漏れ出し、蒼一が感情を高ぶらせる程にその漏れ出す勢いはどんどん増していき、ドラゴンの放つ赤い魔力を押し流していく。


「ついさっき会ったばかりのお前にまで言われる筋合いはねぇぞ!このクソトカゲェェ!!」

『グゥ!?ゴァァァァァ!!』


今まで溜まりに溜まった蒼一のフラストレーションがここに来てついに爆発した。

肉体への負担を無視して迸る蒼一の力はドラゴンの魔力を完全に吹き飛ばし、叩きつけられた莫大な力にドラゴンが悲鳴を上げる。


「お前に俺の力を見せてやらぁ!!」


空に向けて蒼一が手を掲げると、急に暗雲が空に立ち込めたかと思えば幾重もの落雷がドラゴンへと降り注ぐ。


『グォォォォ!?』


落雷の集中砲火を浴びたドラゴンはこれは堪らんと翼を広げ落下地点から逃れようとするも――


「逃すかぁ!!」


蒼一が掲げた手を振り下ろすと同時に飛び上がったドラゴンの背めがけて超局所的なマイクロバーストが発生しドラゴンを地面へと叩きつけると、すかさず蒼一は重力を操作してドラゴンを地面に張り付け状態にする。


『何、だ。この力は!?魔術などではない、まるで直接世界を操るような、貴様は一体――』


今更になって本当に危険だったのはブリ雄ではなく蒼一の方だった事を理解したドラゴンだったが、蒼一はそんなドラゴンの疑問に答える気も無く、次の一手を打つ。

霧隠れの山全体が振動し始めたかと思うとドラゴンの身体を中心にするように山がパックリと二つに割れ始める。


「お前、この山から離れたくないんだろ?離れる気がないんだろ?じゃあ仕方ない、もうお前に退けなんて言わないさ。だから」


蒼一は冷淡に、静かな怒りを湛えた瞳でドラゴンを見下ろしながら告げる。


「喜べ、この山をお前の墓標にしてやる」

『待っ――』


蒼一がそう告げた瞬間、割れ目が一気に広がりドラゴンは重力に引かれるまま割れ目へと落下していく。

ドラゴンを飲み込んだ裂け目は巻き戻るように割れ目を閉じていき、このままでは押しつぶされてしまう事を悟ったドラゴンが必死に命乞いをする。


『待ってくれぇぇ!!済まなかった!我が悪かった!!だから!!』

「…………」

「蒼一様」


その命乞いに何の反応も示さない蒼一の肩をブリ雄が叩く。


「それ以上はおやめください。命乞いをする相手をここで殺せば、後になって蒼一様はその事を激しく後悔する筈です」


命乞いをするドラゴンの為ではなく、蒼一の為にこれ以上は止めてくれと告げるブリ雄に蒼一は暫しの沈黙の後に全身の力を抜き、ドラゴンに掛けていた重力を解いて割れ目を広げてやるとドラゴンは一気に飛び上がりヨロヨロと山頂へと着地し、蒼一達も山頂へと降り立つ。


「おいドラゴン」

『ッ!?』

「俺達の要求はシンプルだ。どっかに行ってくれ。そうすれば命までは取らない。さっきの暴言も許す」

『ほ、本当か?』

「男に二言はない」


そう言い切った蒼一を見て、ドラゴンはホッとした様子を浮かべるも、それでは色々と困るとブリ雄が二人の会話に口を挟む。


「でもその前に幾つか質問しても宜しいでしょうか。良く分からないままでは報告のしようもないので」


良く分からないけど半年近くも知性のあるドラゴンが山頂でじっと隠れ住んでてそれを追い払いましたではアイゼンも納得しないだろうと、ブリ雄はドラゴンに改めてその訳を聞く。


「何故貴方はこんな所に半年近くもの間、隠れ住んでいたのですか?」

『弱者に語るのは業腹だが、我を倒した強者であれば話しても良いだろう。我は元々グロングリドを治めるドラゴンの長だった』

「グロングリド……あぁ、知識の中にありますね。千を超えるドラゴンの群れが住む険しい山、その群れの長がどうしてこんな所で身を隠すような真似を?」

『…………世代交代という奴だ。こうもアッサリと負けを認めた我が言うのも可笑しな話だが、我は同族の中でも群を抜いた強さを誇っていた。それこそ数千年もの間、ずっと我が長を務め続けたのがその証だ』

「確かにドラゴンにしては随分と強大な力を持っているようですね。四翼のドラゴンなんて私の知る限りではかなり稀の筈です」

『"ドラゴンにしては"か。普通我ら種族は人からすれば雑兵の一体でさえ恐怖の対象であろうに、貴様らは一体』

「貴方からの質問は受け付けていません。私達の質問にだけ答えていて下さい。何故それ程の存在がこんな所でコソコソと隠れ住んでいるのです?世代交代したというだけなら隠れる必要は無いでしょう」

『……我が長の座を譲った事に納得せぬ者達が多いのだ。本来長の継承は長を務める者を力によって制する事で行われる。しかしこの数千年の間、我を超える者は現れず、それどころか越えようとする者さえ居なくなった』

「なるほど、貴方を絶対神のように崇めるばかりで他が成長する事を止め、群れ全体が停滞してしまったと」

『その通りだ。新たな風を取り入れなければ空気は淀みいずれ群れは腐り落ちるだろう。それを避ける為に我は強引に世代交代を行ったのだ。故に納得していない者達が我の居場所を知れば大挙として押し寄せて来るだろう』

「うへぇ……だから身を隠してた訳か」


千を超える群れの全てが押し寄せて来る事は無いだろうが、それでも最低でも数十、或いは数百にも及ぶ大群が一挙に押し寄せて来る光景は大騒ぎどころの話では済まないだろう。


「困りましたね。そうなると迂闊に他所に行けとは言えません」

「行った先々で問題が発生するのが目に見えているよな」

「取り合えず一旦ここで待機して貰って、この話をアイゼン様に伝えて判断を仰ぐのが宜しいかと」

『済まないが、もう我はここに長くは居られないぞ』

「どういう事です?」

『貴様と対峙した際に力を放出したからな。敏い連中は我がここに居る事に気が付いた筈だ』

「……それって、つまりここにドラゴンの大群がやって来ると?」

『うむ』


さも当然の事のように頷くドラゴンに、蒼一とブリ雄わなわなと肩を震わせ――


「「……な」」

『うん?』

「「何してくれてんだお前ぇぇぇぇぇえ!!」」


霧の晴れた山頂に蒼一とブリ雄の魂の叫びが木霊する。

こうして事態は思わぬ方向へと転がり出すのであった。

温厚な人間程キレた時が洒落にならない。

蒼一はまさにその典型で、キレたらブリ雄よりも怖いしやり方もえげつないです。

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