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普通の人間とそれぞれの価値観

今回のお話には同性愛などに対する考え方に関する物が多分に含まれています。

どうしてもそういう物に過敏に反応してしまう方、苦手だという方は飛ばしてください。

まぁサブタイでオチが出てますが。

無言の昼食を終えた後、蒼一とブリ雄はデミスから外に出る際に何が必要かという話や一通りのルールと注意事項等も一緒に聞き終え、そろそろ休憩してから一時間が経過しようとしていた。


「後はそうだな、ニーヴァ以外の所属の連中とカチ合ったら基本的には向こうに譲ってやれ。あんまこういう事は言いたくはないんだが、会社間の上下関係つーか……まぁトラブルは避けるに越した事はないからな」

「色々と細かいルールがあるんですね……覚えられるかな」

「大丈夫です蒼一様、私が全て記憶していますので」

「おぉ、そうか!」

「蒼一、お前何でもかんでもブリ雄任せなのは良くないぞ?。荷物だってブリ雄が持ってるんだろ?。今後何かあってお前単独で行動するような事になった時にどうする気だよ」


ブリ雄に頼りきりになっている蒼一に対し、デミスはそう苦言を呈すると、蒼一はバツの悪そうな顔で頬を掻く。


「さてと、そろそろ休憩も終わりにしてスルクに帰るとするか」

「あ、はい、分かりました」

「帰ったら私と今日聞いた事の復習ですね、蒼一様」

「はは、一気には覚えられんからお手柔らかに頼むわ」


三人は平原から街道に戻りスルク方面に向けて歩き出す。

休憩したお陰か足取りも軽く順調に進む三人だったが、ふと前を一人歩くデミスが後ろを歩く二人に振り返る事無く声を掛ける。


「なぁ、蒼一、ブリ雄」

「はい?」

「どうかしましたか?」

「お前ら、俺の事避けてるだろ?」


名を呼ばれ返事をする二人に対し、デミスは今日の調査依頼中ずっと気になっていた事を尋ねた。

その問いに蒼一とブリ雄は顔色を変えるが前だけを見ているデミスにはその表情は見えない、しかし二人が動揺した事を背から感じる気配で察したのか、デミスは苦笑いを浮かべる。


「別に攻めている訳じゃない。ただちょっと何でかなと聞いてみたくなっただけさ」

「それは……」


言い淀んだ蒼一にデミスは先程とは少しだけ毛色の違う、後悔の色を滲ませた苦笑を浮かべてから言葉を返す。


「意地の悪い質問をしたな、すまない。正直お前らが俺を避けてる理由はもう察しはついてるんだ。だからこれは俺の方から言わせて貰おう。俺は男で、そして俺が好きになるのも俺と同じ男だ」

「……ハッキリと仰るのですのね」


本人にとってもかなりデリケートで触れて欲しくない話題だと考えていただけに、デミスのハッキリとした物言いにブリ雄はそう返してしまう。


「まぁな、だって考えてもみろ。俺は男が好きだがそれだけだ。それで周囲に迷惑を掛けた覚えも無ければ人様に顔向け出来なくなるような事をした覚えも無い。だったら堂々と胸を張っていれば良い。顔を俯けて口篭もる理由なんかどこにもないんだ」

「デミスさんは……強いんですね」

「俺が強い?蒼一、お前は何か勘違いをしているな」

「え?」


勘違いと言われた蒼一は自身の前を行くデミスの背中を見つめながらその言葉の意味を問う。


「勘違いって、どういう事です?」

「お前は例えば道行く女を見てあの子が良いとか、どこが好きだとかくっちゃべってる男を見て"貴方は強いですね"って言うのか?言わないだろ?。つまりはそういう事だよ」

「……えっと」

「お前は俺を特別な人間――いや、普通じゃない、異常な人間として見てるって話だ」

「ッ――それ、は」


デミスの言葉に反論しようとした蒼一だが、今日の自分の行動と言動を鑑みて一体どの口が否定の言葉なんて言えるのかと、硬く口を閉ざしてしまう。


「別に良いさ。お前が俺をそういう風に見てるなら好きにすれば良い。俺にはそれをとやかく言う気はサラサラないからな。でもな、これだけは言わせて貰うが俺はお前らと何ら変わりない普通の人間だよ」


そう告げるデミスに対し、蒼一とブリ雄は一体何と返事すれば良いのか、考え込んでしまう。

あんな態度を取っておいて今更"そうですね"なんて白々しくて返せる訳もないと、そんな雰囲気を背中に感じ取ったのか、デミスは二人の返事を待たずして話を続ける。


「例えばだが全く恋愛対象じゃない異性からの好意、或いは性的な目を向けられた時、それに対し生理的嫌悪感を抱く人間が居るよな。男が男を、女が女を特別な意味で好きだと言って生じる嫌悪感も言ってしまえばそれと同じ、ソイツにとってどうあってもそういう対象として見れないが故に起こる生理的で自然な自衛の為の反応だ。可笑しい所なんて何一つないし、それは仕方のない事だろ?」

「……ありがとうございます」


デミスに対し避けるような態度を取っていた自分達へのフォローであると気付いたブリ雄が見えていないと分かっていながらも軽く頭を下げて礼を述べた。


「とはいえ興味があるって言っただけでそこまで反応するのは過敏過ぎる気がするけどな」


デミスは少しだけ揶揄うような言葉を投げると、それに蒼一とブリ雄はまたも申し訳ない顔をする。


「すみません」

「申し訳ありません」

「いや、ちょっと揶揄っただけだからそこまで畏まらなくて良いからな?」


デミスの揶揄いを真面目に受け取った二人にデミスは小さく溜息を吐きながら頭を掻く。


「はぁ……お前らが俺に配慮してくれようとしてくれてるのは分かるし、それが善意である事も理解はしてるんだけどな。俺にそう気を遣う必要はねぇよ。無論お前らがそうしないと気が済まないってなら好きなだけそうしてれば良いけどさ……少し話が逸れちまったな」


そう言って前置きをすると、デミスは話を戻していく。


「説明が下手で悪いんだがな、結局俺が何をお前達に伝えたかったっていうと、俺の価値観についてなんだ」

「デミスさんの価値観?」

「あぁ、さっきも言ったが俺はな、自分の事を普通の人間だって思ってる。飯を食えば糞をするし、疲れもすりゃ眠りもする。言葉を交わし、意思を伝え合う事の出来る、普遍的な一人の人間だ。そして人間の趣味嗜好ってのは自分で制御出来るようなもんじゃない。周囲の連中が精神疾患と呼ぶ同性愛、露出症、加虐趣味など、そんな趣味嗜好を持った連中の全てが自分からそういう趣味になろうとしてそうなった訳じゃない筈だ」

「まぁ趣味や嗜好というのは生活環境や人生経験など、様々な要因で形成されるものですからね。自ら選択出来るようなものではありません」

「その通り、これに関しちゃ誰にもどうしようもないし、誰が悪い訳でもない。それなのに周囲の連中は一部の趣味嗜好を持っているというだけで攻撃するし、まるで悪者のように扱う」


性的倒錯、性的嗜好障害、性嗜好異常、パラフィリア――病理的精神疾患として呼ばれるそれらはその人間の中で本人の意思に関わらず勝手に生まれてしまうものだ。


「肝心なのはその趣味嗜好を持っている事ではなく、その趣味嗜好に対してどう向き合うかだろう?。趣味嗜好に囚われて人様を襲ったりすればそれは確かに悪だろうが、理性的に考えて抑えてる連中や互いに納得の上で合意してる連中が悪人扱いを受ける謂れは無い筈だ」

「だからデミスさんはそんなに堂々としてるんですね」

「あぁ、だって俺は何も悪い事はしちゃいないんだ。そもそも人が何かを好きになるってのは感情を持つ生き物として当たり前の事だ。だって人間は何かを好きになるように出来てるんだから」

「……あっ――」


デミスのその話を聞き、蒼一はどうしてデミスが"強い"という言葉をそれは勘違いだと否定したのかを理解する。

デミスにとっては自分が男を好きになった事は何かを好きになる人間としては当たり前の事だと、だから自分は普通の人間なのだと言い続けていた。

しかし蒼一はデミスの事を少数派、周囲から責められる"可哀想な人間"だと考えて、だからその逆境を跳ね返すようなデミスの姿に"強い"なんて言葉をかけてしまった。

だがそれは逆境を逆境とも感じていない、自分の事を"普通の人間"と考えているデミスにしてみれば無為な同情、もしくは侮辱にさえ思えただろう。

何故なら蒼一の"強い"という言葉は"アンタは普通じゃない、可哀想な人間なんだ"と言ったようなものなのだから。


その事に思い至った蒼一が青い顔をして前を歩くデミスに駆け寄る。


「デミスさん!ごめんなさい、俺……!」

「お前は謝ってばかりだな、蒼一」

「だって、俺は!」

「お前が謝る必要なんてどこにもない。人の価値観なんて趣味嗜好と同じく人それぞれだ。俺は俺の価値観の中で生きてるし、誰かの価値観を押し付けられるのもまっぴら御免だ。だからこそ逆に俺も誰かに俺の価値観を押し付けるつもりもない」

「デミスさん……」

「だから俺の価値観に合わせて考える必要は無いんだよ。お前はお前の価値観を持ち続ければ――」

「――だったら!」


諭すように口にするデミスの言葉を、蒼一の声が遮った。


「だったらこれは俺の価値観で言わせて下さい!俺はデミスさんの話を聞いてその通りだなって、そう思いました。そう思ったからこそ、俺はデミスさんに謝りたいと思ったんです。もし俺が同じような立場だったら、相手には相手の価値観があるんだから仕方ないって、悪意は無かったんだから良いじゃないかと、そう考えていたのだとしても……それでもきっと、俺はとても傷付いていたと思うから」

「…………そうか」


その言葉にデミスは初めて足を止めて二人の方へと向き直り、蒼一とブリ雄は同時に深々と頭を下げる。


「「失礼な態度をとって、すみませんでした!」」

「あぁ、その言葉、しっかりと受け取った。だからほら、顔を上げろ」


その言葉に二人はゆっくりと顔を上げ、二人とデミスが無言で見つめ合う最中、デミスがふっと表情を破顔させる。


「じゃあ、帰るぞお前ら!」

「「はい!」」


こうして一人と二人の間にあった蟠りは無くなり、三人は行きとは違い活き活きとした表情でスルクへの道程を歩いて行くのだった。

ちょっとシリアス入ってしまいましたが、まぁ真面目な話題だったので勘弁してください。

こういうキャラの意思の主張とか価値観とかそういうのを出してくのが好きな人間なもので。

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