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エキ●イト翻訳再び

デミスと合流し霧隠れの山を目指す蒼一とブリ雄は、そこまでの道程を微妙な空気の中進み続けていた。

これが二人だけだったなら前回のように霧隠れ山まで超特急で駆け抜けるか、他愛の無い雑談で暇な移動時間を潰して居ただろうが、デミスが居るのにそんな速度で飛ばして行く訳にもいかないし、雑談の中でポロッと孤島の話等零してしまう危険性もあるので他人の前で雑談も出来ない。

そんな状況が一時間も続き、一番最初にその状況に耐えられなくなったデミスが自身の後ろを歩く二人に声を掛ける。


「お前ら、最近スルクにやってきたんだってな?」

「えぇ、そうですが、アイゼン様から聞いたので?」

「いや、お前らの事は最近スルクで噂になってるからかな、勝手に耳に入ってくるんだよ。"ニーヴァに凄い奴が入った"って、まぁそれが期待の新人なのかトラブルメーカーなのかは人によって意見が分かれてるが」

「別にトラブルを起こしてやろうと考えている訳ではないのですがね」


浅慮だった事は認めるが、あれは一種の事故のようなものだし、何よりあの一回でトラブルメーカー扱いというのは性急なのではと考えるブリ雄だったが、その一回で一時的とはいえニーヴァを機能停止に追い込んだのだから立派なトラブルメーカーである。


「まぁ故意にやってたんなら今頃ニーヴァから除名処分食らってただろうな。まぁそっちの方が他の会社も動きやすかったかもしれないが」

「他の会社?」

「あれ、噂なりで聞いた事無いのか?。お前らを引き抜こうとしてる連中が居るって話なんだが、その様子だとまだ一度も勧誘を受けてないのか?」

「はい、私はまだ、蒼一様は?」

「いや、俺もそういう話を持ち掛けられた事は無いな」

「へー意外だな。他の会社に取られる前にって先走って行動する連中が何人かは居ると思ってたんだが、皆意外と慎重だな」

「引き抜きって、それは会社として問題ないのですか?」

「他の会社間だったらよろしくはないが、事ニーヴァに関しては問題ない、というか問題には出来ないんだ。うちは未経験者を集めては経験を積ませ、そうして育った人材を外に送り出す事で今の地位を築いた訳だしな。今までずっとそうやって売って来た以上、誰がどこに行こうが、どこに誰が引き抜かれようが文句は言えないんだ」

「そういや、トリシャさんもそんな事言ってたな」


以前に蒼一とブリ雄がニーヴァに所属したいと話を持ち出した時、トリシャが二人に向かって似たような事を言っていた事を蒼一は思い出していた。


「その割にルドルフさんや貴方のように経験を積んでもずっとニーヴァに所属し続けている人もいるのですね」

「まぁな、ルドルフの奴は単純にニーヴァの空気が肌に合ってたからだが、俺の場合は中々良い所に巡り合えなくてな。そのままズルズルとニーヴァに所属し続けている内に重騎士にまでなっちまって、それで十分な報酬を得られるようになっちまったもんだからもう今更所属を変える気になれないだけさ」

「十分な報酬ですか。しかしそれだけの経験を積んだ貴方なら別の会社に所属してもっと良い稼ぎを得られるのでは?」

「言っただろ?十分な報酬だって、それ以上求めたら過分なだけで、俺には使いきれん。金は使ってこそ意味がある。それ以上使えない物をいくら溜め込んだって一銭の価値にもならんさ」


使われない金に価値はない。

例えそれが何百万、何千万という大金であろうとも使い切れない時点でどれも等しく十円硬貨一枚にも劣る価値にしかならないのだ。


「だから俺は現状にもう満足してんだよ。お前らはまだ若いがそこら辺がまだ理解出来ない程の若輩者でもない。これに関してどう思う?」

「私はその考えには賛成ですよ。使えもしない金銭を溜め込んでいても得にはなりませんからね。むしろ本来金銭が出回るべきところに出回らなくなる事を考えたら害でしょう」

「……その歳のわりに随分と達観した言葉だな」


ブリ雄の外見年齢は二十代であり、普通であればまだまだ遊びたい盛りで色々と金が要り様になる年頃だろうに、それなのにそんな言葉が飛び出すとは思っていなかったデミスが関心したような、或いは呆れたような微妙な顔でブリ雄を見るも、ふと何かを思いついたかのようにデミスは口を開く。



「ところで話は変わるんだが、お前らに聞きたい事があったんだ?」

「何でしょう?」


ついに来たかと、ブリ雄は迂闊な事を喋らないよう気を引き締め、デミスの問いに耳を傾けて――


「――お前らって"タチ"と"ネコ"どっちだ?」


その質問に蒼一とブリ雄はフリーズしてしまう。

二人が凍り付いた事にも気づかぬまま、デミスは質問を続ける。


「これから行動を共にする訳だし、一応聞いておこうと思ってな。基本的にはお前ら任せにしようとは思ってるんだが、全員ネコじゃやり辛いからな、お前らの役回り次第では俺がタチに回る必要があるだろ?」


淡々と告げるデミスの言葉に、処理能力で抜きん出た蒼一がブリ雄よりも早く再起動を果たし、ブリキの玩具のようなぎこちない所作でその問いに答えた。


「デ、デミスさん?あの、そういうのは俺達ちょっと」

「ん?言いたくないってのか?。でもこっから先は嫌でも見せて貰う事になるぞ」

「嫌でも!?いやそれは本当に勘弁してください!!」

「な、何でそんなに必死に拒否すんだよ」


そう言って全力で頭を下げる蒼一に、デミスが困惑とした表情を浮かべる中、ブリ雄が遅れて再起動し、デミスにある問いを投げる。


「あの、デミスさん。"攻め"と"受け"という言葉はご存知ですか?」

「いや、聞いた事はないが」

「……次の質問です。デミスさんの言う役回りとは何のことですか?」

「何って、そりゃ戦闘での役回りに決まってるだろ。他に何があるんだ?」

「「…………」」


あっけらかんとした様子でそう答えるデミスに、蒼一とブリ雄は無言のまま静かに顔を合わせた後、二人して天を仰ぎ今も自分達を見ているであろうユーリアの事を思う。


(ユーリア、お前またやってくれたな……なんでよりにもよってその単語をチョイスしたんだ。俺か、俺の知識が悪いのか!?)

(翻訳結果が判明するタイミングに悪意を感じてしまうのは私だけですかね……何故よりにもよってこんな紛らわしい時に)


ユーリアの翻訳は蒼一が持つ言語の知識の中から基本的に(・・・・)蒼一が理解し易い物をピックアップして当て嵌めている。

その為、一部の言葉が普通の日本語ではなく専門用語やネットスラングに置き換わっている事もままあるのだが、それにしても今回の割り当てには悪意を感じると二人は頭を抱えてしまう。


「なぁ、急にどうしたんだお前ら、様子が変だぞ?」

「いえ、お気になさらないで下さい。言語の壁にぶち当たっただけですので」


言語の壁という正確にはエキ●イト翻訳の壁であるが、まぁそれを言ったところで伝わらないので蒼一とブリ雄は意識を切り替えていく。


「それで私達の戦闘での役回りについてですが、私達は二人共攻め……そっちでいうタチになりますね」

「なるほど、じゃあ俺がタチに回る必要は無い訳だな……しかし本当に大丈夫か?。少しでも不調があるなら無理はしないのがこの仕事を長く続けて行くコツだぞ」

「えぇ、本当に大丈夫ですので、それよりも先を急ぎましょう。調査にどれだけ時間を費やすかも分からない以上、ここで無駄に時間を浪費する訳にもいきませんから」


そうブリ雄が告げ、三人は霧隠れの山へと道程を進んで行くのだった。

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