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神様の名前

サブタイから察しの通り、ようやく管理神ではないちゃんとした名前が出せる……それとついでに登場するんだから言語の割り当て直して(切実)

日も暮れた森の中、そこには蒼一とブリ雄の姿があった。


「さて、ここら辺で良いんじゃないか?」

「そうですね、ここに設置しましょうか」


そう言ってブリ雄は異空間からとある物品を二つ取り出す。

それは石で出来た転移用の魔道具であり、二人は孤島に戻った後に大陸の戻る為の転移地点を探す為に森やって来ていた。

どうして街中ではなくわざわざ森の中を転移地点に選んだのかと言うと人目の問題は勿論だが、一番の理由はこの魔道具の性質というか特性の問題でもあった。

この魔道具は出入口側となるマーカーを地面に打ち込む設計の為、転移する時は杭の上面に転移するように設計さており、仮にこれを正反対の向きで地面に設置して転移した場合、地中に転移する事になってしまう。

その為、使用時は必ず地面に対し水平に設置する必要がある訳なのだが、流石に借りてる宿の部屋の床にマーカーを打ち込む訳にはいかないし、かといってマーカーをその辺の床に置いただけでは戻って来た時に床や壁の中に転移する可能性が非常に高い。

そうなると建物の外の地面にマーカーを設置しなければならないのだが、前述した人目の問題もあるという事で二人は安全策として街の外までやって来て、そこにマーカーを設置する事にしたのだ。


「設置出来ました」

「よし、これで何時でも大陸に戻って来れるな」

「消耗品なのでこのマーカーは一回きりですけどね。明日お金を受け取ったら早速金属製のマーカー作成の依頼をしましょう」

「そうだな、それじゃあブリ雄頼んだ」

「分かりました……行きますよ」


手に残ったもう一つ、入り口側の魔道具に魔力を流し込むと二人の周辺の空間が歪み、やがて靄の中のように周囲の景色が見えなくなったかと思ったら次の瞬間には霧が晴れ、見覚えのある洞窟の中に二人は立っていた。

周囲には様々なガラクタが積み重なったその場所は以前に蒼一がブリ雄に案内された二つの大陸から流れ着いた物品が保管された場所であり、蒼一の専用装備である黒鉄が作成された倉庫であった。


「てっきり何時もの海岸に出るかと思ったんだが、ここにマーカーを設置したのか」

「えぇ、以前はそこに設置しましたが何日も放置すると考えるともう少し地面がしっかりした場所に設置した方が良いかと思いまして」

「まぁ何か不慮の事故でマーカーが横向きになったりして転移したら地面の中でした、なんてのは避けたいしな」


仮にそうなったとしても蒼一とブリ雄なら地面をぶち抜いて脱出は出来るだろうが、そうならないに越した事はないだろう。

一度使用した事で砕けてしまったマーカーを掘り返し、忘れない内に代わりのマーカーを設置していた時だった。


「ムーーー!!」


入り口の方から一度聞いたら忘れられそうにない特徴的な鳴き声が聞こえ、そちらの方に視線を向けると明かりも無い洞窟の暗がりの奥からムーの入った木器を抱えたクレアがトコトコと駆け寄って来る。


「クレア、ムー!」

「ん-!」

「ムー!」


二人の名を呼ぶ蒼一の声に返事をしながらクレアが勢い良く蒼一の胸目掛けて飛び込む。


「おっと、急に飛びついてきたら危ないだろう」

「ん?」

「……なんて言っても伝わらないか」


まだまだ言葉を覚えている最中のクレアに注意したところで伝わる訳も無いかと苦笑いを浮かべていると、ふと蒼一がある事に気が付いた。


「あれ、ムーなんか一回りくらい大きくなってないか?」

「ムッ!」


蒼一がそう言うとムーは"えっへん!"とでも言いたげに胸を張り、蒼一の声に釣られたのかマーカーの設置作業をしていたブリ雄が脇から顔を出して木器の中のムーを見やる。


「本当ですね。何時の間にか胸鰭(ムナビレ)も生えてますし」

「これはもう仔魚じゃなくて稚魚だな。しかし孤島を離れて二日半しか経ってないってのに急に成長したもんだな」

「ふむ……クレア」


ブリ雄は少し考える素振りを見せた後、クレアの名前を呼び簡単な単語と身振り言語(ボディランゲージ)で意思疎通を図り、ムーがこの短期間で異常に成長した原因と思われる内容を聞き出す。


「どうやら蒼一様がムー用にと置いて行った木の実を全部与えてしまったようですね」

「は!?あれを全部!?この二日半でか!?」


ブリ雄の言葉に蒼一は思わず声を荒げてそう返す。

どうして蒼一がそこまで驚いているのかと言うと、この島の食料事情は現在蒼一に頼り切りになっており、数日間島を離れるという事で蒼一は島を発つ前に大量の食料を生産していった。

それこそ下手すれば食い切る前に腐ってしまうのではないかというくらい作り、ムー用の餌も同様で両手では抱えきれない程の木の実の山を五つ程作って置いて行ったのだが、この二日半だけでムーが自身の体格の倍以上はある山五つ分の木の実を食べたというのは胃袋の大きさとかそういう話以前に最早物理法則を超越している。


「正確には昨夜の内に食い尽くしたらしく、二日で消化してしまったようですね」

「その身体のどこにあれだけの木の実が収まったんだよ……というか、昨日食べ尽くしたって事はまさか今日は何も食べてないのか?」

「ムー?ムームー!」

「ん?クレア達から大きい方の木の実を分けて貰ったのか?。そっか、なら良かった」

「蒼一様、ナチュラルにムーと会話しないで下さい。どうやって言葉を理解しているのですか?」

「え?そりゃあ……鳴き声のニュアンスで?」

「疑問符を浮かべられてもこっちが困りますよ……」


疑問に疑問で返されたブリ雄が困惑とした表情を浮かべながらもクレアの両肩に手を置いて倉庫の外へ出るよう促す。


「さ、こんな所で何時までも喋ってないで外に出ましょう。今夜は御馳走ですよ」

「ッ、ごちそう!」

「……そんな言葉ばっかり覚えて、ほら分かったら行きましょう。蒼一様も」

「あ、うん、それなんだが先に行っててくれ。俺はちょっと後から行くから」

「?……分かりました」


こんな場所で一体何をと疑問に思ったブリ雄だったが、濁した言い方をする蒼一を見て何か言い辛い事なのだろうとそれ以上追及はせず、ブリ雄は蒼一と一緒が良いと駄々を捏ねるクレアを押して倉庫を後にする。

騒ぐクレアとムーの声が遠くなっていくのを聞きながら、蒼一は薄暗い倉庫の中で一人静かに佇む。

やがてそんな騒ぐ声も聞こえなくなってきた頃、蒼一はゆっくりと口を開いた。


「神様、見てるんだろう?。出て来てくれないか」


何もない空間に向けて蒼一がそう言葉を投げてから暫く、暗がりの中から滲み出すように管理神がその姿を現す。


「一体何用だ」

「御礼を言いたかったんだ」

「礼だと?」


何のことだと首を傾げる管理神に蒼一は感謝の言葉を告げる。


「翻訳の御礼だよ。あれ、神様がやってくれたんだろ?」

「……何のことだ?そんなもの私は知らん。創造神の奴が勝手にやったのだろう」

「いや、その誤魔化し方は無理があると思うんだが」


言語に関しての問題は創造神が帰った後に気付いた事で創造神にはそんな事一言も喋っていないのだから流石に無理があるだろうと、そう指摘された管理神は頬を赤らめてそっぽを向く。


「知らん知らん!私が堕し児相手にそこまでしてやる義理なぞ無い!」

「そうかい、なら俺の勘違いでも良いから勝手に御礼だけはさせてくれ。神様、ありがとう」

「……ふん、お前は感謝を強引に押し付けるからな。好きにしろ」


以前にも蒼一が感謝を告げる事を譲らなかった事について言っているのだろう。

蒼一の感謝の言葉を受け入れた管理神に対し、蒼一は更に言葉を続ける。


「それと感謝の言葉だけじゃ足りないと思ってさ。押しつけがましいだろうけど、神様の名前を考えて来たんだ」

「名前、だと?」


名前を考えて来たという蒼一の言葉に管理神んは今まで以上に表情を強張らせる。


「い、いらん!お前が考えて来た名前なぞ絶対にいらんぞ!」

「そこまで露骨に嫌がらなくても……一先ず案を出してくから聞くだけ聞いてくれよ。採用するかどうかはそっちで決めてくれれば良いからさ」


そう言いながら蒼一は懐から羊皮紙を取り出すと、そこに書かれた名前を読み上げていく。


「一つ目は"ユーリア"だな。この世界に存在する花の名前だ」

「……お前にしては随分とマシな名前が出てきたな」


一体どんな名前が飛び出してくるのかと身構えていた管理神は蒼一の口から出たその名前の普通さに思わず確認するように尋ねる。


「神様からセンスが壊滅的とまで言われたからな。昨日ブリ雄と図書館に行った時に色々と調べたんだよ」

「昨日……まさかお前、私の名前を考える為に?」


昨日、武器屋で武器を購入した後に図書館に向かう事を提案しのはブリ雄ではなく、実は蒼一だった。

蒼一にしては珍しい提案をするとブリ雄も驚いたが、実際に知識が穴空き状態であるブリ雄は名案だと得に理由も聞かずその提案に乗り、蒼一はブリ雄が知識の穴埋めをしている間、植物図鑑だったり童話だったりと色々なところから名前として使えそうなものは無いかと探していたのだ。


「ちなみに、そのユーリアという名前はどうして選んだのだ?単純に人名のようだったから選んだのか?」

「まぁ響きが人の名前っぽいから目に留まったってのは確かにあるんだけどな。でもこれを選出したのにはちゃんと理由があるんだ。この花だけど灰色の花弁に紫色の雌蕊(めしべ)と、何か神様と似てるところが無いか?」

「……私の髪色と虹彩か」

「そういう事」


蒼一がユーリアという花を管理神の名前の候補として選んだ理由、それは管理神のライトグレーの髪と紫紺の瞳を連想させたからだ。


「図鑑で見た時に"綺麗で神様にピッタリな花だなー"って思ってさ」

「なッ――!?」


蒼一の口から飛び出た言葉に管理神は頬どころか顔全体を真っ赤にするも、暗がりでそれが見えていない蒼一はその事に気付かないまま言葉を続ける。


「花言葉の意味も"厳格"や"権威"とか神様らしいものもあれば"素直になれない想い"とか、それっぽいのが揃っててさ。個人的にはイチオシだな。まぁ他にも考えて来たから取り合えず次に――」

「いい!いい!もうそれで良いから止めよ!」

「え?でも色々と考えて来たんだぜ?神様が気に入る名前もあるかも知れないし」

「私がそれで良いと言っているのだから、良いではないか!。これ以上私を変な気持ちにさせるな!」


本人は至って真面目に考えたのであろうが、管理神からしてみれば蒼一がガッツリと考えて来た名前は管理神が聞いていて思わず恥ずかしくなってしまうようなものであり、自分の内面を赤裸々に語られているようでこれ以上の羞恥に耐えられそうにないと強引に命名を中断させる。


「まぁ神様がそれで良いって言うなら、別に良いけどさ」

「あぁ……全く、これだから堕し児は」

「堕し児関係あるのかこれ?ところで神様」

「…………」

「神様?」

「…………ユーリア」

「ん?」


突然黙り込んだ管理神を蒼一が訝し気に呼んだその時、管理神が不貞腐れるようにボソリと呟く。


「お前がユーリアと名付けたのだろう。だから神様ではなく、ユーリアと呼べ」

「あー俺としてはただ感謝の気持ちとして神様が気に入ってくれそうな名前を送りたかったってだけで、俺にとっては神様は神様だから」

「……ユーリアって、名付けたのに」

「うっ」


暗がりの所為で表情は良く見えないが、声のトーンから管理神が落ち込んでいるのが蒼一にも理解出来た。

一生懸命考えていた時は単純に感謝の気持ちを伝えたいという一心だったのだが、実際にあれだけ真面目に色々な想いを込めて考えた名前を自分が呼ぶとなると何だか気恥ずかしいと蒼一は感じてしまう。


(あれ?そういや俺の人生の中で女性を下の名前で呼ぶのって何気に初じゃないか?)


そう考えた途端余計にユーリアと呼ぶのが恥ずかしくなってきたが、それでも管理神がそう呼ばれる事を望んでいるのならばと、蒼一は意を決してその名前を口にする。


「ユーリア」

「……うむ、なんだ蒼一」

「おまッ、なんで急に名前で呼ぶんだよ!?」

「お前が私を名前で呼ぶのだから、私が呼んだって構わないだろう!。第一私だけが恥ずかしい思いをするのは気に食わん!!」

「そんな理由で!?」


そんな風に騒がしく喧嘩する蒼一とユーリア、恥ずかしさを紛らわせるように大声で言い争う二人を見守る影が一つ、暗がりの中から二人を見つめていた。


(遅いから様子を見に戻って来てみれば、どうやら取り込み中のようですね)


その正体はブリ雄であり、何時まで経っても出てこない蒼一の様子を見に来たのだが、痴話喧嘩を繰り広げる二人を見て空気の読める男であるブリ雄はすっとその場を離れ、二人の間に邪魔が入らないよう二人が出て来るまでの間、倉庫の入り口で見張り番をしているのであった。

ちなみにですが蒼一は残金の全てをチーズに替えてしまったので今夜の宿代はないです。

なので何にせよ部屋の中で転移する案は不可能でした。

まぁ今夜は孤島で過ごす前提でしたのでお金があっても宿は取らなかったでしょうけど。

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