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鑑定士と顧客事情

分割し辛かったので今回は長めです。

夕方、ニーヴァのエントランスホールは依頼から戻って来た人間で溢れ返り、人間が列を成すカウンターの先で受付嬢が忙しなく手を動かしていた。


「はい、依頼の達成を確認しましたのでこれを持って倉庫の方にお願いします」

「あいよ。ところでトリシャちゃん、今晩夕食でも」

「倉庫の方にお・ね・が・い・し・ま・す・!」

「……はい」


この糞忙しい時に無駄話になんて付き合ってられるかと苛立ち混じりに拒絶された男は肩を落として列を外れる。

顔も知りと思われる人間の何人かが列の中から手を伸ばし男の肩を叩いて元気付けていたが、こんな光景はニーヴァを含め他の場所でも良く目撃する日常的な光景であり誰も気に留める者は居ない。


「はい、次の人――って」


流れ作業的に人を捌いていたトリシャだったが、今目の前に立っている人間を見て露骨に顔色を変える。

それは昨日、高価な測定器を二台破壊しその場に居合わせたニーヴァの職員の過半数を仕事が手に付かない状態へと追いやった張本人、ブリ雄であった。


「どうも」

「昨日の今日で良く顔を出せたわね……」


一応、当事者であったトリシャも事情は把握しており、ブリ雄に悪意が無かったという事は勿論理解している。

それなのに言葉に険呑な物が混じってしまったのはこの何時にも増した忙しさが原因であった。

昨日ブリ雄が引き起こした騒動、解放された莫大な魔力に曝露した者の大半は未だに職務に復帰出来ない状態であり、現在のニーヴァは圧倒的な人手不足に陥っていた。

もっともブリ雄に近い位置で魔力に曝露したトリシャだったが、事前にブリ雄が"何かしようとしている"事は察していた為、心構えが出来ていただけにそのショックは他者と比較すれば軽く、幸いにも翌日には職務復帰可能なレベルまで回復したのだが、今の忙殺された様子を見ると"幸い"ではなく"不幸"にもと言った方が正しいのかもしれない。


「その、随分と苛立っていますね」

「そりゃあね。普段からただでさえ忙しいってのに、誰かさんの所為でそれに拍車が掛かってるんだから。それで私のところに並んでるって事は依頼関連よね?そうでなかったら殺すわよ」


忙しさのあまり人格が変わってきているトリシャの様子に頬を引き攣らせながらも、ブリ雄はさてどうしたものかと頭を悩ませる。

トレントの買い取りは何処の窓口に行けば良いのか、ニーヴァに所属して日も浅くそれを知らないブリ雄がトリシャの窓口に並んだのは単純に顔見知りであったからという理由であり、"良く分からないから取り合えずここに並びました"なんて口走ろうものなら躊躇なく行動に出るであろう事は今のトリシャの様子からも容易に想像が出来た。


(とはいえこのまま黙っていても間違いなく()られるでしょうし、ここは買い取り依頼(・・)という体でいきましょうか)


ニーヴァに所属した今、依頼なんて形でなくとも素材の査定をして貰えるのは知っていたが、この場を穏便に切り抜ける為に敢えてそれを知らぬ振りをしてブリ雄はトリシャに向かって口を開く。


「前回のように買い取りを依頼したいのですが」

「あ゛?――ッチ、誰も説明しなかったのかしら……いい?ニーヴァ(ウチ)は身内からは仲介料は取らないわ。依頼された納品物とは関係無い素材の持ち込みなら三つ隣の窓口よ」

「あぁ、そうだったのですか。お手数をおかけしてすみませんでした」


親指でクイッと向こうだとジェスチャーするトリシャに、ブリ雄は初めて知ったというような顔をしつつ、トリシャが癇癪を起す前に速やかにその場を離れ教えられた窓口へと一人向かう。

依頼の窓口よりは人の列は少ないが、そっちの方もそれなりに込んでおり最後尾に並んでから十分程でブリ雄の番が回って来た。


「お次の方どうぞ」

「あの、モンスターの素材を買い取って欲しいのですが」

「それは全ての素材を換金するという事で宜しいですか?。一部を貢献度とする事も可能ですが」

「あー……それの貢献度への交換ってこの場に居ない人にも加算する事って出来ますか?。私ともう一人で集めた素材になるのですが」

「残念ながら、素材の提供時にカードを提示して頂かなければ貢献度の付与は不可能となっておりますので」

「そうですか、それでは今回は全てを換金でお願いします」

「畏まりました。では身分証明としてカードの提示をお願いします」


貢献度を付与する訳では無いが、ニーヴァの所属でも無い人間がニーヴァ所属と偽って仲介料抜きで換金して貰おうとするのを避ける為だろう。

求められた身分証明にブリ雄は素直に応じ、昨日発行されたばかりのカードを受付嬢に手渡す。

カードを受け取り何かの装置に羊皮紙を設置し、受け取ったカードを装置に差し込む事数秒、受付嬢はカードと羊皮紙をブリ雄に手渡す。


「こちらを倉庫に居る職員に素材と一緒にお渡し下さい」


羊皮紙には今回の買い取りに関する条文と下の方にブリ雄の名前と等級が記載されていた。


(プリンターのような物ですかね)


蒼一の知識から類似品を思い浮かべつつ、受付嬢に一言礼を行ってからブリ雄は倉庫に移動する。

倉庫にやって来るとブリ雄と同じく素材を換金しようとしてる者、依頼された物を納入する者、それを対応する職員らが忙しなく動き回っていた。


(さて、これを誰に渡せば良いのでしょうか)


取り合えず適当に近くに居る職員に声を掛けようとしたその時だ、ブリ雄の存在に気が付き一人の職員が声を掛けて来る。


「お?お前は確か……ブリ雄だったな」

「あぁ、サンジスさん」


ブリ雄に声を掛けたのは長年ニーヴァに所属しているルドルフから"おやっさん"と呼ばれるベテランの職員、以前に蒼一とブリ雄の二人が持ち込んだ素材を査定したサンジスであった。


「今日はどうした、依頼物の納品か?」

「いえ、依頼とは関係無しにモンスターを狩って来たのでその換金を」

「おいおい、新兵が依頼も受けずにモンスター狩りに出たのか?それは何とも酔狂な――いや、お前らの実力ならそっちの方が稼げるのか」


普通新兵と呼ばれる者達は今まで碌に戦闘経験も積んだ事が無いような者が大半であり、最初はまずモンスターが現れない、或いは現れたとしても数も少なく弱いモンスターばかりの地域を中心として依頼を受ける。

その為狩れるモンスターの素材の価値は高が知れており、それ故に新兵の主な収入源は依頼の達成報酬になるのだからそれを受けずにモンスターを狩るブリ雄達の事をサンジスが酔狂と言うのも分からない話では無かった。


「そういや、もう一人の姿が見えないがどうしたんだ?まさか――」

「蒼一様なら別行動ですよ。素材の換金に二人で来る意味も無いでしょう」


サンジスの言動に若干眉を顰めながらブリ雄は即座にその考えを否定する。

現状、蒼一は本人の意思は兎も角人前で実力を晒すような真似はしていない。

その為蒼一の実力に関しては懐疑的な者も多く、ブリ雄の力に甘えているだけではないかという厳しい意見を持つ者も少なからず存在しており、その事に対しブリ雄は不快感を抱いていた。


「おぉ、そうか。それは何よりだ。それで今日は何を持ってきたんだ?」


不愉快そうな顔をするブリ雄の顔を見て地雷を踏んだ事を理解したのだろう、サンジスは直ぐに話題を変えて、ブリ雄も何時までも顔を顰めている訳にはいかないと感情を押し殺してサンジスとの会話に集中する。


「今日はトレントを二十三体、それとエルダートレントを四体持ってきました」

「……は?お前今なんつった?」

「ですから、トレントを二十三体とエルダートレントを四体です」


ブリ雄の口から飛び出したその内容が信じられないのか、思わず聞き返したサンジスにブリ雄はもう一度同じ内容を復唱すると、サンジスは目頭を押さえながら険しい顔で口を開く。


「擬態するモンスターを一体どうやってそれだけの数を……というより、お前ら一体何処まで狩りに行ったんだ?トレント、しかもエルダートレントなんて近場に出没するモンスターじゃねぇぞ」

「テンチェント森です」

「テンチェント!?いや確かにエルダートレントの出没地域としてはここから一番近いのは間違いないが、それでも徒歩なら一日以上は掛かる距離だぞ。お前らが金を受け取ったのが昨日の昼過ぎだから、その後直ぐに向かったとして、あー……往復の時間を考えただけでも今日までに帰ってくるにはかなりの無茶が必要だと思うんだが」


どうやって移動したんだと疑問を浮かべるサンジスにブリ雄は一つ訂正を加える。


「向かったのは昨日ではなく今朝ですよ」

「は?今朝?いやいやいや、それこそ余計に有り得ねぇだろ。無茶を通り越して不可能の領域になっちまうぞ」

「別に不可能な事など何も無いですよ。魔術を使って休憩無しなら一時間程度で移動できる距離ですから」

「休憩無しで一時間って、お前……」


ブリ雄が一体どうやって移動したのかを理解したのか、サンジスの両目が驚愕に見開かれた。

サンジスがそう驚くのも無理はない。

魔術を使用し移動するという手段はいくつか存在し、そのどれもが人の身だけでは実現不可能な程の速度を得る事が可能になる。

ブリ雄がやっているように魔術で空を飛ぶ方法や魔術で肉体を強化して走る方法、それらを用いれば確かにスルクから目的地まで一時間程度で到着するだけの速度を出す事は誰にでもというのは語弊があるが、少なくとも可能な人間は大勢いるだろう。

しかしそこに一時間ぶっ通しでという条件が付くと話は変わる。


「体力も魔力も休憩無しで良く持ったな。普通なら五分と持たずに息切れを起こすだろうに」


そう、空を飛ぶにせよ身体を強化して走るにせよ、問題となるのは持久力であった。

空を飛ぶ場合は純粋な魔力だけの消耗になるがその分魔力の消耗が激しく、身体を強化して走る場合は空を飛ぶより魔力の消費は抑えられるものの、それだけの速度を出そうとするなら全力で地を蹴らなければならないので代わりに肉体的な消耗が大きくなる。

その他の方法も似たり寄ったりであり、どれもこれも消耗が激しいという問題を抱えていた。


「体力に関しては私の方は空を飛んでいたので問題は有りませんでしたね。蒼一様の方は普通に(・・・)走っておられましたが疲れた様子はありませんでしたよ」

ブリ雄(おまえ)が魔力お化けなのは知ってたが、蒼一(あっち)は体力お化けかよ」


この時ブリ雄は"魔術も無しに普通に(・・・)走っていた"というニュアンスで言葉を発したのだが、サンジスはそれに気付かず"魔術を使用して普通に(・・・)走った"と認識の違いからそう誤解したのだが、ブリ雄はそれを気付いていながらも訂正する事はせず、別の補足をする。


「まぁそれくらい出来なければ狂気の森を抜ける事は出来ませんよ」

「そっか、そうだよな、お前達はあの狂気の森を抜けて来た奴だもんなぁ」


ブリ雄のその補足に妙な説得力を感じたのか、サンジスはそう納得する素振りを見せると話を次に進めた。


「とりあえず現物を見せてくれ。こうして話てても何も進められないからな」

「それもそうですね」


という訳で二人は今回の物量に考えて前回バハムートの牙を見せた倉庫の開けた空間へと移動し、ブリ雄は早速今回の成果を異空間より大雑把に解体された二十三体のトレントを取り出した。


「まずはトレント二十三体ですね」

「コイツはまた……豪い光景だな。俺の人生の中でこれだけの数のトレントの素材が並んでいるのは見た事がねぇぞ」


そんな感想を漏らしつつも、サンジスはしっかり仕事を熟しトレントを査定していく。


「ふむ、どれも状態が良いな。心材に関しちゃ中々お目に掛かれないくらい状態が良いし色を付けても良いかもしれん」

「それは有りがたいですね」

「ところで核はどうした?」

「核は私達の方で確保しています。蒼一様が銃を扱いになられるのでその弾丸用に」

「トレントの核を弾にか、そりゃ豪勢だな。でもトレントの核は色々と有用だ。全部とは言わんが三つばかしこっちに流してくれねぇか?勿論色は付ける」


色を付けるというサンジスの言葉にブリ雄は少々悩んだ後、トレントの弾丸は心弾含めて一応数は確保出来ているし三つ程度なら問題は無いかと了承し異空間から核を取り出してサンジスに渡す。


「有りがてぇ、こうして珍しいモンスターの素材が入ってくるとどうしても"核の方は無いのか"とか特定の素材に関して問い合わせしてくれる連中が居るもんだからよ。トレントに関しては最低でも三つは確保しておきたかったんだ」

「顧客との関係を維持するのも一苦労ですからね。その気持ちはお察しします」

「おぉ、分かってくれるか」


まるで自分も似たような経験があるというように語るブリ雄だが、ゴブリンモドキであるブリ雄にそんな経験がある訳もなく、それらは全て蒼一の生前の経験を知識として習得しているからこそ出た言葉であった。

そんな事は知らないサンジスは共感を示したブリ雄に感激した様子で手を握る。


「それで次はエルダートレントを出したいのですが」

「ん?あぁそうだな、むしろそっちの方が重要だったな」


まだ査定するべき対象が残っている事を思い出したサンジスがブリ雄の手を放し、ブリ雄は異空間を再び開いてトレントから少し離れた位置に四体分のエルダートレントの素材を出す。


「おぉ、これは間違いなくエルダートレントの素材だ」

「見ただけで分かるのですか?一見すればただの木ですのに」

「当たり前だ。俺が何十年これで飯食ってると思ってるんだ。第一、エルダートレントと普通の材木の違いも分からないようじゃソイツは鑑定士として失格だ」

「そういう物ですか」


鑑定士ではないブリ雄からすればただの木にしか見えないのだが、見る人が見れば分かる違いがあるのだろう。

トレントの時以上に真剣な様子でサンジスはエルダートレントの素材を鑑定し、二十三体を査定した時の倍近い時間をかけて四体のエルダートレントの査定を終える。


「いやいやマジですげぇな。ここまで傷の少ないのは初めてお目に掛かったぜ。ところで核の方は……」

「そっちも私達の方で確保してますよ」

「だよな、それ幾つまでならこっちに譲って貰える?」

「今回は数を指定しないのですね」

「これに関しちゃ可能なら全部欲しいってのが正直な話だからな。四体分のエルダートレントの素材が出回ったなら勿論核だって四体分ある筈、なのに核は無いので売れませんなんて言った日には……あぁ、胃が痛くなってきた」


顧客からの苦情を対応する未来を想像したのだろう、サンジスが腹を抑えて死にそうな表情を浮かべる。


「兎も角、こっちとしては可能な限り核を確保したい訳なんだがお前らだって使う予定がある以上、全部は譲れないだろう?」

「そうですね、一つは心材と一緒に私の杖の素材とする予定ですし、残りも何だかんだと使う予定がありますからね」


ここで"残りは蒼一のリボルバー用の弾丸にする"と言わなかったのは、そんな事をサンジスに告げればまず間違いなく"弾丸にするなんて勿体ない!そんな事するなら残り三つはこっちに流してくれ!"と懇願される未来が目に見えていたからだ。


「エルダートレントの素材で杖、か。そりゃかなりの逸品が出来そうだな。残りも似たような感じか?」

「まぁ、そうですね。でもそういう話でしたら二つまでなら換金しましょう」

「本当か!?いやぁマジで助かるぜ!」

「その代わり値段に関しては」

「分かってる!支部長に掛け合って奮発してやるから期待しとけ!」


本来の四つに対しその半分しか手に入らなかった形にはなるが、仮に一つでも現物があれば競売にかける事が出来るし、顧客全員に購入の機会を与えた上で仮に買えなかったとしてもそれは競りに負けたのだから仕方ないと納得させる事も出来る。

ただしそれは一つでも現物があればの話であり、そう考えれば二つも手に入れる事が出来たのはサンジスにとっては僥倖であった。


ホクホク顔でエルダートレントの核を受け取ったサンジスだったが、スッと急に真顔になりもう一つの素材について言及してくる。


「ところでエルダートレントの根は」

「譲れません」


予めその言葉を予想していたのだろう。

サンジスの言葉に被せるように、食い気味にブリ雄がそう告げると、サンジスは両膝を地面について頭を垂れ、土下座に近い姿勢でブリ雄に懇願する。


「そこを何とか頼む!エルダートレントの根は核以上に求める奴らが多いんだ!」

「そう言われましても、根に関しては私も蒼一様も少しでも多く確保しておきたいのですよ」

「その気持ちは味を知ってる俺としてもよぉぉぉく分かる!だからこそ考えても見てくれ!その味を知ってる連中がどれだけ必死になってそれを求めて来るか!そんな顧客に対してエルダートレントの根は無いと答えなきゃいけない俺達の気持ちを!」


大の大人がブリ雄のローブの裾を掴んで懇願するその姿は非常に目を引くものであり、倉庫の隅であったにも関わらず非常に多くの人間の注目を集めてしまっていた。


「おいあれって、サンジスさん!?」

「何があったんだよあれは……ん?あそこに並んでるのって、まさかエルダトレントの素材か!?」

「あのおやっさんに跪かせるとか、何者だよアイツは」

「おい知らねぇのか?昨日の騒動はアイツが――」


(厄介な事になってきましたね……)


この場に蒼一が居たならば物損を伴わず注目を集めるだけのテンプレ展開にキタコレと喜んでいたかも知れないが、残念ながらブリ雄にはこの状況を喜べる感性はない。

この状況を迅速に治めるにはサンジスの要求に応えるしかないのだが、孤島で待つ同胞達への分がある以上、譲るとしても余剰分として狩った一体が限界であり、それも可能ならば確保しておきたいというのがブリ雄の考えであった。


「頼む!この通りだッ!それにお前らがどれだけ食うかは知らんが、それだけの量をたった二人でなんて食い尽くす前に腐らせるのが関の山だろう?」

「腐らせる?それは――」


それはどういう意味だと言い掛けて、ブリ雄は口を手で抑え考え込む。

物品を異空間に収納すればこちらの空間と異空間との異なる時間の流れによって異空間内に収納した物は再び取り出すまで劣化する事は無い、それが常識だとブリ雄は考えていた。

しかしその認識はあくまでも蒼一の知識から得たものであり、実際にブリ雄が使用している異空間はそういうものだし、だからこそブリ雄は"異空間とはそういう物である"と思い込んでいたのだ。

だがその認識が誤っていた事をサンジスの言葉からブリ雄は直ぐ様理解する。


(なるほど、こちらの常識では異空間とはただこちらとは異なる空間というだけで時間の流れは変わらないのですね。となると私が使っている異空間との違いは一体何でしょうか?。もしや接続している空間、いえ次元が異なっているのやもしれませんね)


自分の異空間とこの大陸で扱われる異空間の相違はそれが存在する次元にあるのではないかと見当を付けたブリ雄はそれを加味した上でどうこの状況を治めるかを改めて考える。


(異空間に収納しているので腐敗の心配はいりません、というのは使えませんね。そうなるとサンジスさんの言葉に反論する方法は……無い訳では無いですが、困りましたね)


腐らせるのが駄目だというなら例えば塩漬けにするだとか加工してしまえばそれで済む話ではあるのだが、正直ブリ雄としてもそこまで嘘をついてまで頑なに拒む必要があるのかと疑問を抱き始めていた。

確かにエルダートレントの根を手放すのは非常に惜しいが、言ってしまえば所詮は食物であり食べる以外の利用法は無い。

それに一応一体分は余剰が存在するのだから、それを譲ってしまっても最低限三匹分さえ確保していれば蒼一も残念には思うだろうが納得はしてくれる筈だ。

そして何よりも正直ブリ雄もこの状況に少しウンザリして来ていたのもあり、ブリ雄はエルダートレントの根を一体分だけ流す事を決める。


(しかしお金はあって困る事はありませんが、既に納めている分だけでも使い切れるか怪しいのですよね。これ以上貰っても腐らせるだけですし……あぁ、そうだ)


必要以上に貰ったところで使えない金銭を溜め込むのはこの国の経済にとってよろしくないと判断したブリ雄の中にちょっとした悪戯心が芽生え、ブリ雄は口角を吊り上げてにこやかな笑顔でサンジスに告げる。


「分かりました。それでは一体分はそちらに流しましょう」

「本当か!?」

「えぇ、昨日私が起こした騒動のせいでニーヴァも忙しいそうですし、迷惑料という事で一体分だけですがそちらにタダでお譲りします」

「タダって、マジか!?」

「えぇ、正直言って今回換金して貰う分だけでも一体何時になったら使い切れるか怪しいくらいですからね」

「それは……まぁ確かに。でも本当に良いのか?」


倉庫に並べられた素材達を見て、サンジスはブリ雄の言葉に同意してから確認するように尋ね、ブリ雄は肯定するように首を縦に振った。


「構いませんよ。言ったでしょう、"迷惑料だと"なのでエルダートレントの根はタダでお譲りしますので、素材として売り払う(・・・・)なり、職員の皆さんで分けて頂く(・・・・・)なりご自由にしてください」

「ちょ……お前ッ!?」


その時になってサンジスもようやくブリ雄の考えに気が付いたのだろう。

これがもしギルドの資金で取引されたものであるなればそれはギルドの資産という事になるが、今回ブリ雄は昨日の騒動の迷惑料としてその迷惑を被った職員に(・・・)譲るという形を取った。

仮にこのエルダートレントの根を競売に出せば顧客達の鬱憤をある程度は晴らされるだろうが、逆にエルダートレントの根を分け前として貰えなかった職員達の不満は溜まるだろう。

つまりブリ雄は注目を集めた事に対するちょっとした仕返しとしてエルダートレントをタダで譲る代わりにその選択肢をサンジスに押し付けたのだ。


「それでは私はこれで、蒼一様を何時までも待たせる訳にはいかないので」

「いやちょっと待て!買う!エルダートレントの根は買うから!おい!待てって、おぉぉぉぉい!!」


背後から聞こえるサンジスの叫びをスルーして、ブリ雄はにこやかな笑みを浮かべたままニーヴァを後にするのだった。

以前にも本編で軽く触れた事はありますが、知性を得てからは知的で冷静なキャラのブリ雄ですが、昔のやんちゃだった頃のブリ雄も実は表に出さないだけで健在だったりします。


まーたルドルフがルドフルになってた。

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