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冷蔵室で一週間放置された牛肉

ふと過ったサブタイがこれ。

予想外の事態ではあったものの、無事エルダートレントを討伐した二人は早速エルダートレントの解体に取り掛かった。

真っ先に根元の解体が行われ、地中に埋まっている根を掘り返しエルダートレントの亡骸を完全に地中から引っ張り出す。


「あー、前のめりに倒れた時点で予想はしてたが、根本が何本かイってるな」

「それは仕方ないでしょう。まぁ根は折れたところで素材もとい食材として食べられなくなるという訳でもないので」

「それもそうか。にしても」


そんな会話を交わしつつ、蒼一は横たわったエルダートレントの巨体を見て関心したように言葉を漏らす。


「一回り大きいとは知覚してたが、情報として知覚するのと自分の目で見るのとじゃ、全然受け取る印象が違うな」

「私は蒼一様のような知覚は有していないので分かりませんが、知覚と視覚でそんなに違う物なのですか?」

「全然違うぞ。言うなればバターとマーガリンくらいは違う」

「それは……どう判断すれば良いのでしょうか」


乳脂と油脂の違いで考えれば確かにかなり違うのだろうが、部分的には似通ってる部分も結構あるので何とも微妙な例えである。

そんな他愛もない話をしている間にブリ雄はエルダートレントの根を一本切除すると、樹皮と肉との間にナイフを入れ、てこの原理で樹皮を引っぺがしていく。


「普通のトレントと比べると樹皮が大分ボロボロだな。なんつーか、歳を重ねた人間の皮膚みたいな、長老(エルダー)っていうのも頷ける」

「この樹皮も素材として使えるんですよ。弾力があってコルクに最適なんです」

「エルダートレントのコルクって、無駄に高そうだな」

「実際高いそうですよ。エルダートレントの樹皮から作られたコルクは非常に香り高く人気なのだとか……はい、剥けましたよ」

「お、どれど、れ……」


待ちに待ったエルダートレントの生ハムとのご対面に蒼一がニンマリとした笑みを浮かべながら手渡されたそれを見た瞬間、その笑みが凍り付く。

最初に見たトレントの生ハムはほんのりと色付いた綺麗なピンクだったのに対し、今蒼一の手の中にあるのはお世辞にも綺麗とは言い難い黒ずんだ物であり、その食欲が減退するような色合いに蒼一の動きが止まる。


「あの、ブリ雄、これ本当に大丈夫な奴?なんかスーパーで買った事を忘れて冷蔵室で一週間放置された牛肉みたいな色合いしてるんだけど」

「なんでよりにもよってそんな例えを……色はアレですが大変美味だという話ですよ」

「そうは見えんのだが……あれ、でも確かに良い匂いがするな」


鼻孔を擽る芳しい香りに蒼一はスンスンと鼻を鳴らした後、恐る恐る黒ずんだ肉塊へと口を付けた。


「――え?」


零れ出たのは味の感想ではなく呆けたような呟き、嚙み千切り確かに口の中へとその肉を納めた筈なのに気が付けば口の中の肉は無くなっており、残っているのは森の香りと濃密で熟成された肉の味だけだった。

その事に驚きつつ次はしっかり味わおうと無言のままもう一口齧りついた蒼一だったが、結果は何も変わらず口の中に入れた途端に噛むのも忘れて飲み込んでしまう。

結局蒼一は一言も喋らないままに肉を喰い続け、ものの数分で肉塊を全て腹に納めてしまった。


「なんだこれ……意味が分からん」


口から零れ出たのは食べ物の感想とは思えない言葉だったが、しかし本当にそうとしか言えない、言い様が無い程にその味は筆舌に尽くし難く、その味に思わず笑ってしまうくらいには美味だったのだ。


「本当に、美味いとは知っていましたがまさかこれ程とは……」


二人して今し方食べた肉の美味さに呆けていると、どちらともなく残ったエルダートレントの根へと視線を向ける。

二人分と考えるとかなりの量の根が残ってはいるが、孤島で留守にしている面々へのお土産をと考えると圧倒的に足りていない。

全員が満足するだけの量を得るにはあと二体は狩る必要が出て来るだろう。


「選択肢としては追加でエルダートレントを捜索するか、同胞達への土産は通常のトレントだけにしておくかの二択ですね」

「皆食欲旺盛だからなぁ、後二体は追加で狩らないと量が足りないだろうな。とはいえ一体見つけるのにも苦労したのに今から追加で二体と考えると」

「相当運が良くない限り、日が暮れる事になるでしょうね」

「……その案で行くか?。最悪街に戻らなくても島に転移で戻って今夜はそっちで過ごせば良いだろうし」

「最悪それでも構いませんが、可能なら今日狩ったモンスターは今日の内にニーヴァに買い取りして貰いたいのですよね。量が量ですから間違いなく翌日の受け取りになると思いますので」

「あー、確かに懐が心許ない今じゃ明日にでも貰えないと色々と厳しいか」

「まぁ無理を言えば前回のように何割かは当日に払って貰う事も出来なくは無いでしょうが、こちらの事情で無闇矢鱈とあちらの事務仕事を増やすのも忍びないですからね」


更に言えば早い時間帯に依頼を出した前回と違い、今回は遠出しておりスルクまで戻る時間を考えると夕方の一番の忙しい時間帯にどうしても被ってしまう。

そんな時間帯に数十体のトレントを査定して貰おうと言うのだから、それが仕事とはいえニーヴァの職員からしたらそっちは後回しにしたいと考えるのが当然だ。

そこに無理言ってまで査定しろとは蒼一達も言えないし、そこまで急いでる訳でも無いので今日持ち込んで明日に受け取れれば問題はない。


「となると、タイムリミットはニーヴァの営業が終わるまでだな」

「街に戻るまでの時間がある事を忘れないようにしてくださいね。それとギリギリに持ち込むのも迷惑になるので粘るのは程々でお願いします」

「分かってるよ。まぁ最悪空飛んでいけば時間は短縮――」


そう言い掛けて、何かに気が付いたのか不意に蒼一は言葉を切り低く押し殺したような声でブリ雄に声を掛ける。


「なぁ、ブリ雄」

「えぇ、私も今気が付きました」


それ以上語る事も顔を見合わせる事もなく互いの思考を共有した蒼一とブリ雄、どうして今更になって気が付いたのか、もっと早くに気が付いていればと止め処なく溢れ出る悔恨の情を抑える事は出来ず、嗚呼――


「「――空飛んで探せば良かった」」


シリアスな雰囲気を一瞬で霧散させ、二人は遠い目をして天を仰ぐ。

今更ながらに気が付いたその方法に二人は暫しそのまま直立不動で立ち尽くした後、無言のままエルダートレントの亡骸を解体し、上空からエルダートレントを捜索するのだった。

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