大地は誰の物?
エルダートレントを探し求め、森を彷徨う事一時間半、年老いたトレントを狩りつつその基準値を上げながら探索を続けていた蒼一の知覚に今まで狩って来たトレントとは比べようのない樹齢を重ねた存在の情報が引っ掛かる。
「ん?コイツは……」
「見つかりましたか?」
「凄い年老いた何かが居るんだが、これはトレントなのか?」
「樹齢以外の情報にも何か違いがあるのですか?」
「地表に出てる部分の形状は他と大差無いんだが、その地表に出てる部分が枝の先って思えるくらい――いや実際に枝の先なのかもしれないが、兎に角それくらい馬鹿にデカい何かが地中に埋まってるんだ」
「それは……また何とも」
巨木と言っても差し支えの無いトレントの巨体を思い出し、それが枝に思える程に巨大な物が埋まっていると言われ、ブリ雄は言葉が見つからない。
「どうする?」
「どうすると言われましても、私に言える事は間違いなくそれは私達が探しているエルダートレントでは無いという事くらいです。蒼一様が戦うと仰るのならば私は何処までも御供致しましょう」
「…………触らぬ神に祟りなしか。コイツは見なかった事にしてエルダートレントを探そう」
「畏まりました」
そういう訳で正体不明の何かを見なかった事にして、蒼一とブリ雄は巨大な何かを避けるように回り込み移動していると、再び蒼一が不意に足を止める。
「蒼一様?」
足を止めた蒼一に釣られるようにブリ雄が足を止めて振り向くと、蒼一は意識を集中させるように目を瞑り、やがて静かに口を開く。
「……見つけた、多分コイツがエルダートレントだ」
「本当ですか?」
「あぁ、他のトレントと比べて一回り大きいし、具体的な年数は分からんが樹齢も三倍はいってるな。今までのトレントとは中身の情報がまるで違う。それと類似情報も多いがそこはきっと種族固有のものなんだろうな」
普通のトレントとまるで違うのにそのトレントに類似している。
言っている事は矛盾しているように聞こえるが、恐らくそれは世界としての感覚を有する蒼一だけが理解出来る感覚的な問題なのだろう。
その蒼一の感覚を信じ、二人は蒼一がその情報を知覚した方向へと足を進めるとやがて周囲の樹木と比べると立派な木が二人の視界に入ってくる。
「なるほど、確かに随分と立派ですね。あれならまだトレントの方が擬態能力に優れていると言わざるを得ませんが」
「流石のエルダートレントでも自分のサイズを変えたりは無理な話だったんだろうな」
折角発見したエルダートレントに逃げられないよう、二人は遠目かつ小声でそんなやり取りをしつつ、自然な素振りで距離を詰めていく。
「もう距離は十分じゃないのか?」
「いえ、エルダートレントが相手となるとあの程度の威力の魔術では即死させる事は難しいでしょう。可能な限り素材を傷つけないよう一撃で、確実に仕留めるにはまだ距離が遠いです」
大木に擬態したエルダートレントと二人の間にはまだ三十メートル程の距離が在り、二人はエルダートレントに悟られないよう出来るだけ視線を大木から外しつつ、真っ直ぐ大木を目指すのではなくその脇を通り過ぎるような足取りで近づき、その距離が十メートルまで接近した時だ。
歩行と共に前後に揺れていた杖を握るブリ雄の右手がその揺れに合わせて流れるように振り上げられ――
「ブリ雄ッ!」
「ッ!?」
ブリ雄が魔術を発動しようとした途端、突如として二人が立っていた地面がまるで水平型エスカレーターのように動き出し、直前に異変に気付いた蒼一は何とか踏ん張ったが不意を突かれたブリ雄は後ろに流れていく地面に足を取られ前のめりに身体が傾く。
そこへ周囲の木々の枝や地面からは根が槍のように飛び出し二人目掛けて殺到する。
「黒鉄――"セットアップ"!!」
枝や根が二人を貫くよりも早く、蒼一は黒鉄を展開しスラスターを噴かせ、ブリ雄を突き飛ばすようにしてその場から脱する事に成功した。
「ぐっ!?」
「大丈夫か!?」
「は、はい、大丈夫です。ありがとうございました」
突き飛ばされた事で身体を強かに打ち付けたブリ雄が痛みに顔を顰めながらも立ち上がり、正体を露にしたエルダートレントへと視線を向ける。
「まさか地面をこんな風に動かしてくるなんて、そもそも一体何時から気付かれていたのでしょうか」
「多分、俺らが小声でボソボソ言ってた時だろうな。今更気付いたがかなり広範囲の地中にアイツの根っこが広がってる。恐らく三十メートル付近からはもうアイツのテリトリーだったんだ」
「話を聞かれていたという事ですか……厄介ですね。可能な限り傷付けないよう倒したかったのですが」
「こうなったらもう無理だろ。取り合えずエルダーも通常のトレントと同じで本体の根本と胴体は可能な限り避けた方が良いのか?」
「はい、根は勿論、胴体の心材も可能な限り綺麗な状態で入手したいので」
「となると狙うのはあの腹立つ顔した頭部か」
蒼一の視線の先には擬態する事を止め、歪んだ口を引き裂けんばかりに開き、二人を嘲笑うエルダートレントの顔があった。
エルダートレントは二人を挑発するように頻りに枝や根を揺らし、二人の動きを伺っていた。
「攻撃してくる様子が無いという事は、恐らく私達が踏み込んだあの距離がエルダートレントの攻撃範囲という事でしょうか」
「正確には有効な攻撃範囲が、だろうけどな。やろうと思えば俺達が今立ってる地面の下にある細い根っこを地面から突き出させる事も出来るだろうが、細すぎて当たっても大したダメージにはならんだろう」
蒼一のその予想通り、距離を伸ばす毎に細くなるエルダートレントの枝や根の有効射程距離は凡そ十メートル、それ以上は枝や根っこを伸ばしても先細りで威力に欠け、またエルダートレントが大地を自由に動かせる範囲も自身を中心とした半径十メートルが限界だった。
「という事は遠距離からあの頭を吹き飛ばせればそれで済む訳だな」
そう言いながら蒼一はリボルバーに弾丸を一発込め、エルダートレントの顔に狙いを定めてトリガーを引く。
装填されたのはトレントの心弾で段丘で試射した時よりも発砲音も反動も大きく、かなりの威力を持った一発がエルダートレントの頭部目掛けて放たれたが、それが頭部に命中する前に伸びて来た枝に遮られてしまう。
「まぁ、トレントの核から作った弾丸でエルダートレントが倒させるとは思ってなかったけどさ」
それでも枝の一本くらいは折れても良かったんじゃないかとアッサリと防がれてしまった事に思わずそんな言葉を零す。
現状蒼一が持っている弾丸の中で一番威力のあるトレントの心弾が効かないとなるとリボルバーでの攻撃は効果的ではないと蒼一はリボルバーを懐にしまう。
「ブリ雄、俺が隙を作るから仕留めるのは任せて良いか?」
「構いませんが、一体どうやって隙を作る気ですか?」
ブリ雄がそう疑問を呈すると、蒼一は力こぶを見せつけるようなジェスチャーをしながら、ニヤリと笑みを浮かべてこう答える。
「俺が誰か忘れたのか?。俺はあの野郎が我が物顔で動かしてる大地なんだぜ」
そう言って蒼一はエルダートレントの方へとゆっくりと歩を進め、蠢く地面の手前で足を止めると右足を大きく上げ――
「――人様の身体使ってしたり顔なんかしてんじゃねぇぞ!!」
その怒声と共に蠢く地面を蒼一が踏み抜いた瞬間、流体のように動いていた地面がピタリと止まり、ニタニタとした笑みを浮かべていたエルダートレントの表情がその異常事態に強張りを見せ、それに畳みかけるように大地の主導権を奪い取った蒼一は世界としての力を発揮させる。
「地面の動かし方ってのはなぁ!こうやるんだよ!」
そう蒼一が叫んだ次の瞬間、エルダートレントを中心に地面が渦を巻くように動き、地中を張っていたエルダートレントの根はその挙動に巻き込まれ、捻じれ、根本から離れた細い根は一本残らず圧し折られた。
「ギャ゛――」
「これで終わりです」
根を全て圧し折られる痛みに耐えきれず、悲鳴を上げようとしたエルダートレントだったが、その悲鳴を上げる間もなくブリ雄の放った魔術がエルダートレントの頭部を切断し、頭部を失った胴体が大きな音を立てて地面に倒れ伏すのであった。
執筆してて予想以上にエルダートレントの下りが長くなってしまった。
可笑しいなぁ……当初の予定では前の話で発見から討伐、生ハム実食まで纏める予定だったのに、エルダートレントが思いの外粘られましたね。
まぁ素材として傷付けないようにとか気にしてなかったら蒼一がスラスター全開で真正面からタックルでもかませばそれで終わってましたが。




