エルダートレントの見分け方
美味い生ハム、もといエルダートレントを求めて森の奥を目指す蒼一とブリ雄の二人は木に擬態してやり過ごそうとしていたトレント二体を倒し、解体をしているところだった。
「よし、核が取れたぞ。ブリ雄、頼んだ」
「了解しました――と、言いたいところですが、そろそろ弾丸への加工は止めておきませんか?」
「ん?何でだ?」
「トレントの核から作られた弾丸ですが、通常弾の時点で既に二百発近くになりますよ。アサルトライフルならまだしも、リボルバーでこの弾数が直ぐに尽きるような事は無いでしょう」
「それは確かに……心弾の方は何発ある?」
「そっちは二十二発分ありますよ」
「出来れば心弾の方はもう少し欲しいな……」
蒼一が口にした心弾とはモンスターが持つ核の中心部から削り出された弾丸の事で、モンスターの核は通常その中心に近い程魔力の含有量が増えていく。
魔力が多いという事は即ち撃ち出される弾の威力が上がる訳で、トレントの通常弾では歯が立たない相手が現れた時の為にある程度は数が欲しいと蒼一は考えていたのだ。
そんな蒼一にブリ雄はある提案を投げ掛ける。
「威力の高い弾が欲しいという事でしたらエルダートレントの核で弾丸を作れば良いのでは?」
「え、良いのか?。エルダートレントの核って結構良い値段になるんじゃないのか?」
「確かに金銭的な価値は高いでしょうが、私達がこれまで狩って来たトレントの素材だけでも十分な価値があります。恐らく鍛冶師への依頼や食料に種の調達程度なら問題ないくらいの額は既に稼げているかと」
「マジか、そんな感覚全然無かったけど」
「蒼一様が発見し、私が倒す。そうやってほぼ作業的に淡々と狩ってるだけですからね。実感は確かに薄いやもしれません。それで私としてはエルダートレントの核は売るも加工するもどちらでも構わないのですが、如何いたしましょうか」
ブリ雄にそう尋ねられ蒼一は少しだけ悩む素振りを見せた後、最終的にはエルダートレントの核を加工するという話で纏まった。
しかしそれはあくまでもエルダートレントを狩れた時の話であって、今こんな事を話したところで捕らぬ狸の皮算用でしかなく、二人はトレントの解体を終えると直ぐにエルダートレントの捜索を再開する。
しかし見つかるのは普通のトレントばかりで、トレントの素材はもう十分集まったしスルーしようと言う話も二人の間で出たが、エルダートレントの情報を知覚した事のない蒼一ではトレントとの見分けが付けられなかった。
当たり前だが生き物には個体差というものが有り、蒼一の知覚はその個体差の情報も拾い上げてしまう。
トレントとエルダートレントが別種族ならそう悩む必要は無かっただろうが、エルダートレントは通常のトレントが長い年月を経て老成した存在であり、ザックリ言ってしまえばそれもただの個体差でしかない以上、蒼一にはトレントらしき反応をスルーするという選択肢は選べなかった。
「せめて"樹齢"って情報が分かればなぁ……そもそもそんな情報が存在するのか不明だけど――」
そこまで言いかけた蒼一はふと足を止め、隣を歩くブリ雄に声を掛ける。
「なぁブリ雄、今まで狩って来たトレントの身体を見せてくれないか?」
「はい?それは別に構いませんけど、何をなさるので?」
「もしかしたらエルダートレントとトレントの見分けがつけられるかも、と思ってさ」
「本当ですか?」
蒼一の発言にブリ雄は驚いた表情を浮かべた後、指示された通りに異空間に収納していた解体されたトレント達を取り出し、山のように積み上げる。
「やっぱり、死んでしまうと情報がかなり欠如してるな」
「それは分からないかも知れない、という事ですか?」
「いや、無くなってるのは恐らく生命活動に纏わる情報だ。命が失われてもこうして残ってる肉体の情報に関しては失われていない筈だ」
そして蒼一が欲している情報はそんなトレントの肉体に含まれる情報であり、その情報に関して蒼一は心当たりがあった。
「…………見つけたぞ。コイツが一番若いトレントで、こっちが一番歳がやってる奴だ」
「判別出来る情報を見つけたのですか?」
「あぁ、俺が飢饉に陥ってたブリ雄達を助ける為に木の実で色々と実験してたのは覚えてるよな?」
「勿論です。あの事を私が忘れる訳が――なるほど、そういえばトレントも植物のようなものでしたね」
蒼一が一体何を手掛かりにトレントの樹齢を見分けたのか、木の実の話を出されたブリ雄はその答えに気が付いた。
その答えとは蒼一が木の実の情報を改竄した時に偶然発見した"生育度合い"の情報であった。
トレントもモンスターとはいえ身体を構成する要素の中には植物も含まれており、そこからどれだけ成長してきたかの情報を見つける事が出来れば、後は狩ったトレントの中で一番樹齢を重ねたトレントを基準としそれ以上に樹齢を重ねた情報を持つトレントを探していけばいずれはエルダートレントに辿り着ける筈であると、蒼一はその情報を頼りに探索を再開するのであった。
因みに"生育度合い"の情報を弄ればエルダートレントになるんじゃないか?。
という疑問を抱いた方もいるかもしれませんが、蒼一が初めて木の実の"大きさ"を改竄した際、変わったのは大きさだけで質量が伴わなかったように、蒼一の改竄能力で書き換わるのはその情報だけであり、他の部分の情報に関しては据え置きになります。
ですので蒼一の能力でトレントを成長させようとしても歪な成長にしかならず、とてもじゃないですがエルダートレントと呼べるような存在にはなりません。
だから蒼一とブリ雄はそのような真似をしませんでした。
ついでに筆者目線のメタ発言をすると、生物に対して蒼一が始源を改竄目的で直接ぶち込んだ場合、相手は高確率で死に至るか、良くても重大な後遺症が残ります。
蒼一はまだそこまで始源の扱いに関して熟達してないので碌な事になりません。




