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森の中に潜むモノ

その後、倒したモンスターから作成した弾丸の威力、有効射程などを調べている内にそれなりの時間が経ち、二人は検証を一旦止めて当初の目的地である森へと移動する。


「うーん、凶悪なモンスターが居るっていうからどんな魔境かと思っていたのに、こうして見ると森なんて何処も変わんないな」

「まぁ、森ですからね。生えている木の種類が違う事を除けばどこも似たような感じでしょう。後は木々の間隔が広いくらいですか」

「そういや、確かに孤島なんかの森と比べると全然密集してないな」


多少のばらつきはあれどそれぞれの樹木は一メートル間隔で離れており、視界や動きを遮る障害物が密集していないというのは人間にとって有難い事だが、それはモンスターの側も同様でこの森には他の森では見られないような大型のモンスターが多く生息しており、その道においてベテランの人間でも迂闊に踏み込めば命は無いと言われる程の危険スポットであった。


「俺としては密集してくれた方がコッソリ近づけて楽なんだけどねぇ。視界とか世界(オレ)には関係無いし」

「でも木々が密集していたらその分一度に流れて来る情報量も多くなるでしょうし、蒼一様としてはそちらも嫌なのでは?」

「そりゃ必要以上に負荷が掛かるのは好きじゃないけど、それくらいなら許容範囲だよ。肉体に意識を割いてるおかげで処理能力も落ちて楽になったし、第一俺はあのほぼ森しかない孤島の中で二ヶ月以上過ごして来たんだぞ?今更木の情報が千本、万本生えて来たところでへっちゃらだっての」


そう言って胸を張る蒼一だったが、現在の蒼一の知覚範囲では木々が密集していたところで一度に近く出来るのは数百本程度であり、本当に千や万を超える木々の情報が流れてきたらまず間違いなくパンクするだろう。

それをブリ雄は漠然と"無理だろうな"と理解しながらも、敢えて口に出すような真似はせず二人は森の奥へと進んでいく。


「それで今回のお目当ての物は一体何なんだ?。教えてくれないと俺も探しようが無いんだけど」

「それに関してですが……恐らく蒼一様ならばそれを見つけた時、私にその正体について質問してきますよ」

「なんだそりゃ?」

「まぁお楽しみはそれを知覚した時に、という事で」


はぐらかされた蒼一は唇を尖らせつつもしっかりと周辺に気を配り、モンスターや怪しいものが居ないかに意識を向ける。

基本的に他の森と比べて開けている事、樹木の一本一本が太く立派である事を除けば普通の森であり、これといった物は近く出来ない。

定期的に引っ掛かる不運なモンスターを狩りつつ、二人が森を奥へ奥へと進んでいたその時だった。


「んん?」


近くに引っ掛かったその情報に蒼一は一瞬混乱し足を止める。

それは周囲に並ぶ木と似通った情報を持つ何かだったが、しかし蒼一の知覚ではその何かは他の木と比べても違和感があり、そちらに意識を集中させる。


「どうしました?」

「いや、なんか妙な木があるもんでな」

「あぁ、やっと見つかりましたか。案外奥深くまで行かないと遭遇しない物なのですね」

「うん?もしかしてブリ雄が言ってた奴ってこの木なのか?」

「はい、正確に言えばウォーダー、今ではトレントと訳されたモンスターです」

「トレント……だからか」


通りで木に似通っているのに何かが違う訳だと、蒼一は改めてそれがウォーダーもといトレントであると理解した状態で意識を集中させてみると、他のモンスター同様核らしき情報の塊が存在する事に気が付いた。


「核があるな、やっぱりモンスターで間違い無さそうだ」

「ではそちらに向かいましょう。通常であればトレントを見つけるのは非常に苦労するのですが、流石蒼一様です」

「……それより、トレントを探してたって事はブリ雄の杖はトレントから作るのか?」


その賞賛の言葉がむず痒かったのか、蒼一は誤魔化すように話題を変え、ブリ雄もそれに乗っかり話を進める。


「はい、ただトレントを素材に選んだのは杖の素材としては勿論ですが、一番の理由は蒼一様の好物が関係あるのですよ」

「え?俺の好物?」


ブリ雄の言葉に蒼一は目を丸くして聞き返す。

ブリ雄の杖の素材と蒼一の好物がこの森にあるというのは前日にも説明されてはいたが、まさかトレントを狩りに行こうとしてるタイミングで自身の好物に関しての話は出てくるとは蒼一も予想していなかった。


「トレントが俺の好物……?」


一体どういう事だと蒼一は頭の中でその言葉を反芻させる。

樹木(トレント)から食べ物を連想しようとすれば樹液や木の実くらいしか思いつかず、それらが好物かと言われると首を横に振るしかない。

そうこう蒼一が頭を悩ませていた時、蒼一の一歩前を歩いていたブリ雄が蒼一の動きを制するように手を横に広げて足を止める。


「蒼一様、知覚の端に捉えたという事は蒼一様の知覚範囲的にそろそろ視界に入っても可笑しくないと思うのですがどうでしょう?」

「あぁ、えっと」


ブリ雄からの問いに蒼一は思考を中断して前方へと意識を向ける。


「指差しなどはしないで下さい。あちらに私達が気付いている事を悟られないようにお願いします」

「分かった、となると今俺が身体を向けている方向にある木の二本後ろに生えているのがそうだな」

「あれですね……では」


そう前置きするとブリ雄は瞬時に杖を構え、速度重視で魔術を構築し三つの風の刃が魔方陣から飛び出すと間に生える邪魔な木々を避けるように広がり、三方向から標的目掛けて飛来しその身体を貫いた。


「ギィェェェェ゛ェ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


凄絶な断末魔をあげながら視界の奥で樹木が地面に倒れ伏すのが見え、その光景に蒼一は頬を引き攣らせる。


「なんか、トレントっていうよりはマンドラゴラって感じの絶叫だったな」

「ただ煩いだけの悲鳴ではありませんよ。トレントがやられたという事はつまり擬態が見破られたという事ですからね。今の悲鳴を聞き届けた他の個体は遠くに逃げてしまっているでしょう」

「じゃあこんな所でくっちゃべってないで逃げられる前にアイツを回収して追いかけた方が良いか?」

「そう急く必要はありません。トレントの移動速度は基本的に人間の足よりも遅いですし、短時間ではそう遠くまでは移動できませんよ。である以上は蒼一様の知覚からは逃れられないでしょう」


そんな事を話しつつ、二人は倒れ伏したトレントの元までやって来るとブリ雄はトレントの一際太い根っこを魔術で切り落とすと厚い樹皮をナイフで引っぺがしていく。


「何してんだ?」

「蒼一様の好物を取り出しているのですよ……どうぞ、そのまま召し上がって下さい」


そう言って差し出された物を手で受け取った蒼一は剥がされた樹皮の奥にあったそれを見て目を丸くする。

それはほんのりとしたピンク色を持つ肉だった。


(トレントに肉?いや、生物なんだから肉があっても可笑しくは無いんだろうけど)


微妙に自分のイメージとは違う事に首を傾げつつも、蒼一は好物と言われて差し出された肉に視線を落とす。


「確かに俺は馬刺しとか肉寿司とか、生の肉を好んで食べるけどさ。それは店で出される物だからであって流石の俺も自分達で狩った物をその場で頂く勇気はないというか……」

「大丈夫ですから、一口食べて見て下さい」

「えぇ……」


ブリ雄から強いプッシュに蒼一は躊躇いを見せながらも、ブリ雄がそこまで強く言うのならきっと大丈夫なのだろうと意を決して手元の肉に齧りつく。


「んっ!?」


噛み締めた時に感じたのは生肉の瑞々しい食感ではなく、ある程度の水分が抜け弾力を得たもっちりとした食感、樹皮の裏にあったからか僅かに木の香りが付いたその肉は生肉で在って生肉に非ず、それを口にした蒼一は自然とその答えを口にする。


「……生ハム?」


燻製チップとはまた違うが木の香りとその食感はまさしく生ハムであり、特に生前蒼一が良く好んで買っていたのはプロシュートではなく燻製するタイプの生ハムだったので、燻製されてはいないものの独特な臭みも無く木の香りが付いたこの生ハムは間違いなく蒼一好みの代物だった。

一口目を処理するように飲み込んでしまった蒼一はもう一度生ハムに口を付け、今度はしっかりと味わうように噛み締める。

当然だが調味液に付けたりしている訳では無いので塩気などは殆ど感じられないが、不思議と噛み締める程に何ともいえぬ肉の旨味が滲み出し、その美味さに口に残った生ハムを飲み込む前に残った生ハムに齧りつき、今度は口いっぱいにそれを頬張る。


「比喩で生ハムの原木とは言うけどさ、これはマジで生ハムの原木だな。しかも調理の類は一切されてないのに滅茶苦茶美味いし、流石ファンタジー」

「全てその言葉で済ませるのもどうかと思いますが、ちなみにこのトレントはまだ若木ですので、エルダートレントともなると肉も熟成してもっと美味しいらしいですよ?」

「……これよりも?」


ブリ雄の言葉に蒼一は手元ある生ハムへと視線を落とし、これよりも美味いとされるエルダートレントの生ハムに思いを馳せゴクリと生唾を飲み込む。

それを知ってしまっては蒼一は居ても経っても居られず、残った生ハムを一口でいくと勢い良く立ち上がる。


「よっしゃあ!エルダートレント狩りに行くぞブリ雄!」

「そう仰ると思いましたよ。私も杖を作るならトレントよりもエルダートレントの方が良いと思ってましたからね」


そうと決まれば善は急げと、蒼一とブリ雄は手早くトレントを解体すると異空間に放り込み、テンチェンド森の更に奥深くを目指すのであった。

管理神が"ウォーダー"を"トレント"でなはく"生ハム原木"と訳す未来も一瞬頭を過りましたが、流石にそこまでポンコツではないだろうと普通に訳しました。

もしそうなってたら"エルダートレント"は"高級生ハム原木"とかになってたでしょうね。

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